小兵であるが故に、躍動する──岡村晃司、花園近鉄ライナーズの12番として。

◆静かに光る12番
居てほしいところに、居てくれる。アタックでも、ディフェンスでも。
派手なプレーではないが、玄人を唸らせる妙技が光る。パスの受け方、繋ぐタイミング、仕留める嗅覚。
10番クエイド・クーパーと13番トム・ヘンドリクソンの間で暗躍する身長170センチ、体重85キロの小兵。しかしその小兵は、今シーズンのライナーズの中で、最も存在感のある選手のひとりだ。
岡村晃司。飄々と、そして黙々と自らの役割を全うする。
◆怪我をしない。そこからすべてが始まる
ライナーズで出場し続ける理由を尋ねると、岡村晃司は迷わずこう答えた。
「怪我をしないこと。それがいちばん大きいと思っています」
シンプルだが、継続してピッチに立ち続けることは何よりも重要なことだ。今シーズンも12番として11試合に先発している。
「試合の日には、毎回“足の神様”服部天神のお守りを持参するのがルーティンになっています。」
そしてもう一つ、今季の岡村を語る上で欠かせないのが「ディフェンスの進化」だ。
以前はタックルの甘さを課題に挙げられることも多かったが、今シーズンはその印象が一変した。ピンチの場面で相手を止める岡村の低いタックルは、たびたびチームを救った。
その裏には、ある人物の存在があった。同じく小兵でありながらタックルとハードワークで活路を見出してきた小林広人である。
「広人さんが移籍してきてから、一緒に個人練習に取り組むようになりました。ダウンスピードやバインドなど、これまで意識していなかった細かな技術を丁寧に教わって。自分なりに解釈して取り入れていくうちに、フィットして来ました。」
コンタクトスポーツのラグビーにおいて小柄であることは、ハンディである。だが、岡村はそのサイズを逆手にとり、タックルの技術を磨き上げた。
「身長が低いぶん、低く入るタックルは自分の武器。そこで止めることが、自分の役割だと思っています」
怪我をしない身体。進化したディフェンス技術。その存在価値を高めてきた。
◆繋ぐこと。目立たず、光る仕事を
岡村晃司にとって「12番」とはどんなポジションなのか。そう問うと、彼はしばらく考えたあと、こう答えた。
「外の選手を活かす。そういうプレーが、自分には合っていると思います」
インサイドCTBには、様々なタイプの選手がいる。パワーで前に出る選手もいれば、ゲームメイクを担う司令塔タイプもいる。岡村は後者、ボールを動かし、流れを創る側の12番だ。
「もちろん、前に出るプレーも必要だと思っています。でも、自分のサイズでは無理にキャリーしてもつぶれる可能性が高い。だったら、強いランナーが活きるようなパスを選ぶ。その方が、チームとしていい形になる」
その言葉の通り、彼のプレーには“間”がある。突っ込むのではなく、判断して、繋ぐ。焦らず、慌てず、淡々と。
目立たない。でも光る。岡村晃司の12番には、そんな言葉がよく似合う。
◆近鉄、そしてライナーズへの思い
岡村晃司は、近畿日本鉄道の「社員選手」である。
「今は上本町の本社勤務です。シーズン中は週に1回、午前中だけ出社する日があるくらいで、基本的にはラグビーに専念させてもらっています」
プロ契約と比べて練習時間が限られるように思えるが、ライナーズでは社員選手にも最大限の競技環境が用意されている。岡村は、会社の理解とサポートに深く感謝しているという。
ラグビーに集中できる今の環境は、自身にとってちょうどいいバランスだと話す。
この“社員であること”は、彼のキャリア観にもつながっている。岡村は移籍という選択肢を、これまで一度も考えたことがない。
「このチームで骨を埋めるつもりです。どこまでできるか分かりませんが、辞めるときは、ライナーズと決めています」
その言葉に、飾り気はない。だが、確かな覚悟がにじんでいる。
大学時代は帝京大学でレギュラーになれず、一度はラグビーをやめることも考えた。そんな自分に声をかけてくれたのが、ライナーズだった。だからこそ、感謝と恩義は人一倍強い。
「拾ってもらったという気持ちが、ずっとあるんです。だから、自分にできることは全部やりたいと思っています」
その実直さと誠実さが、岡村晃司という選手を形作っている。

◆ラグビーの原風景と、宿る意志
ラグビーとの出会いは、幼いころに観た試合がきっかけだった。
「小1のとき、いとこが天理高校の選手として花園の決勝戦に出ていて。それを観て、自分もやりたいと思ったんです。すごく感動したのを覚えています」
第84回大会、天理vs啓光学園。天理を31-14で下した啓光学園が戦後初の4連覇を成し遂げた試合である。
OBの太田春樹(コーチ)や森田尚希(強化・編成)らが凌ぎを削った試合。ライナーズとの縁を感じている。
天理中学、御所実業とキャリアを積み上げていった。
大学は関西の私学を検討していたが、最終的に進んだのは帝京大学。入学当時、帝京は大学選手権で9連覇を達成した時期の真っただ中だった。
「1年のときにちょうど9連覇した年で。試合には出られませんでしたけど、すごい選手たちと練習を共にできたことは、今でも大きな財産です」
前述の通り、“拾ってもらった”近鉄でのキャリアが始まり、気づけば5年目。社員選手という立場でありながら、チームの主力として12番を任される存在へと成長した。
今後の目標は「ライナーズで12番を任され続ける選手でいること。」
目標は、誰よりも等身大だ。
ライナーズで得たキャップも50を目前に数える。狙うは100キャップ。背伸びはしない。だが、着実に前へ進む。
その静かな意志が、岡村晃司の中で、力強く息づいている。
◆小兵であるが故──それでも彼は前に出る
誰もが日本代表を目指すわけではない。誰もが目立つプレーを追い求めるわけでもない。
岡村晃司は、「このチームで、12番を任され続けること」に価値を見出す。派手さはないが、確かにそこにいる存在。
試合に出続けること。仲間を活かすこと。しんどい時に、前に出ること。
チームの勝利のために、必要な時に必要な場所へ顔を出す。それがどれだけ難しく、どれだけ価値あることか──。見る者は、もう知っている。
170cmの身体に、揺るぎない意志と覚悟を宿して。岡村晃司は、今日もチームに尽くす。