【ラグリパWest】昇格しかない。大阪体育大学ラグビー部

大阪体育大学のラグビー部は35年ほど前、「ヘラクレス軍団」と呼ばれた。
鍛え上げた肉体。ウエイトトレーニングをラグビーに初めて本格的に持ち込んだ。それのみの日をグラウンドと交互に設定した。
大学選手権は4強に進出する。1989年度は8校制の26回大会。優勝する早大に12-19と詰め寄った。主将は高橋一彰(現トヨタVアドバイザー)。この時の躍進を軸に、PRとして日本代表キャップ21を得た。
略称は<大体大>。関西では「タイダイ」と短く呼ばれる。その白黒ジャージーが低迷にあえぐ。ここ10年で8年はBリーグにいる。関西大学リーグの二部である。
この2025年の主将は4年生の羽田賢信(はだ・けんしん)である。目標を示す。
「Bで完全優勝。入替戦に勝つことです」
京都工学院出身。<信は力なり>である。羽田は172センチ、78キロのCTB。2年からレギュラーに座る。
監督の長崎正巳は信頼を寄せる。
「端的にものごとを伝えられる。コンタクトエリアを含め、体でも引っ張れる」
言語化する能力が高い。知的である。羽田は部員間のアンケートと首脳陣のミーティングによって選ばれた。
その羽田は昨年12月14日の入替戦、関西大戦を思い返す。Bリーグ1位で臨んだが、18-19と1点差で惜敗した。
「相手はここぞ、というところでミスがなかった。精度が最後まで保たれていました」
関西大に後半53分、トライとサヨナラとなるゴールキックを決められた。
羽田はCTBで先発していた。その部分の改善のため、動く。
「あいさつ、遅刻をしないなど、私生活からラグビーにつなげようとしています」
それらはチームの規律につながる。規律が強固になれば、精度は保たれる。
「自分が1年生の時には、練習に参加した4年生が3人とかの時もありました」
就職活動や公務員試験の勉強などの名目で練習を抜ける。認めざるを得ない部分はあったが、戦う集団にはなりにくい。羽田が1年の時には龍谷大に負け、Bリーグ2位だった。ここ10年で最低の成績だった。
長崎は現状を話す。
「今は練習開始の30分前に集合。15分前にグラウンドに出る。時間が来たら即練習」
プロ野球の巨人に伝統的に残る「ジャイアンツタイム」をラグビーが実践する。
長崎は還暦。OBである。現役時代はCTB。マツダ(現SA広島)にゆく。1997年、退社して母校に戻った。ラグビーに折々関わりながら、事務方のトップである事務局長などを歴任して、昨年2月に監督に就任した。
この長崎と毎日、グラウンドに立つのはヘッドコーチの和田哲元(旧姓・金)と部長の中井俊行の2人だ。ともにOB。和田は41歳。SHとして近鉄(現・花園L)に入り、日本代表キャップ2を獲得した。今は近鉄百貨店から母校に出向している。
中井は長崎の1学年上。准教授としてコーチング学を教える。4年時の1985年度にはPR主将として、関西Aリーグを初制覇した。同志社大の連勝記録を71で止める。滋賀・希望が丘での一戦は34-8だった。
コーチは伊藤雄大と木戸亮(あきら)がいる。伊藤はPRとしてヤマハ(現・静岡BR)などでプレー。現在、JR西日本のヘッドコーチを主にして、兼任の形をとる。木戸もPR出身でNTT大阪(現RH大阪)に籍を置いた。長男はBL東京のバックロー、大士郎だ。
バックアップ体制は体育大学らしく手厚い。体力の増進を図るS&Cコーチは伊藤隆太と森脩貴(なおき)の2人。今は1時間30分の講義の空き時間にめいめいがウエイトトレーニングをする。
「メニューを提示してくれます」
主将の羽田には感謝がある。
ケガの治療や予防に関するアスレチック・トレーナーは﨑濱星耶(せいや)。学内では准教授。高校やU17の日本代表のトレーナーなども経験する。東(ひがし)亮太もいる。
新入生は25人が入部して、選手は79人になった。WTBの山内デイビスは大阪の成城出身で、一芸に秀でた2023年度の「ビッグマン&ファストマン」に入った。今年1月にあったU18合同チーム東西対抗では50メートル6秒を切る快足でトライを挙げた。
山内ら25人を新たに収容した大体大の創部は1968年(昭和43)。開学はその3年前である。1977年、坂田好弘が監督に就任。力をつけた。坂田は現役時代、近鉄のWTBとして日本代表キャップ16を重ねた。関西制覇は5回。大学選手権出場は27回。最高は1989年度を含め3回の4強である。
その昔日の栄光を取り戻したい。グラウンドは今春、人工芝が敷き直され、走りやすさが加わる。春までは二部練習もやった。
「2月から3月。その辺りやね」
部長の中井は振り返る。チーム始動は1月20日。ウエイトトレーニングから始まった。
BKの中心は主将の羽田なら、FWには3年生LOのソナタネ・コロがいる。184センチ、123キロの堂々とした体格。トンガからの留学生として、青森山田に入学した。今年は社会人を見据え、PRにも挑戦する。
さらにこの新年度、4月からOBの菊谷崇が客員教授に加わった。部長の中井は言う。
「ラグビーをする、はないけどね」
大学教育としての人材である。とはいえ、心強さはある。菊谷はバックローとして、トヨタ自動車とキヤノン(現・横浜E)で日本代表キャップを68まで積み上げた。
この春の対外試合は2勝2敗。Bリーグの関西外大には96-5、大阪産大には68-19とするも、Aリーグの関西学院には7-45、5月4日の近畿大戦には0-86で敗れた。関西学院は昨年の関西リーグ4位、近畿大は同3位。現状ではAの上位と力の差はある。
確認できた現在地から春、夏、そして秋を通して、どこまで力を上げられるか。大義はある。ヘラクレス軍団の「復活」だ。