国内 2025.04.11

「生きる」を問う――花園近鉄ライナーズ・野中翔平

[ 赤木元太郎 ]
「生きる」を問う――花園近鉄ライナーズ・野中翔平
東海大仰星3年時にキャプテンとして花園優勝を果たした野中翔平。生来のリーダーだ(写真:チーム提供)


 これほどまでに、自分自身と真っすぐ向き合う思考の持ち主に出会ったことがあるだろうか。そして自分自身に問い続けることを、私たちはどれだけできているだろうか。

 闘う哲学者、野中翔平は 自らの言動、行動を日々内省し、問い続ける。――「お前は、なんのために生きているのか」。

 これまですべてのカテゴリーでキャプテンを任されてきた、生粋のリーダー。そんな彼に、花園近鉄ライナーズの現状、チームの課題、そして“これから”を聞いた。

◎“勝てるはずだった”――甘さの代償とチームの現在地

 第10節を終えた時点で、ライナーズは6勝3敗1分け。 勝ち点31で、S愛知とGR東葛を追う3位につけている。

 開幕から引き分けを挟んでの連敗。苦しい立ち上がりとなった今シーズンを、野中はこう振り返る。

「正直、自分たちの甘さが出た結果だと捉えています。過去、トップチャレンジ(当時)やディビンジョン2では自分たちは圧倒できていた。その驕り、成功体験を払拭しきれないまま、シーズンに突入してしまったと感じています。」

 リーグワン元年、ディビジョン 2を制し、ディビジョン1への昇格を決めたチーム。「自分たちはこのレベルなら勝てる」──そんな空気が、言葉にならずとも、チームの中には確かに流れていた。

「戦術面の課題ももちろんありました。でも、それ以上に、『必ず1年でディビジョン1に復帰する』という覚悟を、スタッフを含めたチーム全員で本気で共有できていなかった。そこがすべてだと思います。」

 ひとつひとつの試合で、目の前の勝利を積み重ねていかなければいけない。その当たり前の現実に、敗戦を重ねることでようやく向き合いはじめた。

「シーズン中盤以降にやっと各自の役割や、チームとしての方向性がすり合ってきた感じです。本来なら、今シーズンのキックオフミーティングの時点でやっておかなければいけなかったこと。それができていなかったことが、いまの自分たちの“組織としての弱さ”だと思います。」

◎プロセスを問う

「プロセスを信じよう。」

 勝てない時期に、どのチームでもよく聞かれる言葉だろう。 結果に表れないからこそ、目に見えない積み重ねを信じ、前を向く。心が折れないように。

 だが、野中はそこにも問いを投げかける。――結果が出てないプロセスは、本当に正しいのか?

「もちろん努力はしているし、みんな必死でやっている。でも、それを“正しい”と自己認定してしまうことで、本当は問い直すべきことに蓋をしていたんじゃないかと。うまくいってないかもしれない──その感覚をちゃんと持てていたのかどうか。」

「勝てないからこそ、プロセスにフォーカスする。でも、それは“結果を問われる怖さ”から逃げる言い訳にもなる。もしかしたら、自分たちもそうなっていたんじゃないかと思います。」

 言い訳の中に“納得”を積み上げることはできる。 だが、納得の先に勝利はない。

 野中は、自分たちが何に目を向け、どこから逃げていたのかを、ずっと問い直していた。

◎「クラブカルチャー」を問う

 かつてTLの下部リーグ、トップチャレンジに属していた時代、花園近鉄ライナーズは「勝つのが当たり前のチーム」だった。

「僕がまだ社員選手として所属していた頃、トップチャレンジでは勝つのが当たり前で、職場でも“昨日どうだった?” と聞かれても、勝ったか負けたかは触れられない。みんな勝つのが当たり前と思ってくれていました。」

 そんな「勝って当然」の文化は、時を経て、変わらなければいけなかった。野中は今、「クラブキャプテン」という立場でチームを見ている。

 オフフィールドでの立ち振る舞いやカルチャーを作っていく役割、そう解釈している。

「ディビジョン1の上位チームを見ていると、どんなチームなのかが分かりますよね。チームの内情に詳しくなくても、プレーを見ていると何となくでもそのチームらしさが伝わる。自分たちに足りていない所だと思います。」

 では、ライナーズはどんなチームで在りたいか。

「すごく抽象的な言い方になってしまうのですが、子どもたちが見て『こうなりたい』と思ってもらえるような、そんな大人で在りたいし、チームで在りたいと思います。」

◎ラグビーとは、“生きる”ということ

 タックルがすごい、パスがすごいというプレーもその要素の一つかもしれない。 しかしそれ以上に無限の可能性を秘める子どもたちが「これだ!」と思える瞬間を作りたい。

 そして子どもに限らず、試合を見た人が、「明日からまた頑張ろう」と思えるような、“生きる気力”になるような存在になりたいと話す。

「スポーツ、特にラグビーは“生きる”ということを感じやすいと思います。ラグビーは一瞬一瞬のプレーに全力が出る、逆にそこの手を抜くと観ている人にも、チームにもすぐにばれる。しんどい時に走れるか、痛いことをできるか、ボールに飛び込めるか、その瞬間に人間性が出やすいスポーツです。」

 日常生活において「いつ自分が全力を出したか」──それは意外と難しい問いだ。 どこかで余力を残していたり、後先を考えたりしてしまう。

「でもラグビーでは、それが許されない場面がたくさんある。そういう意味で、僕はラグビーが“生きる”ということにすごく近い存在だと思っています。」

 SNSが普及し、タイパ(タイムパフォーマンス)が重視される時代。情報があふれ、答えを急ぐ社会で、野中はあえて問い続ける。

「何のために生きているのか──。」

 正解はない。問い続けることが、自分を生きるということなのかもしれない。

◎問いの原点

「高校までは、全員が同じ目標を持っていました。仰星では“日本一になる”という明確なゴールがあって、ある意味リーダーシップがなくても自然とまとまれた。でも、大学や社会人になると、それぞれが異なる背景や目的を持って集まってくる。そこに一体感を生むのは、簡単じゃない。」

 野中翔平は、中学、高校、大学、そして社会人と、すべてのステージでキャプテンを務めてきた。高校では日本一を経験し、勝利の歓喜も、思うようにいかない悔しさも、人を導くことの難しさも、すべて味わってきた。

「ライナーズというチームでプレーする意味。それを一人ひとりが持てるように、スタイルや文化をつくることが、自分を含めたベテランの役割だと思っています。」

 ライナーズには、才能ある若手がいる。その選手たちが、「努力し続けること」に本気になったとき、このチームはもう一段階、上のステージへ進める──そう確信している。だからこそ、土台となる“らしさ”が必要なのだ。

 そして、自分自身についてこう語る。

「自分はずっと劣等感を感じてきました。高1の春にはAチームで使ってもらえましたけど、仰星の先輩もそうだし、高校日本代表候補の合宿では、坂手さん、姫野さん、松田さんたちに出会って、“これでは勝てない”と強烈に思わされた。足りないことが分かった。だからこそ、何をすべきか、どうやったら勝てるのかを考える癖がついたんだと思います。」

足りないことを知る。野中の「問い」の原動力だ。

 正解のない、ともすれば考えなくても良いことの本質を考える。自分なりの答えを見つけようと模索し、深い思考の旅に出る。

 自分に問い、組織に問い、未来に問いを投げ続ける。

 そこに、野中翔平というラグビー選手の“生き方”がある。

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