膝と肩が効いた。ブレイブルーパスの木村星南がスクラムと防御で奮闘。

膝の角度は「45度」。木村星南は意識する。所属する東芝ブレイブルーパス東京における、スクラムの約束事だ。
最前列の左PRとして中央のHOと繋がり、後方のLOからの押しをもらうための法則を細かく定めている。新任のジョシュア・シムズFWコーチが、時に測りのようなものを足に当てて指定してきた。木村はシムズを信頼する。
「ちょっとでも消化できていないところがあればすぐにコミュニケーションを取ってくれ、不安要素をなくしてくれる」
大事な舞台でもうひとつ、心がけた点がある。右肩の使い方だ。
5月24日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン1部のプレーオフ準決勝があった。対するコベルコ神戸スティーラーズは、準々決勝で静岡ブルーレヴズに35-20で勝利。あちらの強みである固いスクラムを、創意工夫によって攻略していた。
殊勲は山下裕史。38歳の右PRだ。身長182センチ、体重120キロの元日本代表は、組む前のつかみ合いで圧をかけながら、対峙する左PRとHOの間へ侵入を図るような。少なくともブレイブルーパス側はそう見た。
山下と正対する木村は、ちょうど山下の頭が当たる右肩に神経を注いだ。同級生HOで自軍の副将の原田衛と繋がり、名手が潜り込めないようにしたのだ。
前半4分頃、この日のファーストスクラムを迎える。その後のレフリーへの印象も左右しうるとあり、戦前から重要視していた1本である。
敵陣10メートル線エリア右での相手ボール。ブレイブルーパスは耐えた。ためた「膝」からパワーを伝えた。向こうのプッシュを防いだ。
「セットアップ(予備動作)からプレッシャーを受けていたんですが、それに負けずに『返す』ことで、自分の立ち位置が後ろに下がることなく、パワーが保てたままバインドの(正式に組み合う)形に移行できる。相手の頭にしっかり右肩を当て続けながら、強い姿勢を取れたかなと」
直後の6分頃には、同じエリアの左中間で自軍ボールを得た。こちらも踏ん張り、スティーラーズの圧を跳ね返す。その流れで塊が左側へ流れた。レフリーがスティーラーズ側の反則を取ったことで、ブレイブルーパスはペナルティーキックをもらえた。
後半開始早々には、敵陣ゴール前中央やや右寄りの位置で自分たちのスクラムを前進させる。追加点に繋げた。
「自分たちの形は作れた。(事前には)むちゃくちゃ押せると思っていたわけではなかったのですが…」
前衛の凄みに感化されてか。最後尾でNO8のリーチ マイケル主将は、スクラムで一気に足をかくためのサインコールを出し続けたようだ。木村は笑う。
「それに応えようと頑張っていました」
優勝を争う激戦にあって、木村は守りでも魅した。7-3とわずかなリードで終えた前半の9分頃には、自陣ゴール前右でスティールに成功。ピンチを防いだ。
「僕らはどれだけ抜かれても一生懸命(後ろに)帰るというエフォートを見せられた。(勝因は)ディフェンスじゃないですかね。絶対にトライラインを割らせない。その意思を示せました」
リザーブの左PRが当日に急遽、入れ替わったこともあってか、木村は72分間もプレー。31-3でファイナル進出後、こう振り返った。
「長く出られるのは、しんどいですけど、嬉しい。自分にとってプラスになると思います」
身長175センチ、体重105キロの25歳。2021年度まで在籍の東海大時代から、スクラムで魅了していた。‛22年度加入のブレイブルーパスでは早々にレギュラーとなり、チームが優勝した昨季オフにはリーグワンのベストフィフティーンに選ばれた。
直後に活動の日本代表へは入れなかったが、その道を諦めなかった。就任したてのエディー・ジョーンズヘッドコーチから課された肉体改造に取り組み、ちょうど「2~3キロ」の増量が叶ったタイミングで追加招集された。
その後、代表戦に出られなかったのを受け、「日本代表の求められている選手像に自分がどれだけコミットするか」と課題を設定。ひとつのプレーが終わった後に、わずかでも速く動き出したい。
いまは国内でチャンピオンシップに挑む。クラブ方針に則り、プレーオフで参加した準決勝以降の2試合をいずれも決勝と見立てる。
6月1日、東京・国立競技場でクボタスピアーズ船橋・東京ベイとのファイナルに挑む。