「誰もが勝てると思っていなかった」のを見返す。日本代表・江良颯が示した「誇り」。

渡米中のラグビー日本代表は、底力が問われていた。
現地時間9月20日、ソルトレイクシティでのパシフィックネーションズカップ(PNC)決勝に臨んだ。戦前の世界ランクで4つ上回るフィジー代表を向こうに、23名中17名が国内出身者のスコッドを揃えた。
今年から代表資格を得たFBのサム・グリーンが準決勝でハムストリングを痛めており、ファイナル直前の練習では好調だったFLのベン・ガンターが脳震盪に見舞われた。主軸のアウトサイドCTBであるディラン・ライリーも、試合当日になってメンバーから外れた。
「メンバー(表)を見ても日本人の名前が多くて、いままでの日本代表じゃないような…」
歴史的に多国籍軍を編んできたジャパンにあって、こう切り出すのは江良颯。今年初代表のHOである。
「でも、何て言うんですかね…」
身長172センチ、体重106キロの24歳は、勇ましく続ける。
「日本人の名前が出た時に、誰もが勝てると思っていなかったというの(見立て)がある(かもしれない)。そこで意地というか、日本人の誇りというか、自分たちの火がついて…」
約9年ぶりに復帰して2季目のエディー・ジョーンズヘッドコーチからも、発破をかけられた。
「エディーさんがコミュニケーションを取ってくれた。『日本人はハードワークし続けられる。自信を持って、フィジカルを全面に出してやっていけ』と。…すごくいいマインドで挑めました」
有言実行だった。初先発でWTBの木田晴斗、途中出場から初キャップを得たCTBの池田悠希ら、これからキャリアを積む国内勢が気を吐くなか、2番をつけたファイターも奮闘した。
まず先頭中央で引っ張るスクラムでは、体重での劣勢を覆す優勢ぶりだった。
「フロントロー(最前列の仲間)とコミュニケーションを取りながらいいスクラムを組めました」
攻めては0-0だった前半5分にはサインプレーから、17-33とビハインドを背負っていた後半20分にはモールからトライを奪った。
「恐れていたら、100パーセントの力は出せない。自信を持ってプレーしよう」
それ以外の場所でも好ランを披露。意気込みは、明確だった。
「日本を代表し、桜のジャージーを背負っている。幼い子たちに希望を、勇気づけられるプレーがしたい。フィジカルは、逃げたらあかんところや…と」
力を出し切った。だからこそ、27-33で優勝を逃したのは「悔しい(気持ち)が、強いです」。善戦をよしとしない。
「誇りを持ってハードな練習を皆でしてきました。絶対に勝てる自信もありました。悔しさは大きいです」
一時10点リードも、ハーフタイムまでに26失点を喫した。力強いランナーを2人がかりで止めるのがベストだったが、3人、4人と人員を割かなければいけなかったり、1対1の状況から悠然と攻められたりした。
3連覇へまい進する、先方の推進力をせき止められなかった。
「2人(がかりのタックル)で止めようという話だったんですけど…」
攻撃中の接点でも援護の遅れに泣いた。今秋はオーストラリア代表、南アフリカ代表といった上位国とぶつかるだけに、改めて「フィジカル」の質を高めたくなった。
「相手のフィジカルが強いからといって逃げたらだめ。チームとしてディフェンス力、フィジカルを上げていかないといけない」
組織の繋がりには好感触。
「コミュニケーションの量は増えました。誰かが倒れた、痛めた…(時にすぐ気づくこと)。トライの後に全員が喜ぶ、ハイタッチをする…。チーム力が上がったなという感覚がある」
現所属のクボタスピアーズ船橋・東京ベイに入る前は、帝京大の主将として大学選手権3連覇を達成している(現在V4に更新)。「ラグビーでは、ひとりひとりがチームのためにどれだけ身体を張れるかが大事になってくる」と皮膚感覚を語り「日本代表という誇りを背負って、やっていきたい」と誓った。