光る速さと勝負への意志。筑波大・内田慎之甫は土壇場で「アドレナリン」が出る。

速くて根性があって飄々としている。
筑波大ラグビー部の内田慎之甫は、今季の大学シーンを沸かせる新人のひとりだ。
「(ランニングは)行けると思ったら、行く感じで。たくさん試合に出て経験を積みたいな、プロになりたいな…って、思っています」
身長166センチ、体重74キロと小柄も、ルーキーイヤーから台頭する。9月からの関東大学対抗戦Aでは、開幕から2戦連続でFBとして先発した。
14日の初陣では、前年度の順位で3つ上回る3位の明大を28-24で破った。茨城・ケーズデンキスタジアム水戸でスコアに絡んだのは、後半35分のことだ。
敵陣ゴール前の右中間で深い角度のパスをもらい、人と人との間を突っ切った。トライラインに迫り、フィニッシュをお膳立てした。
身体のぶつけ合いを、健脚ならではの馬力で制したような。この仮説に本人は「ちょっとしたずれに対してスピードを上げることで、相手の反応が遅れます。そして、その遅れた相手のウィークショルダー(コンタクトするのとは逆の肩)を狙っている」。密集のさなかも、なるたけタックラーに触れさせずに道を切り開く。
「掴まれたら振り回されちゃうんですけど、掴まれていないからラッキー、という感じです」
26日には東京・秩父宮ラグビー場で、前年度4位の慶大に21-12で競り勝った。チャンスとピンチに顔を出し、プレーヤーオブザマッチに輝いた。
対抗戦初のトライを決めたのは後半6分。敵陣10メートル線付近左のラインアウトからの展開で、4年生CTBの東島和哉が同22メートル線あたりでラインブレイクしたのを右から援護した。柔らかなオフロードパスをもらうや、瞬時に仕留めた。
「東島先輩には(事前に)『抜けたら、パスください』と言っておいたんですよ。そして、実際に…。早めにサポートにつけてよかったです」
何よりこの人らしかったのが続く32分だ。イエローカードによる数的不利を背負って自陣ゴール前で守るさなか、倒れ込んだ走者のボールへ鋭く食らいつく。スティール成功。ペナルティーキックをもらった。
「全員で守り抜かないといけない場面だった。イチかバチかでしたけど、入れてよかったです」
大分舞鶴ブラックスジュニア、ぶんごヤングラガーズを経て、古豪である佐賀工高の門を叩いた。高校日本代表になった。10代後半はよく負傷に泣かされたが、本調子でなくとも大一番で活躍した。あらゆる意味で土壇場に強い。
「アドレナリン、ですかね。プレーをしているうちに痛みがなくなる。実は、そんなに痛くなかったのかもしれないですけど」
筑波大へは、自身と同じタイプの名OBが多い歴史に惹かれた。2021年度主将で現コベルコ神戸スティーラーズの松永貫汰は、ロールモデルのひとりだ。いまは背の高いライバルと対峙すべく、高いキックの捕球をよく練習する。
慶大戦では2年生WTBの小野澤謙真に再三好キャッチをされただけに、「対策はしてきたのですが、いざ試合となると慶大さんの精度にやられちゃいました」と反省していた。
「相手よりも先に落下地点に入って飛ぶことが大事」
股関節などを丹念にストレッチして怪我を予防しながら、「上位の大学に勝って、日本一になりたい。今年のテーマは『狂う』。全員が狂って、タックルして、走り勝てれば」と日々を楽しむ。