各国代表 2025.08.18

【南アフリカ記者コラム】負傷したスプリングボクスほど危険な存在はない。

[ Peter Davies ]
【南アフリカ記者コラム】負傷したスプリングボクスほど危険な存在はない。
ビッグニュースがラグビー界を駆け巡った8月16日(Photo/Getty Images)

 スプリングボクスがホームで敗れるのは珍しい。

 高地でおこなわれたホームゲームで負けるのはさらに珍しい。

 その舞台が、1995年のワールドカップ初優勝の地、エリス・パークとなれば、敗戦は極めて稀だ。

 しかも開始18分で22-0とリードした状況から逆転を許すとなれば、それは一生に一度あるかどうかの出来事だろう。

 だが、そのすべてが現実となった。

 2025年のザ・ラグビーチャンピオンシップ開幕戦(8月16日)、南アフリカ代表はノーサイドに向かう約1時間で信じられない崩壊を見せ、大穴とされたワラビーズにまさかの敗北を喫した。
 オーストラリアがエリス・パークで勝利を挙げたのは1963年以来、実に52年ぶりだった。

 ボクスは開始18分以降、無得点のまま38点を奪われ、6トライを献上した。
 ワラビーズ相手にホームで6トライを許すのは初めてのことだった。

 試合終了の笛とともに、スタンドのサポーターは呆然と立ち尽くし、まるで惨事を目撃したかのような表情を浮かべていた。
 世界王者の崩壊は、あまりにも衝撃的で予想外だった。

 前半の後半からの1時間は最悪の内容だったと言える一方で、最初の20分は最高の出来だったとも言える。
 南アフリカは序盤から猛然と襲いかかり、華麗に3トライを奪取。22-0となった時点で、観客の多くは「今日は50点ゲーム」と確信していただろう。

 しかし、その後の得点はシヤ・コリシ主将のトライが最後。残りの時間は逆にワラビーズが6度インゴールを陥れた。
 力強いトライもあれば、南アの凡ミスが招いた”贈り物”もあった。

 ワラビーズはブレイクダウンを完全に制圧し、王者を翻弄した。
 ボクスは序盤の派手なスタートに酔いしれ、マニー・リボックのパスがインターセプトされて流れを失ったあとも修正できなかった。

 采配にも疑問符がついた。伝統の「6-2ベンチ」ではなく「5-3」を選択し、試合を締めるはずの”ボム・スコッド”を機能させられなかった。
 状況に応じた切り替えもなく、まるで余興のようなラグビーを続けたのが裏目に出た。

 敗戦の代償は大きい。ボクスは世界ランキング1位から転落し、オールブラックス、アイルランドに次ぐ3位に後退。2023年のワールドカップ制覇以来守ってきた首位の座を失った。

 ハイベルトでの直近2試合は43-12(2023年第1戦)、35-17(2019年第1戦)とワラビーズを粉砕してきただけに、この試合も勝ち点5は計算済みだった。
 だが一転、チャンピオンシップ連覇の夢は早くも暗雲に包まれている。

 過去30年、この大会の方式は何度も変わったが、南アが優勝した5大会すべてに共通していたのは「ニュージーランドでの連戦がなかった」こと。
 だから今年は、ニュージーランドでのフリーダムカップ2連戦が優勝争いを左右するとみられていた。

 ボクスがニュージーランドでオールブラックスと連戦したのは15年前、連勝を収めたのは88年前まで遡る。
 難題ではあるが、このチームはすでにワールドカップを2度、チャンピオンシップを2度制し、ライオンズとのシリーズにも勝ってきた。

 ラシー・エラスマス体制の目標は88年ぶりのイーデンパーク制覇。しかも、同スタジアムで50試合無敗を誇るオールブラックスに土をつける史上初の外国チームになることでもある。

 だが、エリス・パークでの衝撃の敗戦を受け、いまはニュージーランドの話をしている場合ではない。
 まずはケープタウンでオーストラリアに借りを返し、批判を封じ込める必要がある。

「負傷したスプリングボクスほど危険な存在はない」――古くからそう言われてきた。

 ヨハネスブルグで深手を負ったボクスがどう反応するか。
 それが2025年のシーズンを左右することになる。

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