【ラグリパWest】ラグビーファミリー。金沢学院大学・高校・中学校
北陸における一大教育機関は金沢の市域の東側、末町(すえまち)の台上にある。青き浅野川と犀川にはさまれ、緑が多い。
学校法人の名は<金沢学院大学>。大学は7学部と大学院を擁し、附属の高校と中学、短大がつく。学ぶものは5000人ほどだ。
この学校法人のある金沢は石川の県庁所在地であり、江戸時代は加賀百万石、前田家の城下町だった。その庭園だった兼六園や黄土色の土塀を持つ武家屋敷跡が今も残る。
香気漂う街にある学校法人で、著名な部活動は相撲だ。大相撲で前頭四枚目までいった炎鵬はこの高大の卒業生。その相撲の知名度にラグビーは迫れるよう、大学、高校、中学の3つのクラブはファミリーを形成する。
大学監督の野村倫成(みちなり)は話す。
「10年教育がこの学校のウリです」
ラグビーは合同練習や年長者による技術指導ができる。野村は丸顔の中にはにかんだような笑みを浮かべる。よき人である。
大学のジャージーはスクールカラーのエンジ。東海Aリーグに上がり3年目に入った。石川県からの参入は初。この8校編成のリーグで優勝すれば、大学選手権への道が開かれる。現在は4勝2敗で3位タイにつける。
野村は45歳。大学職員でもある。地元の鶴来(つるぎ)から国際武道大に進み、大学院を出た。現役時代はPR。日本航空石川では保健・体育の教員とコーチを兼ねた。
ここに来たのは12年前だった。
「すでに同好会のようなものがあり、15人ほどいましたが初日に集まったのは7人でした」
この2013年を創部年にしている。野村はまず部員集めからスタートした。
今、部員は83人。北は北海道の札幌山の手、南は沖縄の名護から集まる。野村の苦労がしのばれる。今年、コーチに36歳のシアオシ・ナイが加わった。日本航空石川OBで監督経験者。高校時代、ヘッドコーチの谷口佳隆とは同級生だった。
日々の練習はキャンパスを下ったグリーンフィールドⅢでする。2年前に完成したフルサイズの人工芝グラウンドだ。照明も完備。中高大のラグビー部は使用の優先権を持つ。
大学主将の大田航凪(かずな)は感謝する。
「グラウンドはきれいで、広く使わせてもらっています。頑張らないといけません」
大田はFB。新潟工の出身である。
ウエイト用のトレーニングセンターはキャンパス内にある。野村は説明する。
「昨年まで3年間で毎年1000万円をかけて設備を整えました」
バイクとトレッドミル(ランニングマシン)は計20ほどあり、ダンベルは100以上。他競技との共用になるが、施設は朝6時から夜10時まで開いている。
降雪時に使用する屋内練習場も2つある。
「私の胸くらいまで積もる時もあります」
野村の身長は176センチ。その雪に影響されない。大きい方はラグビー場の半面弱あり、ユニット練習には十分だ。
食事は<KGダイニング>と命名された学生食堂で提供される。バランスよい3食が計1600円弱。野村は解説する。
「ごはんと汁ものはおかわり自由です」
これだけのことは学校の支援が不可欠だ。
その中心にいるのが太茂野直利(おもの・なおとし)である。学校法人の副理事長だ。
「私の最終面接も副理事長でした」
野村は振り返る。太茂野は71歳。笑顔を絶やさない。この学校法人と関係が深い県紙の北國新聞から2012年、教育畑に転じた。
太茂野は金沢出身で慶應の卒業生だ。
「魂のタックルですから」
蹴球部(ラグビー)のOBではないが、野球などの応援に神宮にも行った。スポーツで学校がまとまる姿を目の当たりにしている。
ラグビーへの期待を語る。
「私は愚直なほどに黙々と前に進むような子を育てたい。その象徴がラグビーなのです」
旦那のような態度は取らない。
「作りたいのを応援しただけであって、私が作った訳ではありません。あくまで現場が主役。私は選手を集められませんから」
謙虚さも持ち合わせている。
その大学を支えてゆく高校の監督はベテランの武田裕之だ。59歳。昨年4月に赴任した。保健・体育の教員でもある。
「野村さんに誘ってもらいました」
武田は天理大出身。現役時代はFLだった。指導者として全国を知る。母校の天理高を84回大会(2004年度)で準優勝させ、岡山の創志学園では100回大会に出場させた。
高校の創部は金沢東の校名だった2000年中ごろと思われるが、強化に着手した武田の赴任の昨年をもって創部年にしている。部員は女子マネ2人を含め23人だ。
「大学を強くするための高校と思っています」
コーチは辻󠄀直幸がいる。34歳。近鉄(現・花園L)の現役時代はFLだった。
中学の監督は41歳の白幡陽平だ。日体大を卒業し、保健・体育の教員免許を持っている。ここでは技術を教えている。
「僕も野村さんに誘ってもらいました」
中学は3年前に併設された。同時に創部。県初の中学ラグビー部になった。
今、部員は各学年3人ずつの9人だ。
「勝ち負けよりも楽しさを重視しています。まずは続けてほしいと思っています」
白幡は日体大でWTBとして公式戦に出場する。そのきつかった練習を中学生に求めない。高大強化のためにもまずは継続である。
野村、武田、白幡の3人は今春、<金沢学院ラグビーアカデミー>を立ち上げた。主に中学生のためのスクールである。ラグビーの県における普及・発展とその受講生たちをこの高校に呼び込む狙いもある。
大学と高校は秋の深まりとともに勝負がやってくる。今月26日、大学は東海リーグの最終戦で愛知学院大と、高校は105回全国大会の県予選1回戦として合同チームと対戦する。大学は勝てば年末年始に開催される全国地区対抗大会の出場権を初めて得る。
指導者最年長の武田は言う。
「それぞれのカテゴリーで全国大会に行けるようにしたいですね」
夢の実現のため、中高大は手を携え、学校法人の手厚い支援を受けながら、進んでゆく。




