一度きりの人生。竹中太一[三重ホンダヒート/SH]
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リーグワンD1のバイウィークにあたる3月上旬、三重ホンダヒートの竹中太一は東京にいた。
他の選手たち数名とともに青山にある本社を訪れ、4月11日に秩父宮ラグビー場でおこなわれるホストゲームへの来場を呼びかけるためだ。
その足で、2年後の移転先でもある宇都宮の製作所も訪ねたという。
インタビューはその合間におこなわれた。
その時点で第10節を終え、ヒートは4勝を掴んでいた。2節前には横浜キヤノンイーグルスを破った。
その試合でPOMに輝いた竹中の表情にも、自信がみなぎる。
「ディフェンスが大きく改善されました。僕らが勝つとしたら接戦しかない。ダイナボアーズ戦もイーグルス戦もそうでしたが、食らいついて食らいついて最後の最後で逆転するのがチームのスタイルです」
昨季は1試合平均で50点弱取られていたが、今季は第12節までで平均33失点。
防御をテコ入れするのはマリウス・フーセンDFコーチだ。キアラン・クローリーHCとともにイタリア代表も指導した名参謀は、厳しいコーチングで知られる。
「オンとオフがハッキリしていて、オンの時はニコニコしているのですが、練習では毎回ブチギレてますね…(笑)。ただ、それも愛のある厳しさです。一貫性のある指導ですし、もっともなことで怒ります」
昇格1年目の昨季は1勝しかできなかったチームの躍進に、竹中も貢献する。
昨季はキャリアハイの14試合(入替戦含む)に出場も、出番はすべて控えからだったが、今季は先発機会を4度得る。うち2試合でフル出場だった。
「去年はボールを捌くのに必死でした。でも今年はパスの精度も上がりましたし、余裕が出てきた。しっかり周りを見て、裏のスペースもチェックできています」
スクラムハーフを本格的に始めたのは昨季から。三重ホンダヒートに加入した2022年当初は、大学時代と同じバックスリーでの起用が見込まれていた。
「ハーフは高校生以来でした。それも、高3の花園前に数か月やっていただけです。でも、WTBだとどうしてもサイズで劣る(竹中は173センチ、80キロ)。試合に出られる可能性を上げるにはハーフで勝負したいなと。(コーチ陣に提案すると)反対もされず、両立できれば一番良いと言われたので、いまでも毎週WTBの位置にも入っています」
社会人でのコンバート、それからリーグワンD1での先発起用…。
これだけでもニュースなのに、それが霞むほどのキャリアを歩んできた。
関西大卒業後、竹中は一度ラグビーから離れ、一般企業に就職している。2年目からは、配属された名古屋で働いていた。
「知り合いの方がいた名古屋クラブに入りました。そこでのラグビーが楽しく、プロを目指したいなと。40歳になったらトップレベルでラグビーすることは難しい。人生一度きりですし、今しかできないことをやらないと死ぬ直前に後悔すると思いました」
ラグビー王国のNZに渡り、そこでアピールしてリーグワンのチームに加入する――。そんなイメージを描いた。
しかし、そのチャレンジはわずか1か月で絶たれる。世がコロナ禍に入ったのだ。
「体験留学みたいな感じで終わりました(笑)」
ここからの歩みが周囲からは「刺激的」と映っても、本人は「そこまで何も感じていない」と話すのはこの経験を経たからだ。
「会社を辞めて、NZに行って、すぐに帰ってきて…。そこまでキツいことはもうないだろうというメンタルですね」
後にトライアウトで宗像サニックスブルースに入団するまで、ゴルフ場とコンビニのアルバイトをかけ持った。
サニックスではキャリア初のSOとして入団(名古屋クラブではCTBでプレー。BKの全ポジションを経験)。シーズン終盤の3試合に出場できた。
メイン・ウェザーの名言を引用して言う。
「グラウンドには最後まで残っていました。サニックスでトップのレベルを見せられて、やるしかないと。試合に出られないなら、周りと同じようなことをやっていても一生出られない。周りが休んでる時に練習しないといけない。それはいまでも変わりません。ハーフに転向してからは、毎回誰かしらを捕まえてパスを放り続けています」
しかし無情にも、そのシーズンをもってチームの休部が決まった。
ヒートの加入が決まるまでは、再びバイトをかけ持った。知り合いの魚市場とコンビニで働いた。
「コンビニはラグビースクール時代のコーチがオーナーをされているお店なんです。また帰ってきてしまいました、と」
いまは当時のことを笑顔で振り返れる。大学卒業後にリーグワンでのプレーを志す”後輩たち”にも、「簡単に諦めるのはもったいない」と伝えたい。
サニックスではハーフ団を組んでいた土永雷(どえい・あずま)と、いまヒートで正SHを争う。
そんな感慨深さも胸に秘める。
「グラウンドに立てていることがすごく幸せだと思いますし、すごく充実感はあります」
這い上がってきたキャリアは、ヒートの歩みとも重なる。
終盤戦でまた白星を積み上げ、個人としてもチームとしても、飛躍の年としたい。