【南アフリカ記者コラム】チェスリン・コルビvsアントワーヌ・デュポン

「世界で一番のラグビー選手は誰か?」という議論は、世界中のラグビーサイトで盛り上がりを見せるテーマだ。
そこでは、しばしば注目を集める名前が2つある。
チェスリン・コルビとアントワーヌ・デュポンだ。
もちろん、彼らは全く異なるポジションでプレーしていて、フランス代表SHのデュポンは大ケガで長期離脱を余儀なくされている。
しかし、この2人の名前はどんな議論の場でも多くの関心を集めているのも事実だ。
北半球の専門家たちはデュポンを推すことが多く、その中には彼を「史上最高の選手」と称賛する声もある。
一方で、南アフリカの熱狂的なファンたちは、まるで「ボム・スコッド」のようにしつこく反論し、WTBのコルビこそが最も優れた選手だと主張している。
もし、ラシー・エラスマスHCが介入していなければ、この議論は始まる前に終わっていたかもしれない。
コルビはフランス代表として活躍する可能性があり、南アフリカの偉大な選手として祝われることなく過ごしていたかもしれないからだ。
コルビは当初、南アフリカ代表の選考から外れていた。国際舞台に立つには小さ過ぎる(172センチ)と考えられていた。
過去にも同じような体格の「ポケット・ロケット」たちは選ばれてこなかった事情もある。
しかし、2017年に24歳でTOP14のトゥールーズに移籍した際、ユニークな才能はすぐに認められた。
フランスのメディアは、コルビの最初のシーズンで「トップ14ベスト外国人選手」と評価。トゥールーズのユーゴ・モラHCも「彼のアタックの才能でスタジアムを満席にできる」と称賛した。
コルビはその後、トゥールーズやトゥーロンで5年以上プレーしていたから、フランス代表の資格を得てブルーのジャージーを着ていたかもしれない。
しかし幸運にも、ラシー・エラスマスHCはモラHCやフランスのメディアの熱意を受け、コルビを2018年のラグビーチャンピオンシップに招集した。
9月のオーストラリア戦でデビュー。1週間後にはNZ戦で歴史的な勝利(36ー34/2009年以来のアウェーゲームNZ戦勝利)に貢献した。
この瞬間から、2度のW杯制覇を果たしたスプリングボクスにとって欠かせない存在となり、31歳のいまでも数々のトロフィーを手にしている。最近では、南アフリカの「プレイヤー・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれた。
コルビの物語はまだ続いており、エラスマスHCは2027年にオーストラリアでおこなわれるW杯で南アフリカが前人未到の3連覇を果たすため、コルビを重要な選手として位置づけている。
さて、コルビとデュポンの議論に戻ろう。
元オールブラックスで81キャップを獲得した偉大なSHだったジャスティン・マーシャル氏は、コルビが昨秋にケープタウンでおこなわれたNZ戦での活躍を受け、「彼こそが地球上で最も優れた選手だ」と称賛した。
コルビはその試合で、敵陣ゴール前のラインアウトに参加。スローワーを務め、FLシヤ・コリシ主将のトライに繋げていた。
「彼はスピード、パワーに加え、さまざまなスキルを持っている。なにもないところからトライチャンスを作り、自らもスコアする。オールブラックス3人を抜き去る日もあった。彼はデュポンと並ぶか、世界最高の選手を決める議論に入るべきだ」
ただ、ほとんどの南アフリカのファンは言う。その議論は逆だ、と。
デュポンが「世界最高の選手」を決める議論に加わるためには、南半球での活躍を証明する必要があると言われている。
フランスのスーパースターは、まだ南半球で活躍したテストマッチを経験していないのだ。
だから南半球の多くの人々は、コルビこそが王者だと考えている。