国内 2026.01.06

たった一人の3年生、13分間の花園。聖光学院・須田龍斗

[ 多羅正崇 ]
たった一人の3年生、13分間の花園。聖光学院・須田龍斗
左から父・友宣さん、WTB須田、次男・未来斗さん、母・和恵さん(筆者撮影)

 第105回全国高校ラグビー大会の1回戦。2大会連続3回目の聖光学院(福島)と5大会連続7回目の近大附和歌山の対決は、コンバージョンキックの成否で勝敗が決した。

 近大和歌山は最大13点ビハインドを背負ったが、2連続トライで猛追すると、終了間際の後半29分にFB大西正遥のトライで1点差(17-18)とした。

 最後のコンバージョンキックが決まれば逆転勝利――しかしキックは外れ、聖光学院が18-17で念願の花園初勝利を手にした。

 試合後に「勝ったというより、勝ちをいただいた」と語ったのは、監督昇格1年目の宇佐美和彦監督。立命館大学同期のHO庭井祐輔、FL/NO8嶋田直人らとキヤノンの一時代を築いた元日本代表だ。

 もしもこのコンバージョンキックが入っていたら両軍の運命は変わっていた。

 聖光学院唯一の3年生・須田龍斗が、花園のピッチでプレーすることもなかった。

 聖光学院のWTB須田はこの日体調不良でメンバー外。1回戦で京都工学院に0-112で敗れた前回大会はリザーブに入っていたものの、出場機会はなかった。つまり2大会連続で出場機会を逃し、高校の3年間を終えるところだった。

 しかし、1・2年生の奮闘や逆転を狙った相手のコンバージョンキックなど、いくつもの出来事が重なり、花園2回戦という舞台が須田に巡ってきた。

 迎えた12月30日の2回戦。花園第1グラウンドで対戦した相手は筑紫(福岡第2)だった。その後の3回戦で東海大相模(神奈川第2)に17-33と迫った強豪は強かった。0-72で敗れ、福島県勢8大会ぶりの3回戦進出はならなかった。

 その試合の後半21分。

 背番号25を背負った須田がピッチに投入されていた。

「今日は彼(須田)の集大成でした。3年間がんばってくれたので『花園第一グラウンドでプレーしてほしい』という気持ちで送り出しました」(宇佐美監督)

 筑紫の猛攻の前に、ウイングに入った須田がボールに触れたのは一度だけ。33分40秒過ぎのノーサイドまでの約13分間、夢中でディフェンスを続けた。

「人が多くて緊張しました。タックルも上手くできなくて、悔いが残ります。でも、楽しかったです」(須田)

 須田は中学までサッカー部員だった。父・友宣さんと同様、福島県伊達市の霊山中学のサッカー部に所属した。

 入学が決まっていた聖光学院でラグビーを体験したら、楽しかった。同期は部を離れて一人になったが「やると決めたからには最後までやろうと思っていました」。下級生とも仲が良く「辞めようと思ったことは一度もなかった」という。

 試合後の花園第1グラウンド正面ゲート。父・友宣さんが最初に語ったのは、主軸となった下級生への感謝だった。

「全国大会まで連れてきてもらって嬉しいですね。今年の1、2年生がいなければ息子はここに来られなかったので」

 昨年に続いて、今年も花園に一家が集った。母・和恵さん、離れて暮らす長女と次女、そして次男の未来斗(みくと)さん。前回大会は出場機会のなかった長男が花園第一グラウンドを駆ける姿を約13分間、全員で追いかけた。

 正面ゲート前の風物詩ともなっているチーム集合写真。

 当初、集団の隅で写真に映ろうとしていた須田に、下級生たちが中央へ来るよう誘った。須田はすこし照れくさそうにしながら、仲間を掻き分けて中央に入った。そして花園の記念ボードの最前列で、無数のシャッター音を浴びた。

 聖地のピッチを踏みしめた須田は、大学でもラグビーを続ける予定だ。

最前列右から3番目がWTB須田(筆者撮影)

PICK UP