コラム 2025.04.11

【ラグリパWest】関西に還る。藤野佑磨 [レッドハリケーンズ大阪/PR]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】関西に還る。藤野佑磨 [レッドハリケーンズ大阪/PR]
東芝ブレーブルーパス東京からレッドハリケーンズ大阪に移籍したPRの藤野佑磨。元々、関西出身である。王者のラグビーをリーグワン二部のチームに伝えたい。写真のポーズは「レッセン」。藤野は「ラッパーが作った造語で、ポジティブに立ち返る、を意味します」と説明した

 藤野佑磨(ゆうま)は昨秋、関東から関西に引っ越した、というより、還ってきた、という表現がぴったりくる。

 関西には大学卒業の22の年までいた。今は29歳になった。所属はレッドハリケーンズ大阪。略称は「RH大阪」である。リーグワンのディビジョン2(二部)で戦っている。

 藤野は日焼けをして野生味あふれる。両目は大きく黒く輝く。大阪の感想がある。
「お店はどこに行っても美味しいです」
 大きな体を維持しなければならないPRらしい。181センチ、115キロある。

 東京にいるその7年間、BL東京に籍を置いた。昨シーズンにはリーグワンの優勝を経験する。プレーオフ決勝は5月26日、埼玉WKを24-20で降した。

 その歓喜を最後に現役引退する予定だった。リーグ戦の出場は2試合。王者では存在感を示せない。藤野は社員選手だった。親会社的な東芝で社業に専念する考えだった。

 その報告をしたひとりが杉下暢(とおる)。RH大阪の主将だった。
「一緒にやらないか? ウチはもっと強くなっていかなあかんのや」
 誘ってもらえる。杉下は立命館大の先輩だった。差は3学年だ。

 RH大阪の目標はディビジョン1への昇格だ。その最上を経験し、優勝を知る藤野の加入はプラスになる。社員選手ということもチーム方針に合致する。RH大阪はNTTの再編があった3年前から、日本人のプロ選手は獲らなくなっていた。

 現場トップのGMである高野一成を中心に会社に働きかける。昨年10月1日、正社員として親会社的なNTTドコモに途中入社できる。喜びは大きい。
「どんな形であれ、貢献したいです」
 RH大阪はこの2024-25シーズン、10戦しているが、藤野はそのうち8試合に出場した。先発1、入替7である。

 藤野を後押しする格言がある。
<PRは30歳からのポジション>
 経験を積み、駆け引きを覚える。その実りをこのRH大阪に捧げたい。20年以上にわたるこの競技を始めたのは小1だった。兵庫県ラグビースクールである。父の影響だった。

 父・実生(じつお)はアパレルメーカーのワールドが1984年(昭和59)、ラグビー部を創部した時のメンバーである。FBだった。ワールドはリーグワンの前身である全国社会人大会で準優勝したこともあったが、業績不振などを理由に2009年に休部した。

 藤野は小1から中3まで兵庫県ラグビースクールで過ごす。高校は地元の報徳学園に進んだ。3年でレギュラーになる。最後の冬の全国大会は93回(2013年度)。8強敗退。優勝する東海大仰星に17-66だった。

 立命館大に進んだ理由がある。
「強かったです」
 高3時に関西制覇をしていた。主将は高校の先輩、庭井祐輔。横浜Eでプレーを続け、HOとして日本代表キャップ10を持つ。

 大学時代は日本代表の下に位置するジュニア・ジャパンやU20日本代表に選ばれた。当時、GMだった高見澤篤は思い出す。
「よく走り、プレーはひと通りできました」
 4年時には大学選手権に出場する。54回大会(2017年度)は初戦の3回戦敗退。慶応に12-101と大差をつけられた。

 社会人でもトップでラグビーを続けたく、4年の春、合同トライアウトを受けた。リーグワンの前身、トップリーグの開催だった。夏、東芝が連絡をしてきてくれた。
「FWが強いチームで、うれしかったです」
 藤野は振り返った。

 BL東京となったチームでもっとも影響を受けたのはリーチ マイケルである。
「言葉と行動が一致しています。試合後のロッカーなんかも率先して片づけていました」
 日本代表の第3列としてキャップ87を得て、主将も経験したリーチはお手本になる。
「餞別をいただきました。有田焼のコーヒーカップでした」
 尊敬する人は最後まで優しかった。

 東芝に入った時は背番号3の右PRだったが、3年ほどで左PRに移った。
「3番は激戦区でした」
 入部時の先輩には浅原拓真(現・浦安DRアシスタントコーチ)や知念雄(現・相模原DB)らがいた。日本代表キャップは12と6。3学年下には小鍜治悠太が入ってくる。

 ドコモでは3番に戻った。ヘッドコーチ(監督)の松川功の要請である。
「元気なところやサイズが合っている」
 松川も現役時代、PRだった。
「1番は難しい。自分は右利きですけど、バインドは左手になります。3番はきつい。両サイドから相手に挟まれます」
 藤野は解説する。

 右から左、という簡単なことではないが、藤野はチームの思いに応える。
「スター選手がいないので、みんなでチームを作り上げてゆくところが面白いです」
 仕事はNTTドコモからの出向で、ドコモビジネスソリューションズに籍を置く。
「今は法人営業のサポートをしています」
 練習優先の支援体制もうれしい。

 ラグビーの目標を口にする。
「ディビジョン1に昇格して、BL東京と試合をすることです」
 RH大阪は10戦を終わり、勝ち点26の4位。入替戦に出られるのは上位2チームだ。2位・GR東葛との勝ち点差は9。残りは4試合である。

 シーズンは佳境に入ってきた。藤野は試合に出て、勝ち点積み上げに貢献したい。一方でBL東京において学んだこともある。
「先発の15人、リザーブを含めて23人だけでは勝てません」
 ノンメンバーは対戦相手をつとめるなど、一丸にならなければいけない。

 これまでチーム全体の勝利を肌で感じてきた。たとえ自分が不出場でも、その前向きな行動は続けてゆく。新天地での役目である。

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