ライナーズ奮闘及ばずのわけを指揮官はどう見る? イーグルスがつかんだ「自信」とは。
花園近鉄ライナーズは変わりつつある。ウィル・ゲニアは言い切る。
「グループとしては、上手になっています」
オーストラリア代表110キャップのSHが、入団して5年目となるクラブの進歩を語る。今季、強敵にしがみつく傾向が高まったからだろう。
国内リーグワンで1部に昇格して臨んだ昨季は、レギュラーシーズンわずか1勝で12チーム中最下位と苦しんでいた。
今季も開幕3連敗中だが、初戦では前年度10位の三菱重工相模原ダイナボアーズに29-30と肉薄。続く第2節では、一昨季まで国内2連覇の埼玉パナソニックワイルドナイツに前半を0-8で折り返した。最後は寄り切られる形で0-49と屈するも、鋭く前に出る防御が相手のミスを誘うことはあった。
成長を勝利で証明したかった第3節は12月23日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場でおこなわれた。
対するホストの横浜キヤノンイーグルスは、先のプレーオフで初の3位と躍進していた。ライナーズがスコア上の爪痕を残すシーンは、後半開始早々にあった。
12-26と14点差を追うなか、中盤の接点でペナルティキックを得た。敵陣22メートル線付近左のラインアウトから、連続攻撃を仕掛けた。前半にも複層的なラインでイーグルスの飛び出す防御の虚をつくことがあっただけに、期待感を膨らませた。
この流れを引っ張ったのは、名手のゲニアだ。
フェーズを重ねて敵陣ゴール前左へ進むと、接点の脇のスペースを突っ切った。左側に並ぶ、FW陣をおとり役にして自ら駆け上がった。次のフェーズでは球出しを誤るも、4分にはペナルティトライに恵まれた。19-26と迫った。ゲニアの述懐。
「特に上位チームと戦う時は、勢いを出さないといけない。その時は運よく、勢いを出せたんです」
対するイーグルスのSHで南アフリカ代表55キャップ、ファフ・デクラークはこうだ。
「リーダーとしても活躍する素晴らしい選手と対戦するのは、いつも楽しみです。ラック周り(の攻撃)が危険な選手なので、(自身は)早くセットする必要がありました」
アウェーチームの反撃は、及ばなかった。26-66。デクラークもゲニアとのマッチアップについて、「彼を脅威だと思ってプレビューしていたので、(全体的には)その脅威を削れたと思っています」。ライナーズは総じて、蹴り合い、スクラム、好機での自軍ボールラインアウトで後手を踏んでいた。
相手に攻撃権を渡すペナルティの数はイーグルスが「7」でライナーズが「14」。敗れた向井昭吾新ヘッドコーチは、潔かった。
「向こうのプレッシャーに負けて、私たちが慌てたプレーをしてしまって、気が付いたら得点が開いていたというゲームでした。あれだけペナルティが多ければ自分たちのリズムは作れない。またマイボールのセットプレーの安定は重要。一番大事な時にマイボールが来るよう、修正したいです」
ワイルドナイツ戦から、中盤まで懸命に戦いながらも最後に突き放される展開が続いている。
その要因と解決策は。イーグルス戦の直後にそう聞かれ、かつて日本代表を率いていた向井は端的に答えた。
「きょうの試合(イーグルス戦)はまだ(直後とあり詳細な)レビューができていないのでわかりませんが、前回はアタックする時間でいうと、相手が20分なのに対してうちは13分くらい。それが同じくらいの時間になれば、得点はそれほど大きく開かない。アタック時間が短くなる理由は、ペナルティ(の多さ)です。また追いかける状況になった時、自陣から厳しい状態でアタックをしてしまい、向こうのプレッシャーにかかる…という、エリアマネジメントとアタックがアンバランスな状況が起きている。きっちりエリアを取り、自分たちの武器が(敵陣ゴールラインに)届くところで勝負できるようになれば、ゲームは作れる。代わった(後半に交替出場した)メンバーも同じようにできるよう、鍛えていきたいです」
WTBの片岡涼亮ゲーム主将もうなずく。
「敵陣でラグビーをしている分にはトライも獲れていた。ただ、攻め出した時にペナルティをして、自陣に入られてトライを獲られて…が繰り返された時に、点差を離れている。エリアを獲り、ディフェンスでがまんして、ボールを奪い返すという流れをもっとできていれば。試合には、練習でやったことが全て出ているので、練習の精度と質をもっと上げたいです」
またライナーズが光ったハーフタイム前後の時間帯は、イーグルスにとって「中だるみ」の時間帯だったとCTBの梶村祐介主将は言う。その瞬間、同僚を叱咤したようだ。
「スイッチを入れろ!」
件のペナルティトライの際は、ゲニアのグラウンディングしようとする球に足が当たってしまったHOの庭井祐輔がイエローカードをもらっていた。
しかしその状況で、イーグルスは加点した。
数的不利を覆したのは、個と組織のシンクロだ。デクラークのキックとそれを追うチェイスラインがじわりと圧をかける。
ライナーズの蹴り返しを受けたイーグルスのFB、小倉順平が、自陣から駆け上がってふわりと球を浮かせる。その周囲でライナーズの反則を引き出し、敵陣中盤より向こうでFWが計2つ、モールを組む。
ひとつめでライナーズのオフサイドを招き、ふたつめは前に進めるさなか普段はそこへ入らない梶村、ジェシー・クリエルの両CTBが塊へ入る。
まもなく、イーグルス側から見てのスコアを33-19とした。
クリエルは、担当の遠藤哲アシスタントコーチの名を挙げて言う。
「モールが機能していた。(好機では自分たちも)入ろうと梶村と話していました。遠藤さんのおかげ」
開幕からの2戦、イーグルスはモールでスコアを奪えなかった。ライナーズ戦に際し、沢木敬介監督は試合前にFW陣へ発破をかけた。
「きょう、モールでトライを獲れなかったら、今シーズンはもうモールを組まない!」
果たしてこの午後は、そのパターンで計5つのトライを生んだ。ラインアウトの捕球役が後ろを向いて腰を落とし、上腕で味方を引き寄せる。その左右を固める選手が、相手が塊を割ろうとするのを防ぐ。後ろにつく面々は背筋を伸ばして足をかき、適宜、進路を変えながら前進する。
新加入したオーストラリア代表31キャップのLO、マシュー・フィリップは「モールのタクティクスはどこのチームも似たようなものです。(成否を分けるのは)やる気。しっかりやって、結果が出ると、さらにやりがいが出る」。沢木もうなずく。
「きょうで自信がついたと思います。細かいところの修正はやっていかないといけないですけど、FWのメンタルの部分の強さ、必ず獲るという執念みたいなものを感じた」
イーグルスはこれで2連勝。指揮官は「改善できるポイントはたくさんある」と総括した。この日は序盤にスコアチャンスを逃したこともあり、新たに導入した前に出る防御も発展途上だと実感した。もっとも、伸びしろを残しながら勝ち点を確保できたとあり、「課題が見つかって、(より)チームとして成長できる」と先を見据える。