新人に洗礼。サンゴリアスのイザヤ・プニヴァイ、勝利への準備と献身。

ピンチに反応する。
ウェーブのかかった長髪を後ろに束ね、東京サントリーサンゴリアスの24歳のイザヤ・プニヴァイが駆ける。
3月29日、東京・秩父宮ラグビー場でプレーしたリーグワン1部の第13節は、序盤から勢いと勢いがぶつかっていた。
対するは静岡ブルーレヴズ。戦前で4位と好調だ。この午後も前半7分頃、ビッグチャンスを作った。
FLのクワッガ・スミス主将が軟体動物のような動きで接点の脇を破り、快走し、LOの大戸裕矢に繋いで敵陣22メートル線を破る。まもなく売り出し中のSH、北村瞬太郎がバトンを受け継ぐ。
ルーキーはフィニッシュを確信した。今季、かような好サポートからのトライを重ねてきたからだ。
ここに待ったをかけたのが、プニヴァイだった。
サンゴリアスのアウトサイドCTBであるこの人は、意気揚々と走る若者を必死に追った。左肩より下へ飛びついた。倒した。
自らも地上へ滑り込んだ。サンゴリアス側から見て右のゴールポストにぶつかりながらも、視線を切らなかった。相手の持つボールに手をかけた。落球させた。
北村は天を仰いだ。「プニヴァイ選手の根性」に恐れ入った。
「なかなかああいうシーンでタックルされることはなくて…。気を抜いていたわけではないんですけど…。最後に獲りきれなかったところは僕の責任です。リーグワンのレベルの高さをいま一度、感じました」
一方、ニュージーランドはウェリントン生まれの24歳はこうだ。
「まだ試合が始まって間もなかった。言い訳なしで、一生懸命に戻ってタックルしました」
10-14とビハインドを背負っていた後半10分には、攻めで光った。
ハーフ線付近左中間で球を受けると、内側、外側とステップを踏む。防御のひずみを突く。ハンドオフを交えて加速。敵陣22メートル線を通過した。
最後は同僚の左PRである小林賢太がトライゾーンを陥れるなどし、17-14と勝ち越した。
このシーンをプニヴァイは「正直言って、そこまで覚えてないんです」としながら、ちょうど近くに立っていた味方WTBのチェスリン・コルビからの声があったと述懐する。
「チェスから『行ってみろ!』と言われ、自信を持って行くしかない、と」
以後も献身した。80分フル出場し、タックルまたタックルで向こうの流れをせき止めた。
ノーサイド。22-17。戦前に12チーム中8位と苦しんでいたサンゴリアスの連敗を3で止め、加入3シーズン目となるクラブの仲間と喜び合った。
「きょうはグラウンドが濡れ、たびたび試合時間が止まったのもあり、体力は持ちました!」
旧トップリーグ時代に5度優勝のサンゴリアスへ身を置くなか、体得したのは自律の意識だ。
母国のクルセイダーズを経て日本に来たばかりの折は、スーパーやコンビニなどに売られているお菓子があまりにおいしく感じた。それでも日本のハイテンポなゲームスタイルへ対応すべく、日々の暮らしを見直すに至った。身体を絞ることにした。
植物の形をした人気のチョコレートつきビスケットは、本来ならば大好きなのにあまり手を付けなくなった。
いまは身長189センチ、体重100キロのボディをシャープに保つ。「自分はチームで一番、身体が硬い」から自覚し、普段のストレッチも入念におこなう。朗らかに述べる。
「(新シーズンへは)準備期間から筋肉の質を変えました。それがコンタクトにも繋がっているのでは。去年から、肉と、野菜をたくさん摂っています」
今季は第9節からの3試合を負傷で欠場した。復帰戦となった秩父宮での第12節においても、「100パーセントのパフォーマンスを発揮できなかった」。コベルコ神戸スティーラーズに37-39で屈した。
捲土重来を期した。本来のコンディションに近づくよう「コアのストレングス」と「フィットネス」の強化に努め、ブルーレヴズ戦を迎えた。
自身を含め多くのメンバーが満身創痍かもしれぬ中、覚悟を決めてフィールドに立つ。
「怪我人が増えている中ですが、(サンゴリアスの)黄色いジャージィを着ると決まればチームを引っ張らないと。その思いは、全選手が抱いていると思います」
協会登録5年以上で得られる日本代表入りへの資格にも「長いスパンでは目標にしている」と興味を持つ。もっともいまは、目の前の戦いにフォーカスする。6傑以上が進むプレーオフ、さらにはその先を見据える。
「まだ、優勝は目指したい。そのチャンスがあれば、毎日、毎日、100パーセントを出し切ります」