【サクラフィフティーン PICK UP PLAYERS】負けたくない。阿部恵[SH/アルカス熊谷]
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2022年のW杯は正SHとして全3試合に先発。147センチと小柄ながら素早いパス捌きを評価され、英国の専門誌『ラグビーワールド』が選ぶ大会ベストフィフティーンに名を連ねた。
26歳の阿部恵は背番号9にこだわる。リザーブにも役割があることは理解しつつも、先発出場への意欲を隠さない。
「過去に何度もリザーブで試合に出られない経験をしました。自分のパフォーマンスを何も出せないのは本当に悔しい。自分の存在価値を疑ってしまう時もあります。スタートで出てチームを勢いづけたい」
昨季は苦杯を舐めた。ほとんどのテストマッチでベンチからの登場だったのだ。BK担当のベリック・バーンズコーチにわけを聞いた。
「自分はテンポを上げることが得意ですが、ただテンポを上げるだけではスタートから出ているFWが後半について来られない。周りの味方の状況も見て、ゲームをコントロールしないといけないと。課題がクリアになったのは大きかったです」
愛媛県出身。幼少期から負けず嫌いな性分だった。鬼ごっこや運動会のリレーなど、勝負事には「絶対に負けたくなかった」。あまりに真剣で、周囲から笑われることもあった。
「熱くなると結構、口も悪くなる(笑)。嫌われていたと思います」
ラグビーを始めたのは小学4年時。兄の通う北条ラグビースクールに入団した。それまで打ち込んでいたバレーボールとのギャップに惹かれた。
「バレーは球拾いしかさせてもらえませんでした。でも、ラグビーは自由に走り回れました」
母の反対には泣いて懇願し、中学でも続けた。高校は瀬戸内海を渡って石見智翠館へ。そこで黒木理帆と出会った。
中学時代から名が知られ、高校在学中に日本代表となった同級生と接し、「自分も代表を目指したいと強く思うようになりました」。
「(元日本代表の)鈴木陽子さんの体格も私と同じくらいだから頑張ればいけると言ってくれました。陽子さんはたぶん自分にしかない強みを持っているから活躍できていると思って、自分はパスを磨こうと」
智翠館でも、黒木と同じ進路を選んだ立正大でも、とにかく「量」をこなした。
大学では1学年上のSH、野田夢乃と早朝練を敢行。朝日が昇りきる前からパスを放り続けた。
3年時に念願の初キャップを得ると、今度はレスリー・マッケンジーHCから「質」を求められた。
起点となるSHのパスが悪ければ、良いアタックにならない、と。
「いまは味方の一歩前であったり、それぞれ選手の欲しいところにパスが通らないと嫌だと思うくらい、こだわっています。疲れていても、どんな状況でも、です」
自身2度目のW杯は「もっと長く過ごしたい」と意気込む。前回大会はプール戦で敗退。「あっという間に終わったという感覚が強かった」。
「前回大会に出場できたことは自信に繋がりましたが、結果が出ていないので喜びはまったくありませんでした。今年は絶対、ベスト8」
もう負けたくない。
(文/明石尚之)
※ラグビーマガジン5月号(3月24日発売)の「女子日本代表特集」を再編集し掲載。掲載情報は3月16日時点。