佐藤優奈、2度目のワールドカップへフィジカル&モールに手応え。

首や肩に逞しさが増した。佐藤優奈が微笑む。
「自分の限界まで追い込める時間を作ってきました」
サクラフィフティーンこと女子15人制ラグビー日本代表の一員だ。
今年は8月22日開幕のワールドカップイングランド大会に向け、全国各地で複数回にわたりキャンプを重ねた。
オリバー・リチャードソンS&Cコーチのもと、ウェイトトレーニングの時間を増やした。「多い時で週6」。列強国に対抗すべく、意味のあるビルドアップを目指した。
公式で「身長170センチ、体重76キロ」の26歳は、実際は記録以上にサイズアップしたと述べる。
「体重はいま、83~4キロくらいになれていて。ウェイト(持ち上げる重量の数値)も出てこない(すぐに頭には浮かばない)ですが、毎回のトレーニングで自己ベストを更新できました。サイズだけではなく、筋力も高められた。『(練習の)最後に自分のマックスを上げる!』というようなメニューもあって、ここで人一倍、頑張ろうと思ってやってきていました」
7月27日発表の大会登録メンバーに名を連ねた。2大会連続2回目のスコッド入りだ。今年は7月までにアメリカ、スペインなどとテストマッチを実施。ラインアウト、スクラムの中核をなすLOを務めながら、衝突局面で自信を深めている。
「どこのチームとやっても『怖くない。自分と同じか、少し大きいくらいだから、いけるな』と」
特に好感触があったのは、ラインアウトを起点としたモールである。
26日までの対スペイン代表2連戦では、これを得点源にした。後ろ向きに立ったボール保持者を軸に固くまとまり、適宜、左右に揺れ動きながらトライラインを陥れた。
そのプロセスで、佐藤はよく「壁」を託された。
投げ入れられた球を飛んで捕る選手にくっついて支え、着地と同時に向こうからの圧と対峙した。
ボールより前にいると見られれば、妨害の反則を取られてしまう。だからプレッシャーを受けやすくなるのを承知の上で、どの角度から見られても合法だとわかるような姿勢になる。
相手に抱え上げられそうになっても、片足で踏ん張る。ここからどうにか腰を落とし、後ろからの味方のプッシュを促す。
「我慢していると道が開けてきて、『いま、いける!』という瞬間が来る。そこにこだわってやっていきたいです」
その献身ぶりは、26日の東京・秩父宮ラグビー場でも見られた。
19日に対戦して圧倒できたスペイン代表は、防御を修正して応戦してきた。それにも佐藤らは、首尾よく対応した。勢いよく迫ってくるスペイン代表をいなし、重圧のかからない方角へモールを押し進めた。
後半21分頃にはモールの前列からいったん抜け出し、後方のチームメイトを前進させようと試みたところでターンオーバーされてしまった。それも「(その場に)残ったほうがいいか、離れたほうがいいか(のジャッジを磨きたい)」。課題を可視化する。
「相手がどう対策してきても、一発目から自分たちのやりたいモールができるようにしたい。ただ、試合中に修正できたのはよかったかなと」
続く30分には敵陣ゴール前右のラインアウトを経て、密集を作る。
ジャンプしたLOの櫻井綾乃を真下で支え、地面に降ろしながら左半身を前傾させる。次第に背中を左へ回す。FLの川村雅未ら仲間のプッシュを受け、前に出る。
HOの小鍜治歩のフィニッシュを演出し、30-12とした。最後は30-19でノーサイドを迎えた。
モールの練度が増したのは、仲間と競い合ってきたからだ。
「チーム同士での『やり合い』を通し、『こういう時にはこっちへ進める』というような肌感覚を掴めてきています。練習中から成功率を出していたので、皆で『そのパーセンテージを上げよう』と意識したので、研ぎ澄まされていきました」
担当するフォワードコーチのマーク・ベイクウェルにも感謝する。恩師の印象は「選手思いでノウハウがある」。アイルランド代表、ニュージーランド代表などと戦う本番で、愛情と理論の名セコンドを喜ばせたい。
「朝、起きた時はまず『元気?』から始まり、すれ違うたびに会話をしてくれます。ぶれることがなく、新しい情報をくれます。積み上げていくことの大切さも学べます。教えてもらった通りにやれば絶対に大丈夫だという信頼があります。最後まで、一緒に頑張りたいです」
チームの目標は大会8強入り。計3戦ある予選プールの突破である。ミッションクリアにより、世間におけるプレゼンスを高めたいと佐藤は言う。
「たくさんの方に女子ラグビーを見ていただきたいです。結果を残さないと注目度は上がりませんし、いままでこれだけ準備をしてきて結果が残らなかったら悔しい。練習量で負けていないことは強みです。やってきたことを出し切って、絶対に勝ち切りたいです。自分の手応えもありますし、チームとしても積み上げられている。あとは、(蓄積したプレーを)どれだけいい精度でできるかによって結果が変わってくる」
身を挺して道を切り開く。