国内 2025.01.27

イーグルス古川聖人、今度対戦の古巣ヴェブルリッツへ残した足跡。

[ 向 風見也 ]
イーグルス古川聖人、今度対戦の古巣ヴェブルリッツへ残した足跡。
横浜Eの古川聖人(撮影:向 風見也)

 週末には、昨季まで所属していたチームとの試合がある。特段、高揚感を抱きそうな状況にあっても、古川聖人は落ち着いている。慎重に言葉を選ぶ。

「ポジションは確約されていない。まずはメンバーに入れるよう努力をする。100パーセントの準備をする。そのなかで、試合ができたら嬉しいというところです」

 トヨタヴェルブリッツから横浜キヤノンイーグルスに移って1季目にあたる。話をしたのは1月27日。東京都町田市のキヤノンスポーツパークでのことだ。ここがいまの拠点である。

 敵地の愛知・豊田スタジアムで古巣とぶつかるのは2月1日。国内リーグワン1部の第6節だ。

 2019年のヴェルブリッツ入部から3年ほど社業へ携わり、退団直前まで「経理部」に籍があったという古川。新天地を決めた際には、部署の送別会をしてもらっている。次戦のリストに名を連ねたい意思を、明確に持っていた。

「元チームメイト、いまでも連絡をくれる職場の方々にプレーしている元気な姿を見せることは、ひとつの恩返しになります」

 身長179センチ、体重94キロの28歳。鞘ヶ谷ラグビースクール、東福岡高、立命大と行く先々で主将を務め、ヴェルブリッツでも一時は共同主将を担った。

 社会人1、2年目まではゲームに出られないと「チームファーストになれない子どもっぽいところがまだあった」ようで、当時のヘッドコーチだったサイモン・クロン、現指揮官でその頃は軍師役だったスティーブ・ハンセンから「悔しいのはわかるが、(思いが態度に)出すぎ」と諭されていた。精神力が培われたと自覚する。

「だからといって出られないこと満足したり、そこに心地よくなったりするのは違う話です。だからこそ(出場可否にかかわらず)出ても、出なくても、自分のパフォーマンスにこだわる」

 ’20年、自身と同じオープンサイドFLの位置へ、マイケル・フーパーがやってきた。

 現在の公式サイズで身長182センチ、体重92キロと他の一線級と比べては小柄も、オーストラリア代表の主軸として ‘19年までにワールドカップを2大会、味わった地上戦の名手だ。

 1シーズン限定在籍のフーパーがいる間、古川はフーパーの全体練習後のトレーニングへ混ざった。タックル、ジャッカルにおける正しい身体の使い方を涵養。その模様は動画へ収めた。

 熟練者の知見を底力に変え、’22年には学生時代以来となる日本代表復帰も成し遂げた。何より、貴重な財産は後進にも遺した。

 昨季途中、’24年度の新人として京産大主将だった三木皓正、元帝京大副将の奥井章仁が入部してきた。

 自身と似たタイプの有望株である2人と、古川は個別のレッスンを重ねた。

「自分が一番、成長できたのはフーパーと一緒にやっていた時です。そのことや自分のこと(知識)をシェアしました」

 その時点ですでに移籍を考えていたことも、然るべきタイミングで後輩には話したようだ。実際にヴェブルリッツを離れる折には、3人で食事をした。

 組織は動き続ける。

 このほどヴェブルリッツは、フーパーの再獲得を発表した。そのフーパーへ古川は、スタッフを介してのビデオ通話でイーグルスへの加入を報告できた。今度のイーグルス戦でフーパーが登場するかは不透明も、古川の薫陶を受けた三木、奥井は公式戦デビュー済みだ。

 古川もまた、過去とは違う自分になろうとしている。

 ファーストジャージィを緑から赤へ変えた先では、同じ立命大OBで5学年上の嶋田直人らと切磋琢磨する。

 元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介監督からも、シャープな言い回しで発破をかけられる。

 それまで磨いてきた職人芸と、それを繰り返すための心技体について、まだまだ伸びしろがあると思い知らされる。

「ちゃんと言ってもらえる(指摘される)し、その内容は間違っていない。どんどん(改善を)求められるほうが、より自分も成長できる」

 ちなみにこの日のセッションでは、レギュラー候補にミスがあるたびにボスが繰り返していた。

「『これくらいでいいや』は、やめよう!」

 イーグルスは‘18年度こそ旧トップリーグで16チーム中12位も、前年度まで2シーズン連続でトップ4以内と変貌を遂げた。リーグワン発足から4強入りをしていない古川は、イーグルスの進歩の秘訣に日々の意識づけがあると見る。

「ひとつひとつへのこだわり、厳しさを持っています。それは監督が作ったカルチャー、雰囲気なのかはわからないですが、皆にハングリー精神を持って成長する心がある」

 今季はここまで3勝2敗で12チーム中4位。いまだ1勝も戦力十分のヴェルブリッツとの80分と、その先を見据え、こう誓う。

「どんな形であれ優勝に貢献する。きのうよりもきょう、きょうよりも明日…と、少しずつでもいい選手になる」

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