ブレイブルーパス新入団のジャック・デンプシー。初陣は近い?
その場所に、ぴったりの人材がやって来た。
伝統的に激しさを売りにする東芝ブレイブルーパス東京改め東芝ブレイブルーパス武蔵へ、今季からジャック・デンプシーが加わる。身長191センチ、体重111キロの32歳。すでにチーム練習に参加済み。早々に衝突で強みを発揮しているようだ。
FWコーチから内部昇格したジョシュア・シムズ新ヘッドコーチに、冗談まじりに言われる。
「練習が始まってまだ数週間ですが、すでに複数の選手から『ジャックが強すぎて怖い』というクレームが入ってきています」
本人はときめく。
「選手、コーチングスタッフに温かく迎えてもらい、うまくなじめています。加入後すぐジョシュアに伝えたことですが、私が初めてプロとしてプレシーズンを過ごした18歳の時を思い出します。東芝の厳しい練習も、身をもって実感しています」
チームはジャパンラグビーリーグワンで一昨季まで2連覇も、前年度は12チーム中6位と停滞。長らくプレーした複数の海外戦士が退団するなか、新しくやって来たひとりがデンプシーだ。
母国のオーストラリア代表で14キャップを獲得したうえ、2022年から加わったスコットランド代表でも35キャップを手にしている。各国で請われたフィジカリティを、日本きっての名門でも発揮したい。新天地では、おもにFW最後尾のNO8での起用が見込まれる。
「自分の強みはボールを持った局面での働きです。コンタクト、接点を圧倒し、その後ろに控えているいい判断のできる選手、走れる選手にスペースを作り出したいです。そこを期待されて獲得していただいたとも考えていますから」
以前から来日したかった。オーストラリア代表時代の2019年にワールドカップ日本大会に参戦。「文化、食事、人に魅了された」という。
ブレイブルーパスがよく使う、東京・秩父宮ラグビー場にもなじみがある。自国のワラターズの一員として国際リーグのスーパーラグビーに臨んでいたころ、秩父宮で日本のサンウルブズとぶつかっていたからだ。ブレイブルーパスからのオファーを受けるのは、簡単な決断だった。
注目されるのは代表とチームの両立だ。
リーグワンのレギュラーシーズンは12月から翌年5月まであるため、2、3月にスコットランド代表が参戦する欧州6か国対抗戦(6N)へデンプシーが出ることはない。他方、開幕前の11月にあるネーションズチャンピオンシップ(NC)の後半戦へは虎視眈々と準備。その期間中には日本代表とも対戦するだけに、ブレイブルーパスのセッションで学んだことを活かしたいと笑う。
「本当に単純に優先順位で最上位にあるのは東芝です。むしろ秋の代表メンバーになれば、東芝はプレシーズン中であっても送り出してくれます。それだけで感謝しています。6Nの時期は所属クラブのために力を発揮します。そこにグレーゾーンはありません。(日本のラグビーは)とても速い。またここ5~7年でフィジカリティが上がっている。これだけ低く、アグレッシブにタックルに入る国民は他にいません。これからスコットランドで日本代表を倒す準備に入りますが、日本人のタックルの仕方、癖、対処法について、チームメイトに共有していきたいです」
出場すれば自身3度目となるワールドカップ(W杯)は、来年10月にオーストラリアで開かれる。母国の大会へ異国の代表として出られる可能性について、落ち着いて言葉にする。
「ラグビー選手であれば、W杯でプレーすることを目標にします。来年もし出られたら、その時点で33歳です。自分にとって3度目のW杯をスコットランド代表としてオーストラリアで出られたら、これ以上にない願いが叶うこととなります。ただ、それは自分だけでコントロールできることではありません。(スコットランドの)協会やクラブなどの話し合いが済み、最終的に選ばれれば、母国でのプレーを楽しみたいです」
1880年代に活躍したアメリカの名ボクサーに、ジャック・デンプシーがいる。異国のレジェンドと同姓同名に映るラグビー界のデンプシーは、ボクシング関連の質問を受けてある逸話を明かす。
「母が私を妊娠している時に伯父と同じジョンという名前を付けようとしていました。ところが予定より1か月早く未熟児として生まれてしまい、保育ケースのなかで目の周りが殴られたように黒かったようです。それを見た父が『ファイト後のボクサーみたいだ。そういえば苗字もデンプシーだし、家族はジャックと呼ぼう』と。誰も自分のことをジョンと呼ばないですが、正式にはジョンです」
9月28日に都内で会見した。本人が意気込みを語りきったところで、クラブの代表取締役社長兼ゼネラルマネージャーである薫田真広が報道陣に混ざって挙手。デンプシーの隣に座っていたシムズに、この趣旨で誘い水を向ける。
「10月17日に埼玉パナソニックワイルドナイツとのプレシーズンマッチがあります。ジャックはプレーできますか」
現場のボスはうなずく。
「はい。40分×3本で120分の試合です。けが人以外は出す方針です。ジャックに関しては自分が選ぶからでもなく、会社の指示でももちろんなく、本人が『俺、出るから』というので出します。ゲームを通し、彼の心身両面でのコミットぶりを見ていただけると思います」
場所は本拠地の東芝府中グラウンド。ファンは早速、日本のデンプシーのファイトが見られる。



