国内 2025.10.16

【ラグリパ×リーグワン共同企画】10分間の光。挑み続けた男がつかんだ“ライジング”の瞬間

【ラグリパ×リーグワン共同企画】10分間の光。挑み続けた男がつかんだ“ライジング”の瞬間
38歳の“サラガーマン”ルースヘッドPR菅原崇聖(©JRLO)

 多くのフォワードにとって、残り時間10分で出場のチャンスが与えられた際にできることはどれほどあるだろうか。おそらくスクラムが1回あるかないか。そのわずかな機会に、彼はすべてを懸けようと心に決めていた。

 清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)の1番といえば、野村三四郎。昨シーズンは全試合でスタメン出場し、鬼の形相でスクラムを組む姿はチームの象徴だ。社会人3年目。ジャパンラグビー リーグワン ライジング2025第3週ではゲームキャプテンも務めた。さらに、フランカーから転向して急成長を見せるウサ・バレイラウトカ、若手の努力家・吉川豪人など、実力者たちがそろっている。江東BSのフロントローはまさに激戦区で、ポジション争いはし烈を極める。

 そんな中に、38歳のベテラン・菅原崇聖がいる。昨季、公式戦での出場はわずか1試合。長いトンネルのような日々が続いていた。

 それでも彼は1日たりとも手を抜かない。年齢に合わせて体のケアを見直し、理想のプレーに少しでも近づけるよう鍛錬を重ねてきた。

「とにかく一生懸命体を鍛えて、映像をたくさん見て、試行錯誤をしています。いまのチームは、ブルーシャークス史上一番強いんじゃないか、と言われるくらい強くて、チーム内のバトルがすごくレベルが高いので、僕もそのチーム内のバトルの一部になれるよう、頑張っています」。淡々と話すが、そこにあるのは“続けること”への確かな信念だ。

 迎えた今シーズン、彼に新たな舞台が巡ってきた。

 大会名は『リーグワンライジング』。その名のとおり、“昇っていく”ためのチャンスだ。

 第2週では出場機会がなかったものの、第3週・狭山セコムラガッツとのホストゲームでついにメンバー入りを果たす。「(野村)三四郎が50分出場した時点で、僕は出られても10分くらいというのは分かっていましたし、その10分でできることをしようと思っていました。やはりフォワードなので、スクラムで応えたいと思っていました」。

 その思いが届いたかのように、残り時間の中で何度もスクラムのチャンスが訪れた。

 菅原は一つひとつのスクラムに、積み重ねてきた日々を込めた。静かに腰を落とし、仲間と力を合わせて押し込む。観客席から響く歓声。その瞬間、長く続いた暗闇のトンネルに確かな光が差し込んだ。

 試合後の円陣。コーチ陣から指名され、輪の中心に立つ菅原の姿があった。

 仲間の拍手が鳴り止まなかった。33対0の大勝。その陰に、一人のベテランの努力が確かにあった。

 苦しい時間が続く中で、なぜラグビーを続けられるのか。

「やっぱり、ラグビーが好きなんで、ラグビーをしていたいです。プレーしたいし、試合にも出たいし、スクラムもたくさん組みたいし。もっともっとラグビーがしたいです。それはもうずっと変わらないですね」

 江東BSは『仕事もラグビーも100%』を掲げている。

 菅原も例外ではなく、フルタイム勤務を終えてから練習に向かう。

 小学校3年生と1年生の娘と過ごせるのは朝のひとときだけ。

「朝のバイバイがその日のバイバイになるんですよ。だから朝に全力で家族との時間を堪能します。娘が本当にかわいくて癒しです」と笑う。

 ラグビーへの愛と、家族の理解。この両輪が、今日も菅原をフィールドで支えている。

 悩み、耐え、積み重ねてきた努力が、報われた10分間。

 けれど、それは通過点に過ぎない。

「今日の結果で何かがあるというわけではないですけど、引き続き頭を上げて頑張ります。いまも苦しい時期ではあるんですけど、下だけは向かないように」

 彼の挑戦は、これからも続く。

 リーグワンライジング。挑戦し続ける者の前にこそ、陽は何度でも昇るのだ。

(奥田明日美)

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