国内 2025.04.04

イーグルスは諦めない。古川聖人と松井千士が語る部内のバトル。

[ 向 風見也 ]
イーグルスは諦めない。古川聖人と松井千士が語る部内のバトル。
松井千士と古川聖人(撮影:向 風見也)

 部屋の前にあるホワイトボードを見て知った。

 内々で試合のメンバーを発表したミーティングで、自分の名前の横に然るべき印がついていたのを受け、3月22日の国内リーグワン1部・第12節でゲーム主将をするとわかった。

 古川聖人。横浜キヤノンイーグルスへ加入1年目にして、大役を務めることになった。まもなく、沢木敬介監督から期待されるタスクを聞いた。

「その場、その場で方向性を示す…。レフリーとコミュニケーションを取る…。あとは、身体を張ってプレーで見せる…と。いつも自分がやっていることにプラスすることは、そこまで多くはないです。簡単ではないですが、それをやりやすいような雰囲気を周りの選手とスタッフに作ってもらっています」

 これまで所属した東福岡高、立命大、さらに前年度までいたトヨタヴェルブリッツでも主将を務めたことがある。FLとしての献身的なファイトに加え、人を引っ張る力も買われる。

 移籍後でのパフォーマンスも光っていた。今度の決定に、2020年からいるWTBの松井千士もこう頷く。

「入ってきて1年も経ってないですけど、聖人がゲーム主将になったことに誰も『え?』とは感じない。リーダーシップを発揮してくれていましたし、いずれはそうなっていく選手だと思っていました」

 2人が話したのは4月1日。予め取材申請を受けていた2人が、クラブハウス内に設けられたインタビュー会場へほぼ同時に入室した。

 2季連続4強以上のイーグルスは現在、苦しんでいる。

 進行中のシーズンでは第13節まで3連敗。その間、古川が初めてゲーム主将を務めた第12節では、3位だったクボタスピアーズ船橋・東京ベイに24-41で敗れている(東京・スピアーズえどりくフィールド)。

 何よりそれを前後し、戦前の順位で下回るリコーブラックラムズ東京、トヨタヴェルブリッツにも土をつけられていた。総じて多角度的なアタックを披露しながら、要所での反則や敵陣ゴール前でのミスに泣いていた。

 他チームの状況もあり、順位は長らく12チーム中6位で踏みとどまっている。

 ただしCTBの梶村祐介主将、南アフリカ代表SHのファフ・デクラークは故障で離脱中だ。今季から6傑が進めるプレーオフ行きへ、試練が課されているような。

 28歳の古川はまず、こう話す。

「基本的には、やらなくてはいけないことができている時間帯のほうが多い。ただ、80分間のうち2~3分かもしれないですがスイッチが切れる瞬間があり、そこでトライを獲りきれなかったり、スコアされたりしている。やはり、繋がり続けてチームで勝つのがイーグルスのスタイル。ほんの2~3分のところがかみ合えば、もっと流れを引き寄せられる」

 痛恨のエラーが起きるわけも内省する。「ここは本当に難しいところではあるんですけど…」と続ける。

「どことなく、他人事になってしまっているんじゃないかな…というところがあって。『チームとしてやらなくては』と思っていることを、『自分が(やるべき)』にしきれていない。個々で責任を持ってやり切るようにしていかなきゃだめかなと。同じミスが続いているわけじゃないんです。ただ、同じような種類のミスは続いている。そんな中、『これからこんなこと(問題)が起きるかも』と考えていきながらやっていかなくては」 

 前向きであろうと努める。

 取材日に開かれた全体ミーティングでは、指揮官はあくまで優勝を諦めないと話していたようだ。
 
 30歳の松井は「『あとひとつのパス』をしっかり繋ぎ、スコアしていけば、自分たちのリズムを作れる強いチームです」と頷く。

「聖人が言う『2~3分』の集中力が切れた時間帯。去年であればそれがあっても何とかカバーできたかもしれないですが、いまはリーグ全体の質が上がってレベルじゃなくなっています。ただ、チーム(イーグルス)は、まとまっていないわけじゃない。いい雰囲気ではあります」

 日々の鍛錬では、「ライザーズ」と呼ばれる控え組が牙をむく。その圧力が主力組を引き締める。

 直近の第12節(3月30日/クラサスドーム大分)では、ヴェルブリッツにモールを起点としてトライを奪われている。

 ただ、スコアされるまでの過程で「モールでシンプルに押されていない」と実感できた。

 その背景には「ライザーズ」の奮闘があると、古川は述べる。

「確実にライザーズのプレッシャーが強い。ライザーズとの練習では3本連続くらいで獲られています。セットプレーは、練習の時のほうがやられています」

 新天地の雰囲気について、好意的に言及した。

「イーグルスは、シーズン中もフルコンタクトの練習がある。競争する環境がある。また、イーグルスに長くいる選手は、たとえライザーズでもイーグルスが勝つためにいい影響を及ぼそうと行動する。いい文化がある」
 
 5日には東京・秩父宮ラグビー場で、12位の浦安D-Rocksと第14節をおこなう。

 しばらく「ライザーズ」にいた松井は、11番で先発する。

「僕がいることも多かったライザーズのプレッシャーは、どんどん上がっている。土曜日に試合がある週は木曜にライブ(フルコンタクト)がありますが、その時は『ここが試合?』というような感覚です。過去を思い返しても、一番タフな練習をしている。いいのか悪いのかはわからないですが、胸倉をつかみ合うことも。ライザーズがスクラムやモールでトライを獲ったら大喜びしていますし、いいやり合いができています。チャンスをもらった時はチームに勢いをもたらしたい。流れを変えられるプレーがしたいです」

 かたや20番で途中出場を目指す古川は、こう展望する。

「(特定の選手にミスがあっても)『誰かがではなく、自分がそこ(問題点)を変えていく』と信じてやり切れるかが大事。他責になってはよくない。自分が試合に出ている時は、きつい時の動き出し、でかい相手へ真っ先にタックルに行く姿勢を見せ続けたいです」

 ネバーギブアップを誓う。

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