【ラグリパWest】和歌山の星になる。玉置将也 [クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/FL]
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FLのポジションを獲る。
それはすなわち、生まれ育った和歌山の星になることでもある。
「ラグビーがメジャーではないところなので、知ってもらえたらいいなと思います」
玉置将也(たまき・まさや)は笑う。26歳、山羊座のB型。真面目で努力の星らしい。
今、住まうのは千葉だ。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの一員である。チームの略称は「S東京ベイ」。リーグワン最上、ディビジョン1(一部)のひとつである。
和歌山には高校卒業の18歳までいた。スポーツの中心は野球だった。春夏4回の甲子園優勝の記録を持つ智辯和歌山や同数の箕島(みのしま)がその代表である。
ラグビーにおける県勢の冬の全国大会出場は54回。2回戦進出が最高だ。玉置の出場はなく、その3年間を過ごした熊野は13回の出場すべてで1回戦敗退の記録が残る。
そんな故郷に玉置はラグビーを広めたい。身長は188センチ。体重は100キロ。大きく丸い両目は優しい光をたたえている。
「男前ですよね」
前川泰慶(ひろのり)も同意する。S東京ベイの現場トップ、GMである。
レッドカーペットに立っても、海外の男優に位負けしないだろう。ラグビーで結果を残せば、その方向でも面白い。あっ、玉置は社員選手でした。クボタの膜システム部に勤務して、産業排出物をきれいな水に変えている。ハリウッドに行っている暇はない。
玉置の実家は和歌山の南、いわゆる「南紀」を構成する白浜町にある。パンダがいるアドベンチャーワールドが有名だ。
「町民は年1回、入場無料になります」
小さい頃から町名の由来である白く美しい砂浜を駆け回った。当時、風呂は薪で焚いていた。自然の中で大きくなった。
ハンサムで野生児っぽい玉置だが、今シーズンはまだ23人のメンバー入りはない。
「今は1秒でも出たいです」
バックローの層は厚い。ピーター・ラピース・ラブスカフニや主将のファウルア・マキシがいる。日本代表キャップは19と15。末永武雄や新加入のタイラー・ポールもいる。
玉置は個人練習に励んでいる。
「背中の筋肉を鍛えています。タックルにつながってきますから」
ベントオーバーロウは20キロ増の重さ90キロでやる。前かがみになってバーベル浮かし、胸まで持ち上げるトレーニングだ。
玉置を含め出場争いは激しいが、チームにギスギスした空気はない。
「ファミリー感があって、めちゃくちゃいいです」
4歳上の末永は居残り練習につきあってくれ、ごはんを食べさせてくれる。主将のマキシも率先して講習会を開いてくれる。
教えることによって、自分も学ぶ。そして、技量を上げてゆく。教員出身のフラン・ルディケがヘッドコーチ(監督)になって10年目。上級者が下のものの世話をする教育的な部分はチームに浸透している。
S東京ベイは試合日の2日前にチームゲームをする。関西人の玉置はその司会をする。
「雰囲気はよくなりますね」
日本人と外国籍の選手が組み、お題の漢字を伝え、それを書いてもらう。ある日本人選手はその漢字自体がわからなかった。
「おい…」
試合2日前に大爆笑が起こる。そのS東京ベイに玉置は日体大から加わった。この大学は、熊野の現前の2人の監督、瀬越正敬と清水晃行(故人)の母校だった。
日体大では2年でCTBからLOに移った。
「タックルが好きでした」
体の大きさも生かせる。その2018年秋、対抗戦開幕となる慶大戦で先発する。
「ぼろ負けでした」
スコアは17-84。適応力の高さは示せた。
4年時の2020年は部員投票で主将に選ばれた。前川は練習に誘う。コロナ対策のため、神奈川・健志台の寮から車で送迎した。
「玉置はまっすぐ、まばたきもせず前を見ていました。その真剣さが気に入りました」
この年の対抗戦は6位だった。
玉置は社会人実質2シーズン目となるリーグワン2022-23で優勝を経験する。LOからFLに下がった時期と重なる。
「トップでは少し小さかったです」
このシーズンは18試合中6試合に出場した。17-15としたプレーオフ決勝の埼玉WK戦はリザーブに名を連ねた。
頂点に至るラグビーを始めたのは小1だ。梅干しジュニアクラブである。兄2人はご多分に漏れず野球をやった。
「ボールを持って走るのが好きでした」
中学はシーカラグビーアカデミーで続けた。
その和歌山が玉置は大好きだ。
「人があったかくて、ごはんは美味しいです」
温暖でもの成りもいい。昔はプロ野球の南海(現ソフトバンク)がキャンプをした。自然、人は穏やかになる。父・康仁は釣り船を持っている。ブリ、イサキ、マグロなどの刺し身は脂が乗り、ほかでは食べられない。
ご当地選手として、リーグワンのディビジョン1在籍は2人のみである。
「服部さんと自分だけのはずです」
服部航介は同じFLで、三重Hに所属する。和歌山工から帝京大に進んだ。この高校は「紀北」にあり、地域性は違う。
玉置は服部の5歳下だ。伸び悩みを突き抜けたい。S東京ベイは今季13戦を終え3位。残りのリーグ戦は5試合だ。上位6チームでのプレーオフに進出すれば、玉置の今季初出場の可能性は依然として残る。
S東京ベイのジャージーはオレンジ色。和歌山は同色のみかんも美味しく、生産量は日本一だ。縁はそこにもある。健闘したい。