目立たぬ仕事で欠かせぬ存在。フランス代表FLフランソワ・クロス
決して派手な選手ではない。しかし必要不可欠な選手だ。
今季のシックスネーションズ開幕戦でアイルランドにチームが圧倒された時も、フランソワ・クロスは陰の仕事に奔走し、タックルを繰り返した。
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続くスコットランドとの2戦目はディフェンスで激しくファイトし、この試合最多のタックルを決め(18本)、あちこちのラックに姿を見せた。前半30分のCTBガエル・フィクーのトライにつながるターンオーバーにも成功した。
49分には負傷退場したキャプテンのグレゴリー・アルドリットに代わって慣れないNO8のポジションに入り、プレーと言葉で味方を鼓舞し続けた。
69分のWTBルイ・ビエル=ビアレのトライも、クロスがスクラムからボールを持って駆け抜けたプレーが起点となった。
大会が選んだこの試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチはフィクーだったが、フランスメディアはクロスを絶賛した。ラグビー紙『ミディ・オランピック』は彼を「マレーフィールドの嵐の中で進路を照らす灯台」と称えた。
クロスを見ていると元フランス代表キャプテンのティエリー・デュソトワールを思い出すことがある。
彼がトゥールーズのエスポワール(アカデミー)からプロチームに上がった時、デュソトワールの隣のロッカーを与えられ、フランカーの仕事について多くのことを教わったという。
シャルル・オリヴォンのようにフィールドを駆け抜けてトライを取るタイプではない。また、アントニー・ジュロンのようにフィジカルで敵をなぎ倒すタイプでもない。
しかしクロスは、3人の中で最もコンプリートなフランカーで、ラグビー通にはたまらない選手だ。
クロスにはラグビー選手以外の顔がある。『ポドロジスト(足病医)』だ。
通常は3年で終了するところを、ラグビーと並行して学校に通っていたため6年かけて国家資格をとった。現在も代表活動期間以外は、週に1度講師として指導に当たっている。
トゥールーズのユーゴ・モラ ヘッドコーチは、ラグビーと並行して学業や職業訓練を受けることを選手たちに強く奨励している。
「ひとつの世界に閉じこもっているよりも、他のことにも関心を持った方が豊かな人間になれる。フランソワ(クロス)は足病医学を終了すると同時に、フランス代表に選ばれた。2つの活動を同時に進行させることで、自分により厳しくなり、集中力が増した」というのが彼の持論だ。
クロスが代表初キャップを得たのは、2019年8月のワールドカップ(以下、W杯)前のスコットランド戦だった。しかし最終スコッドには選ばれず、来日することはできなかった。
この時の悔しさを胸に、4年後の自国開催のW杯を目指しさらにトレーニングに取り組んだ。
5か月後、ファビアン・ガルチエ体制がスタートした時からレ・ブルーの第3列に定着し、W杯出場(2023年)の夢をかなえた。
しかし大会ではフラストレーションが残る結果に終わった。
「真っ白なページから再スタートするために、まずこのシックスネーションズに参加したかった」と話し、この3月で30歳になるタフガイは、4年後のW杯も目指しているのだろうか。