コラム 2025.09.12

【ラグリパWest】勉強の話。

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】勉強の話。
花園近鉄ライナーズのFL野中翔平さんは勉強の大切さを説く。自分を磨き、高めるためには勉強は欠かせない。野中さんはまたファンを大切にする。花園ラグビー酒場の女将である東屋あさ子さんと写真におさまる。

 新学期が始まった頃なので、勉強の話をしようと思う。

 以前、野中翔平さんに勉強する理由について聞いたことがある。野中さんは花園近鉄ライナーズのFLで主将も経験した。この11月で30歳になる。

「トレーニングを突き詰める中で、そのことを書物や論文で知ろうとすると大概、古典的な文語で書かれているんですよね。だから、勉強をしていないと読めないのです」

 野中さんは大学時代、スポーツ健康科学部だった。ラグビーを含めた競技や運動に対して、専門性を持って学ぶ。

 その論文は英語で書かれていたりもする。今は翻訳機などが出ているが、自分で納得しようとすると言語を知っている方がいい。普通、それは勉強しないと身につかない。

 野中さんはチョコレート色に日焼けしている。戦いの場では精悍だが、笑うと子供のように顔全体が崩れる。熱烈なファンのひとりは東屋(あずまや)あさ子さん。花園ラグビー酒場の世慣れた女将でもある。
「あの子、どこもいいやん」
 その言葉には男前はもちろん、知的なものすべてが入る。

 野中さんは7年前、近鉄グループホールディングスの総合職として入社した。社員選手だった。チームはグループの部局扱いだ。総合職は近畿日本鉄道を含め、グループ260社ほどを指揮する社長になれる資格を有する。

 社員選手は出世をした方がいい。現役を引退した後、ラグビーを守るためだ。会社は利益を得る組織である。景気がよくなければ、休廃部を考える。それは当然である。

 先月、NECグリーンロケッツ東葛の譲渡に向けた検討開始というニュースが流れた。会社に体力があっても、先々のそろばんをはじけば「閉じる」という判断も生じる。

 その時、ラグビーのOBが重役の中に入っていれば状況は変わる可能性がある。宣伝広告、社内における求心力や象徴的存在、社会貢献などを述べる。最高の意思決定機関において、反対を旗幟鮮明にする。ヒラ社員のままでは、その会議に出席する権利はない。

 廃止、存続ともに言い分はある。焦点はどちらに力のある者がつくかである。ラグビーのよさを世間に根づかすためにも、出世をしてトップの位置にいないといけない。勉強はそのためにもある。日々の業務で結果を残し、昇進試験をクリアしてゆく。

 野中さんは現在、プロ選手である。継ぐべき家業がある。祖父が始めた建築資材の会社が大きくなった。三代目として、ラグビーの次にやることは明白だ。その会社を継いでも、専門分野の勉強は不可欠である。

 野中さんには社員選手として、現役引退後に出世してもらって、ラグビーを守ってほしかった。人生経験豊富な女将を引きつける魅力もある。ただ、人にはそれぞれお家の事情がある。残念ではあるが、仕方がない。

 勉強に関して、前川泰慶(ひろのり)さんは別の視点で話す。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの現場トップ、GMである。
「他者とのコミュニケーションのためでしょうね。色々と知識があれば、話題に困りません。そうすれば相手との距離も縮まります」
 営業ならゴルフやクラシック音楽やワインなどを突破口に仕事の話に入ってゆける。

 レッドハリケーンズ大阪の才口將太さんはチーム広報などを担当する。
「勉強はその人の可能性を狭めない、と思います。勉強すれば何にでもなれる。そのことを大人になって気づきました」
 医師や弁護士になろうと思えば、医や法学部に入り、国家試験に通ればよい。

 余談になるが、阪神タイガースのOBに佐野仙好(のりよし)さんがいる。初の球団日本一を勝ち取った40年前は「六番・左翼」だった。現役引退後はコーチやスカウトなどをつとめた。今月7日、2リーグ分裂後にリーグ最速でペナントレースを制したこの縦ジマの主軸の獲得に佐野さんは絡んでいる。47年、一貫してこのチームに籍を置いた。

 佐野さんは口数こそが少ないが、人生の真理を語ることが少なくない。
「やりたいことをやるんだよ」
 やりたいことをできていれば、現在の境涯は関係ない。やりたいことをしないから、失敗する。やりたいことをしていれば、失敗は反省となり、次に生きる。

 そして、やりたいことをやるにしても、勉強は不可欠だ。人間国宝だった落語家の柳家小三治さんは古今亭文菊さんに言ったという。
「これでいいわけがない、と思わないと」
 文菊さんは28人抜きで二つ目から最高の真打(しんうち)になった。それから5年ほどを経てからの言葉である。

 小三治さんが言いたかったことは、向上心を常に持て、ということだろう。現状に満足せず、同じネタでも精進を重ねる。精進はまた勉強である。それは、つらいことではない。自分自身が欲している、やりたいことだから。この話は文菊さんが笑福亭べ瓶(べべ)さんのYouTube番組に出た時に語っている。

 つまり、勉強は人が生きる限り、欠かせないものであることがわかる。

 今、ふと思ったが、取り上げたラグビー関係の3人はたまたま同志社の卒業生である。関西の雄は今年、OBの永山宜泉(ぎせん)さんを新監督に迎えた。野中、前川、才口さんを含め偉大なOBたちを持つ紺グレは今年、どんなラグビーを見せるのだろうか。

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