「築き上げている過程」。ヒート移籍1年目で充実の中尾隼太、古巣へ「冷酷」に挑む。
東京を離れて久しい。近所に好きなコーヒー店、焼き肉屋、寿司屋はもう見つけた。三重ホンダヒートに来て1年目の中尾隼太は、新たな拠点を楽しむ。
「環境が変わることで、自分自身もいろんな変化が生まれる部分がたくさんある。すごくポジティブです。ゆったりしていて、自然もたくさんあって。でも意外と、関西にも名古屋にも1時間~1時間半で行ける。…明日もUSJ に」
話をしたのは1月19日。三重交通G スポーツの杜 鈴鹿のメインスタンド下にある取材エリアだ。ちょうど大阪にある大型テーマパークの「USJ」ことユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ行く前日でもあったが、直前までは、加盟する国内リーグワン1部の第5節に出場していた。
東京サントリーサンゴリアスが相手だった。昨季まで中止を挟み7シーズン連続全国4強以上と、日本ラグビー界きっての名門である。ヒートは19-27で敗れたが、終盤まで接戦を演じた。
中尾は前半28分から登場し、司令塔のSOで攻めを引っ張っていた。陣地を問わず球を保持した試合運びについて、こう総括した。
「今回はどんどんボールを保持してアタックするというプランだったので、それを最後までやりきったという点ではよかったです。ただ今後は、ボールを(ディフェンスラインの)裏に転がしたりとか、スペースに蹴ったりと、ボールを持ってアタックするバランスをもうちょっと考えていかないといけないかなという風に思います」
そもそも、ヒートの強みは防御にもあると考えている。首尾よくエリアを獲って望む位置で球を奪い、この日欠場のレメキ ロマノ ラヴァら好ランナーを走らせられたらよい。
「色んないい選手がいる。本当に面白いラグビーができてくるんじゃないかなと思います」
鹿児島大の教育学部で教員免許を取り、2017年には現東芝ブレイブルーパス東京へ入った。‘22年には日本代表となり、昨年5月はクラブにとって14季ぶりの日本一に輝いた。
新天地のヒートも頂点を見据える。責任企業の号令のもと、3年以内でのリーグワン制覇を目指す。
移籍選手も多い。そのひとりである中尾は、週の始めには同じSOのマヌ・ヴニポラ、就任2年目のキアラン・クロウリー ヘッドコーチとミーティング。ウィークエンドのゲームへプランを共有し、多国籍のグループに落とし込む。この人はバイリンガルでもある。
「ディスカッションしたり、しっかりトレーニングしたりして、仲を深め、(ひとつの集団を)築き上げている過程にある自分たちの力を信じてやっていけば絶対いい方向に向かう。ハードワークして試合に勝っていくことで、自信、信念を、積み上げていくことが大切」
開幕2連勝と存在感を示した前半節、さらには束の間の「USJ」を経て、2月2日には休息週明け最初の第6節を迎える。
古巣のブレイブルーパスを鈴鹿に迎える。
前年度はこの場所で、ブレイブルーパスの一員としてヒートと戦ったもの。今度の一戦を「ラグビーを通して、想像していない未来が開けていく感じ」と心待ちにする。
「やっぱり、普通の試合とは違う思いもあります。ホームでホンダのラグビーをして、絶対に勝ちたいな…って。チャレンジする立場から全てをぶつけたいです。(ブレイブルーパスには)たくさん友達がいますけど、冷酷になってやっつけたいです」
勝負のポイントは、「ここで言ったら(向こうに)ばれちゃうんでね。試合を見ていただけたら」とのことだ。