国内 2025.11.30

全国社会人トーナメント初出場。山梨から始まるラグビー人生第二章。

[ 鈴木正義 ]
全国社会人トーナメント初出場。山梨から始まるラグビー人生第二章。
入団初年度ながらこの日ゲームキャプテンを任命された原田季弥。一旦は指導者の道を選ぶもカムバック(撮影:鈴木正義)

 トップイーストもシーズン終盤となり、順位を確定させるチームも出てくるタイミングを迎えた。優勝は東京ガスブルーフレイムス、AZ-COM丸和MOMOTARO’Sの2強に絞られているが、3位争いも今年は特別な意味を持つ。今年からトップイースト、ウエスト、キュウシュウの各地域上位3チームで競われる「全国社会人ラグビーフットボールトーナメント大会」が開催され、その出場枠に入るかどうか、そして4位以下となれば入替戦が待っているという、大きな一線がそこには引かれているからだ。

 最終週をまたず一足早くその3位を確定させたのが、山梨を拠点とするクリーンファイターズ山梨だ。他のAグループ所属チームが基本的に企業を中心としていることに対し、地域のスポンサー支援のみで活動していることが特色のチームだ。

 もっとも、生粋の山梨出身の選手はむしろ少数派で、なんらかの思いや縁があってチームの門を叩いた選手が少なくない。そこに通底しているのは「ラグビー人生第二章」だ。11月22日に開催された明治安田ホーリーズ戦を振り返りながら、どんな背景があって選手が山梨に集うのかを紐解いてみたい。

 キックオフ直後先制したのは明治安田。前回の対戦ではトライ数で上回りながらも敗戦を喫したこともあり、いつにも増して序盤から動きが激しい。しかしすぐさま山梨もトライを返し、互いにゴール前まで迫るシーンもあるがギリギリでしのぎ合う展開のまま前半は17-11山梨リードで折り返した。

「明治安田さんは真面目なチーム。80分間ハードワークしてくることはわかっていたので、それに向き合うこと、相手をエナジーで上回る、それだけを話し合いました」この日ゲームキャプテンに抜擢され、再三いいタックルを見せていたFL原田季弥(流通経済大)は振り返る。

 原田は大学卒業後一旦は引退、母校流通経済大の指導者の道を選んだが、プレーへの情熱が再燃し、今年山梨の門を叩いた。現在は山梨の老舗米穀店吉字屋で働きながらプレーを続けている。

後半最初のトライを挙げた盛田気。高校は山梨の名門日川高校。買い物中におおよその金額を当てられる買い物上手(撮影:鈴木正義)

 後半が始まると、山梨FB盛田気(大東文化大)が個人技で上手く抜け出しトライ。盛田は2022年宗像サニックスブルースの解散によってプレーするチームがなくなるという経験をした。現在は高校時代を過ごした山梨に帰って再びグラウンドを駆け回る喜びを感じている。

 このトライで22-11と山梨がペースを掴んだかに見えたが、ここからは明治安田が本領を発揮する。後半17分、約7分間にわたる執拗なアタックで山梨をトライゾーンに釘付けにし、FL小柳圭輝(早稲田大)がゴールポスト脇に押し込んで22-16。24分にはSO立川大輝(関東学院大)が抜け出し最後はLO平田大貴(東海大)がトライ、ゴールも決まり22-25と逆転、スタンドの明治安田ファンの声援は最高潮に達した。

ポスト脇に押し込んで反撃のトライを決める明治安田の小柳圭輝(撮影:鈴木正義)

 しかし山梨はここから冷静だった。課題のスクラムも安定し、ラインアウトでは空中戦をほとんど制し、明治安田のオプションの幅を狭めた。こうした安定したセットプレーの影にはフロントローの地味な貢献があることは、ラグビーファンなら誰しもが知るところだ。後半からPRに入り、そのフロントロー陣の最後の一踏ん張りを支えた足立匠(流通経済大)もまた、一旦はラグビーを辞める決意をした選手だ。

「足立は元々選手を引退して農業をやりたいと言ってきたのです。しかし話し合ってゆく中で山梨で農業をしながらクリーンファイターズに参加する道を選びました」

 足立はじめ、現在3人の選手が82 Worksという山梨の農業関係のスタートアップ企業で働いている。その代表者の林佑哉さんにお話を伺う機会があった。

まもなく収穫期を迎えるブロッコリー畑で。右から足立、オフェンツェ、林さん、川本。イカつい体格がのどかな風景によく似合っている(撮影:鈴木正義)

「オフェンツェ・モラワ(白鴎大中退)のケースは、コロナの関係で奨学金の期限が切れてしまい中退を余儀なくされ、(南アフリカへの)帰国もやむなしという状況でした。しかしどうしても日本でラグビーを続けたいということだったので、ビザ取得や本人の日本語検定もサポートし、うちで働いてもらえることになりました」

 将来自分でビジネスを始めたいという川本岳彦(花園大)は、リコージャパンを退団し山梨に移住。プレーを続けながら82Worksでスタートアップ経営のノウハウも学んでいるという。

「まだまだアスリートとして動けるのであれば、それだけの能力を持った人は貴重です。そんな選手たちにはできる限りラグビーを続けてもらいたいという思いが私にはあります」

 林さんによると、山梨県内ではラグビー選手を受け入れて引退後のセカンドキャリアのサポートも含めて応援したいと声を挙げている農業法人経営者は少なくないという。

 こうした地域の応援の熱量は、徐々にクチコミとなってラグビー界に広がってきている。一度はラグビーから離れた選手、リーグワンから出場機会を求めてやってきた選手、大学時代に思うような成績を残せず、希望チームへの入団が叶わなかった選手、事情は様々だが、そうした選手たちが挑戦の機会を求めて山梨に集結してきている。これがここ数年の山梨の躍進を支えている強さの源泉だ。

 試合に目を戻すと、後半の後半は目まぐるしく点を奪い合う展開となった。26分と34分山梨が2トライを奪い、明治安田もロスタイムに最後のトライを決める。終わってみれば34-32と、僅差で山梨がこの激戦を制した。

 山梨は同日に試合のあった日立が敗れたため、最終節を待たずに3位が確定、全国社会人トーナメントの出場資格を得た。3位はチーム創設以来の最高成績でもある。

 決勝点のトライを決めたWTBのウエストブルック アレックス慧南(専修大)は、日本代表チーム通訳を務めたこともあるウェストブルック ジョシュさんを兄に持ち、流暢な英語を話す。地域のICT企業フォネットに勤めるが、インバウンド客の多い山梨でバイリンガルは貴重な人材だ。地元の試合では会社を挙げて応援団が駆けつけてくれるなど、会社からも大切にされている様子が伺える。ウエストブルックは全国トーナメントに向けて抱負を聞かれるとこう答えてくれた。

「全国の舞台で山梨のラグビーが通用するところを応援してくれている地元のみなさんに見せたい」

 山梨には、選手の数だけ地域の人との物語がある。それぞれの思いを胸に、山梨の全国トーナメント大会への準備が始まった。

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