ワイルドナイツの申し子。エセイ・ハアンガナは怪我もバネに成長中。
海外の隠れた才能を育てる。埼玉パナソニックワイルドナイツがしてきたことのひとつだ。
現在のレギュラーメンバーには、練習生契約からスタートして日本代表となったオーストラリア出身者をずらりと並べる。
FLのベン・ガンター、NO8をはじめ複数ポジションをこなすジャック・コーネルセン、CTBのディラン・ライリーがそうだ。
この面々が日本出身の大物、世界的名手と一枚岩を築き、一昨季まで国内タイトルを2連覇。昨季も国内リーグワンのプレーオフ決勝に進んだ。
近年のワイルドナイツを象徴するひとりに、エセイ・ハアンガナがいる。
身長198センチ、体重120キロの25歳。激しいLOだ。
2学年上のライリーと同じく、20歳以下オーストラリアに選ばれた実績を持つ。スーパーラグビーのレベルズにもいたことがある。
2020年に「新しい文化を経験したかった。日本が最適だと感じました」とワイルドナイツへ加わってから、在籍歴の長い先輩に多くを学んだ。
日本代表として4度のワールドカップ出て、今季限りで引退するHOの堀江翔太からは、接点、攻撃に関する細かい技術を教わってきた。
さらに身長178センチにして日本代表となった布巻峻介からは、小兵とのマッチアップでハイタックルの反則を犯さないための作法を伝授された。「コンタクトの瞬間、低い姿勢になること」だ。
「ラグビーIQの高い選手がたくさんいるなか、自分のゲーム理解度は増しました。また、プレーの幅も広がりました」
進歩のきっかけは怪我からも掴む。
今年2月4日、「クロスボーダーマッチ2024」の一戦に先発。埼玉・熊谷ラグビー場でニュージーランドのギャラガー・チーフスを38―14と下すなか、前半37分に退いた。右肩を亜脱臼した。
本人は「フィジカルを長所にアタックしていたら、故障してしまった」と反省。雌伏の期間は、怪我の予防とハイスペック化の両立を目指した。
4月のレギュラーシーズン終盤戦で復帰してからは、ボールをもらう時の動きにバリエーションをつけているような。
パスをもらって防御の壁にぶち当たるだけではなく、パスをもらう前から人垣の隙間へ走り込むこともある。迫るタックルをかわそうともしている。
「直線のコンタクトだけではなく、スペースを攻めることも意識するように。まずコーチ陣とのレビューで、自分をよりよくできる点を挙げてもらいました。そして課題に取り組んだ結果、そのようなキャリー(突進)もできるようになりました」
オフフィールドでは、「いま、少し、勉強しています」と日本語で話す。インタビューでも、質問者の意図は通訳がなくともある程度はわかるようだ。
「毎週、(専門の教師から)レッスンを受けていて、それが活きています」
関係者によると、約9年ぶりに再登板して「超速ラグビー」を謳う日本代表のエディー・ジョーンズ新ヘッドコーチは、外国人が日本語を覚えるのをよしとしている。
ハアンガナは、近く代表資格を得られるよう行動している。
「日本代表には入りたい。そこでプレーできるのは価値あることです。ジャパンの素早いラグビーに自分のフィジカル、パンチ力を加えられたら嬉しいです」
5月18日からは都内でリーグワンのプレーオフに挑む。今年度のレギュラーシーズンを全勝で首位通過したクラブにとって、王座奪還に欠かせぬインパクトプレーヤーだ。