コラム 2025.11.28

【ラグリパWest】歴史を続ければ文化になる。KAMOSHIKA SEVEN’S(かもしかセブンズ) 

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】歴史を続ければ文化になる。KAMOSHIKA SEVEN’S(かもしかセブンズ) 
昨年4月に三重県で発足した7人制男子のラグビーチーム「KAMOSHIKA SEVEN'S」を率いる山口典宏GM(右)と小西大輔ヘッドコーチ。写真撮影をした三重・鈴鹿のHondaアクティブランドはリーグワンの三重ホンダヒートの練習場であるが、この7人制チームも使用を許可されている。ここを主に使う三重ホンダヒートはリーグワン2026-27シーズン後に栃木へのチーム移転が決まっている。その空白を埋める存在になりたい。山口さんがかぶるドジャースの野球帽に特に意味はないそうだ

 この三重県にもラグビーの普及と発展を願う人たちがいる。

 7人制男子のKAMOSHIKA SEVEN’Sが昨年4月、立ち上がった。正式名称は英語だが、表記はわかりやすく「かもしかセブンズ」。セブンズは7人制を示している。

 かもしかは県獣であり、特別天然記念物だ。棲息地は高い山。県の西部には湯の山温泉を抱える御在所岳(ございしょだけ)がある。標高1212メートルの秀峰は鈴鹿山脈の中核を成す。今は紅葉が散り、雪が降る。

 チームはそのかもしかのように高みに駆け上がりたい。トップのGMは山口典宏(のりひろ)。来年2月で51歳。顔の下半分は陸上トラックのように緩やかなカーブを描く。

 山口は穏やか話す。
「三重には女子のパールズがありますが、男子もやることが大事だと思っています」
 PEARLSは今年、4戦制の太陽生命セブンズシリーズで総合2位に入っている。

 かもしかセブンズの創部から半年ほど経って、三重ホンダヒートの本拠地移転が発表された。短縮形<三重H>は2026-27シーズンから栃木の宇都宮を主戦場にする。所属はリーグワンのディビジョン1(一部)だ。

 その空白をかもしかセブンズが埋める形になるかもしれない。女子のように全国規模の7人制大会を開催する動きもある。
「滋賀や秋田なんかと話をしています」
 滋賀は林大成、秋田は丸尾崇真が軸になる。ともに7人制日本代表を経験している。

 山口はチームの現状を話す。
「登録選手は25人ほど。今は15人制に参加しています。再集合は年明けになります」
 選手は県内の菰野ラビッツフットR.F.Cや津高虎ラグビークラブにも在籍している。読みは<こもの>と<つたかとら>だ。

 山口は選手勧誘の展望を語る。
「今年から大学3年生に声をかけて、スポンサー企業に入社する話をすすめています」
 ラグビー優先をお願いする。そのための会社回りは山口がひとりでやっている。

 ホームページにはスポンサー企業は20、サポーター企業は11が掲載されている。スポンサーは年間10万円から、サポーターは同3万円からなれる。山口は説明する。
「無理のないところにしています」
 10万円以上の援助は練習着に企業や個人名を掲出がつく。

 その練習は2か所の天然芝グラウンドが使える。三重HのHondaアクティブランドと朝明高校だ。その三重HのOBがヘッドコーチ(監督)についた。小西大輔だ。チームを運営する本田技研工業(Honda)の鈴鹿製作所に勤務している。

 小西は42歳。御所工(現・御所実)から帝京大に進んだ。SOとして旧名<ホンダヒート>で100以上の公式戦に出場した。
「人たらしの山口さんにやられました」
 参加の経緯をジョークに包む。双眸は優しい輝きに満ちる。修行を積んだ者の特徴だ。

 小西は主将についたこともあり、6年前に現役引退した。その後は主務やアシスタントコーチをつとめた。チーム運営も理解できる。
「一人ひとりがのびのびプレーできるチームにしていきたいですね」
 現場の責任者として抱負を語った。

 小西と二人三脚でチームを運営する山口はこの三重で生まれ、育った。菰野中に入学後、競技を始め、関西大会にも出場する。
「天理中には八ッ橋くんがいました」
 八ッ橋修身は天理大から神戸製鋼(現・神戸S)に進み、FBとして日本代表キャップ12を得た。現在は天理大のコーチである。

 山口は四日市工に入学する。冬の全国大会出場こそなかったが、高3時はSHとして県の高校選抜、<オール三重>に選ばれる。母校は今月、県決勝で朝明を24-22で破り、5年ぶり2回目の冬の全国大会出場を決めた。山口はラグビー部のOB会長でもある。

 卒業後、日本合成ゴムに入社した。現名はJSR(Japan Synthetic Rubber)。この化学メーカーに10年勤務して、家に戻る。実家は万古焼(ばんこやき)の窯元である。創業者は父の峯生(みねお)。山口は今、その「山口陶器」の代表取締役をつとめている。

 万古焼は陶土と磁土を交ぜて作った<半磁器>に分類される。伊賀焼や瀬戸焼に並ぶ。その始まりは江戸時代。今は四日市がその中心だ。山口はSNSを駆使、ネットで顧客と直接やり取りするシステムを確立させた。従業員は10人から30人に増える。

 その経営力はセブンズに生きるはずだ。山口はラグビーに恩返しがしたい。
「なければグレていたかもしれません」
 県ラグビー協会の社会人担当理事としても7人制に可能性を感じている。
「高校は夏に全国大会がある。リーグワン選手でなくともオリンピックに出られます」
 2016年のリオ五輪で男子は史上最高の4位に入っている。

 創部やその強化によって、選手やその関係者のUターンやIターンも期待できる。Iターンは特に都市部から田舎への移住を示す。知名度が上がれば、昔、伊勢と呼ばれたこの地域に活気とにぎわいをもたらせられる。

 三重は移住先としてはいい。特別格の伊勢神宮があり、松阪牛や伊勢えびなど名高い山海の食材がそろう。気候は温暖で鈴鹿山脈や伊勢湾など自然も豊富だ。チーム拠点のひとつ、四日市から名古屋までは電車で30分ほど。都会とのほどよい距離感もある。

 山口は目標を掲げる。
「国スポで日本一になることです」
 旧名<国体>は10年後、この三重で開催が予定されている。4年前はコロナの影響で開催権を返上した経緯がある。

 山口は言った。
「歴史を続ければ文化になる」
 万古焼も江戸時代から今に至っている。身をもってそのことを知る。そういう人物が上にいるかもしかセブンズは何より心強い。

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