【ラグリパWest】勇気を呼ぶ男。石井勇輝 [レッドハリケーンズ大阪/FL]
ひょろっとした感じでも先頭を切る、切れる。それが石井勇輝だ。
レッドハリケーンズ大阪に<勇気>を呼ぶ。石井のようなラグビー選手は多くない。
3月27日、FLとして先発する。略称「RH大阪」は九州KVと戦った。リーグワンのディビジョン2(二部)である。
後半11分、ラインアウトからパスを受ける。インゴールから一直線。184センチ、96キロの体をぶち当てる。「ガツッ」という骨と骨が激突した音が響いた。
「ぶつかるのは得意です。怖くありません」
この30歳がひるむことはまったくない。
石井のタテから、赤いジャージーのRH大阪はキックで窮地を脱した。
「ただ、あのあと足がつりました」
建設現場の親方のように日に焼け、笑うと目が線になる。出身は関東も、オチをつけるあたり、関西になじんだか。
この一撃はコンバートの成功をも物語る。昨季、石井はWTBだった。チームの採用担当、秦一平は説明する。
「このシーズン中にFLになりました」
BKからFWへの移動もなんのその。この日、石井は一筋の光明になった。RH大阪は24-31でホーム戦を落としている。
コンバートの理由はある。FW第三列にケガ人が多く出たことやFL花田広樹がシーズンのさなか、脳震とうの影響で現役引退したこともあった。
ある日、知らないうちにメンバーボードの石井の名前はFLに移っていた。事後確認で箕内拓郎に問われた。
「どうや?」
チームの危機に我を通さない。箕内はOBのアシスタントコーチ。現役時代はNO8として日本代表キャップ48を得た。
年を経て、こだわりが削がれる。
「試合に出られればポジションは関係ありません」
ここまで11戦中8試合に出場した。先発2、入替は6。昨季の出場は4試合だった。コンバートは成功している。
その石井は移籍組だ。RH大阪で過ごすのは3季目になる。以前は同じNTTグループが保有する浦安DRにいた。チームの再編があったのは2022年。RH大阪は社員、浦安DRはプロ中心になった。1年遅れの移籍は石井が7人制日本代表だったことによる。
通称「セブンズ」で、石井は2024年のパリ五輪を目指していた。
「再編の時にチームにいませんでした」
セブンズに専念させてもらっていた。2022-23のセブンズのシーズンは共同主将として11キャップを手にした。
その2022年の12月、ヘッドコーチ(監督)についたサイモン・エイモーに外される。
「君はセブンズに合っていない」
選手の招集や起用は監督に任されている。石井は受け入れざるを得なかった。
浦安DRに戻る。
「2年ほどチームを離れていたので、知らない選手が多かったです」
プロの不安定さにも考えが及ぶ。
「志向は高くありませんでした」
そんな石井の気持ちを汲み、当時GMだった内山浩文が動いてくれた。
内山はRH大阪へ社員選手としての移籍の道筋をつけた。
「例外でした。内山さんに感謝しています」
本来は同じグループ内の移籍は禁じられている。ただ、チーム再編時にセブンズにいたことが考慮され、特例として認められた。移籍の発表は2023年の8月だった。
浦安DRの前身はNTTコミュニケーションズである。石井が新卒入社、そして入部したのは2018年4月だった。リーグワンの前のトップリーグ時代である。その初年度、チームは最高タイの5位に入る。順位を決めた試合を石井は今でも忘れない。
決定戦でパナソニック(現・埼玉WK)を43-41と破る。逆転勝ちにつながるトライを挙げたのは石井だった。
「これまでラグビーをやってきた中で、一番うれしい出来事でした」
SO小倉順平の内にWTBの石井が入る。瞬間の速さで歓喜を引き寄せた。
そのNTTコミュニケーションズには東洋大の時にトライアウトに呼んでもらった。チームは当時、関東リーグ戦の二部だった。
「奇跡的に苦手なパスが全部成功しました」
石井は運も持っている。東洋大の入学もまた練習参加で勝ち取っていた。
東洋大へは東京の日体荏原から入った。この高校で入学後に競技を始めた。父・真(まこと)の「なにか部活をやれ」に従う。高3時の全国大会予選は93回(2013年度)。1回戦で都立東に0-27で敗れている。
その慣れ親しんだ関東を出て、石井は今、関西で生活をしている。
「人の波長が合いますね。はっきりものを言う感じが自分には合っています」
居酒屋で話しかけてくれるのも悪くない。そこで飲むのはハイボールだ。
「サントリーの角なら1本はいけます」
飲む時ですらラグビー愛を忘れない。
仕事の籍は長距離や国際通信などを扱うNTTドコモビジネスにある。RH大阪を持つNTTドコモから出向中だ。勤務先は大阪・梅田にある関西支社の企画部門だ。
石井はRH大阪が好きだ。
「ラグビーをしながら、社会還元ができているいいチームだと思います」
1年前には本拠地を置く大阪市の全24区と連携協定を結んだ。ラグビーを軸にした地域社会の形成と発展に寄与し続けている。
RH大阪は前11節終了時で8チーム中5位。勝ち点は24である。入替戦出場は消え、残りは3試合になった。
「勝って終わりたいです。個人的には残り試合すべてに出られるようにしたい」
4月25日の日野RD戦は背番号20になった。ベンチスタートでも石井のやるべきことは変わらない。九州KV戦と同じように、体を張り続け、チームを鼓舞してゆく。




