「きつい状況で何かをし続ける」のが得意。佐川奨茉[JAPAN XV/HO]
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ハーフタイムが近づくなか、三菱重工相模原ダイナボアーズの佐川奨茉が生き様を示した。
自陣ゴール前でタックル。起きる。ふたつ先の局面でまたタックル。刺さってはすぐに立ち上がり、次の穴場を埋める。相手の動きに目を凝らす。
10月5日、千葉・重兵衛スポーツフィールド中台陸上競技場。試合経験の少ない選手主体でおこなう、ジャパンラグビーリーグワンライジングのクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦でのことだ。
身長180センチ、体重103キロのサイズで、ポジションはもともとFW第3列だ。大卒を前後し先頭中央のHOに転じていて、この日も新たな働き場で前半のみプレーした。
交代直前の献身を讃えられると、誠実に言葉を選んだ。
「タックルして、またすぐに次の仕事をすることは、自分が常に意識している部分であるので。見てくれた人にそう感じてもらえたなら、意識していたことができたの(証拠)かなと」
小学2年で楕円球と出会った23歳は、真面目さで鳴らす。
出身の佐野日大高で出会った元早大の藤掛三男監督が情熱的だったからか、気づけば、得難き資質を育んでいた。
「他の人も皆、タフだとは思うのですが」と前置きをしつつ、ささやかに胸を張って「きつい」と繰り返す。
「きつい状況で何かをし続けることは、人よりは得意なのかなと思っています。高校の時から、きついことが好きというわけではないけど、きついことをしていたい、という感じで…あ、これは好きなんですかね」
内部進学した日大では、最終学年で主将になった。コーチの交代などでクラブが揺れていた折だ。100名超の部員を束ねる苦労を経て、こう感慨にふける。
「すごく、大変でした。色んな人がいて、人数も多かったので。いまは、それに比べたら…」
リーグワン1部加盟のダイナボアーズには、リクルーターの小林訓也氏に誘われて入った。練習量とプレシーズンの始動の早さが国内屈指と評判のクラブで、仲間の器の大きさに触れる。
スクラムのかじ取りが求められるHOになったばかりのなか、同じ位置のライバルが遠慮なく助言してくれるのだ。日本代表1キャップの李承爀らの名を挙げて頷く。
「皆さん、何を、何回、聞いても、教えてくれる。いい選手同士の関係のなかで、成長できています」
献身的で素直。その資質が以前より広く伝わったのは、直近のシーズンを終えた5月以降のことだ。
6月まで、日本代表の関連活動に混ざった。JAPAN XVのキャンペーン、候補選手の合宿で、正代表を率いるエディー・ジョーンズヘッドコーチに指導された。
ハードワークがモットーの指揮官には、「細かいところまでしっかり見ている」と唸らされた。
セッションのさなか、自身の立ち位置とは違う方角を向いていたはずなのに、突如、自分の動きにアドバイスしてきたことが何度もあった。
「あ、いまの、見てたんだ…ということが、結構、ありました」
個人面談でも助言をもらい、心を新たにする。
「セットプレーの一貫性を強調されました。そこを、いまよりもっとよくできるようにしたいです」
スピアーズ戦を19-38で終えて約1週間後の12日からは、日本代表の宮崎合宿へ合流する。予備軍のJAPAN XVの一員としてである。まずは18日以降、対オーストラリアA代表などで実戦機会を探る。
「他のHOの人たちより経験が浅いぶん、もっと色々と学び、採り入れ、それをアピールしたいです。今回JAPAN XVに選んでいただいたということは、自分の武器が少しは通用しているのかなと。ここからはセットプレーを強みにしていくことで、日本代表が近づいてくると思います」
取材があったのはゲーム直後のスタンド付近。スタッフに渡されたプロテインを口にし、「飲まないと怒られちゃうんで」と微笑んだ。