強豪校を出ていなくてもリーグワンで戦える。ブラックラムズ西川大輔が示す夢。
ラグビーで人生を切り開いた。
「はい。感謝しています」
リコーブラックラムズ東京の西川大輔がいましているスポーツに初めて触れたのは、地元である愛知の豊明高に入った頃だ。
最初は中学時代からの流れで野球部に入ろうとしたが、いざ門を叩けば「何か…」と違和感を覚えた。するとちょうど、ラグビー部の顧問から熱心に誘われた。父やいとこが競技経験者だったのもあり、楕円球そのものには馴染みがあった。決断した。
豊明高のクラブは、部員数が常に15名前後だった。ゲームを成立させるぎりぎりの線を保っていた。
「最初は同級生も10人くらい入ったのですが、3~4か月くらいで何人かが辞めてしまう」という西川にとっては、15人制の全国大会予選へ単独チームで挑むのも大きな目標だった。最後の年にそれを叶えるには、「バスケ部とハンドボール部」から部員を借りるしかなかった。
その調子だからか。チームで司令塔のSOを任されながら、人生が現在のようになるとは想像すらしていなかった。
ひとまず現役生活を延ばすことになったのは、進級後に受けた愛知県選抜のセレクションで「2次選考」あたりまで進めたためだ。まもなく中京大からスポーツ推薦の話をもらった。ラグビーを続けるのを条件に大学へ通えるなら、悪い条件ではなかった。
東海学生リーグ加盟の中京大では、在学中に全国大学選手権に出場することができなかった。何より自身も、SOよりひとつうしろのCTBでキャリアを重ねるなか「中京大のレベルでさえ高いと感じていました」。社会に出る前にスパイクを脱ぐつもりだったが、周りが放っておかなかった。
自己評価とは裏腹に1年目からレギュラーとなり、3年時にはニュージーランドに留学。運動量とサイズで知る人ぞ知る存在となったからか、はたまた大学の中本光彦監督が後押ししてくれたおかげか、旧トップリーグからリーグワン1部参入を目指していたブラックラムズに練習参加を打診された。
二子玉川の専用グラウンドへ出向くと、視界が広がった。
チームトレーニングが始まるより1時間以上も早くから身体を温める選手がいたこと、レビュー用にスタッフが練習の動画を撮っていること、ポジションやタスクごとに専門のコーチが揃っていること、そのすべてが新鮮に映った。
「こんなにレベルの高いラグビーがあるのか…と驚いて。ミーティングでさえ、ウォーミングアップでさえ違う」
日本トップレベルの育成環境に身を置いたら、自分はどこまで成長できるだろうか。興味がわいた。
道を定めた。
自分が有名になれば、強豪校以外にいる若者がトップを目指すきっかけを作れるのではと考える。競技人口の低下と部員不足に悩むクラブの増加が課題とされているいま、こう言葉を選ぶ。
「僕を試合で見た人が(記録などで)出身の高校名を見ると、『どこだ?』となる。それで、皆が『こういう選手も行けるんだ』とリーグワンを目指してくれたら。中学生が強い高校を選びたいのは当たり前です。ただ、高校から(ラグビーを)始める子は、僕を目標にしてくれたら嬉しいです」
入部4季目を迎えている。
前年度は故障もしていないのに出場機会が制限されたのが悔しく、プレシーズンから暮らしぶりを改めた。鍛錬の質を見直し、食が細かったのも正した。
「チームの人たちに助けてもらってウェイトトレーニングの量を増やし、ご飯を普段から300グラム、試合前なら400グラムは摂るように。結構、頑張って食べています」
おかげでシーズンイン後もコンタクト力を落とさず、加盟する1部が第11節を消化するまでに8度の出番をもらっている。
身長184センチ、体重93キロ。ここでの働き場はWTBに定める。グラウンド端側で走りながらキックを蹴られるようになり、プレーの幅を広げる。
直近の公式戦には3月24日、東京・秩父宮ラグビー場で臨んだ。目下2位の東芝ブレイブルーパス東京に迫った、一時は33-33と同点に追いついた。
ブレイブルーパスが複層的なシステムを組んで接点の手前側、奥側へと自在に展開するのに対し、ブラックラムズの防御網は首尾よく対応。パスの軌道に沿い、横一列のラインをせり上げた。前節で大外の穴を破られたのを反省し、組織面を修正していた。
しかし最後は、33-40で惜敗。シーズン3勝目はお預けとなった。
フォーカスポイントの防御では、スターターの西川がわずかに列から飛び出す瞬間があった。その際、相手のリッチー・モウンガのパスダミー、ランに翻弄された。それは14分の失トライのきっかけとなった。
昨秋までニュージーランド代表のSOだったモウンガは、泥臭くもあった。
ブラックラムズがブレイブルーパス陣のゴールエリアへ蹴った際、そのボールの行方を先回り。弾道を追っていた西川に先んじ、捕球した。
さらには西川に迫られながらも体勢を立て直し、タッチラインの外へ出ずに切り返した。ピンチを脱した。
逆にチャンスをつかめなかった側は…。
「リアクションの速さが彼のスーパースターたる理由というか…。派手なプレーもするけど、ハードワークもする。見習うべき点です」
リーグワンでは、各クラブに強豪国代表のビッグネームが揃う。世界レベルのプレーヤーが倒すべきライバルとなっている現状について、愛知出身の26歳はこのように語る。
「このリーグでしか経験できないこと。率直に嬉しく思います」
とはいえブレイブルーパスのモウンガも、東京サントリーサンゴリアスのチェスリン・コルビも、ひいてはトヨタヴェルブリッツのアーロン・スミスも、ただ憧れの対象として見上げるつもりはない。
「(事前に両軍の)メンバーが発表された時に『お』とはなります。ただ、試合をやる時は(相手が誰であれ)一緒。チームの勝ちに自分どれだけがコミットできるかを考えます」
レギュラーシーズンの佳境に突入する。4月6日、本拠地の東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場での第12節にも先発する。順位で5つ上回る5位の横浜キヤノンイーグルスとの一戦で、14番をつける。