各国代表 2024.12.30

財政難に苦しむフランス協会。スタッド・ド・フランスの使用を巡り激しく対立。

[ 福本美由紀 ]
財政難に苦しむフランス協会。スタッド・ド・フランスの使用を巡り激しく対立。
11月9日におこなわれた日本代表とのテストマッチの観客数は、約5万にとどまった(Photo/Getty Images)



 12月7日に開かれたフランス協会の総会で、2023-24年度の協会の営業損失が2940万ユーロ(約48億円)となったことが発表された。7年連続の赤字となり、累積額は6510万ユーロ(約107億1600万円)に達した。

 2940万ユーロのうち、2023年ラグビーワールドカップ(以下、W杯)のホスピタリティ関連の特別目的事業体(GIE)における損失リスクに対する引当金が、1650万ユーロ(約27億1600万円)を占める。

「依然として非常に厳しい状況にある。この期の業績を大きく悪化させているのは、W杯のホスピタリティ関連事業の負債だ」とフランス協会のフロリアン・グリル会長は述べた。

 W杯だけでなく、パリ郊外のパンタンの不動産複合施設への3500万ユーロ(約57億6100万円)の投資や、パリ五輪のスタッド・ド・フランスの利用によりフランス協会が利用できなかったことに対する補償交渉の欠如など、前体制の負の遺産が財政状況を圧迫している。

「投資ファンドCVCからのシックスネーションズの売上の配当金振り込みが、まだ2回ある。猶予は20か月。その間に立て直さなくてはならない。時間との戦いだ。退職者が出ても新しくスタッフを加えていない。招待券も大幅にカットした。供給業者との交渉も続いている。新たなスポンサー獲得にも精力的に動いている」とグリル会長。

 財政状況改善のためにフランス協会が重きを置いていることの一つが、スタッド・ド・フランスとの契約だ。スタッド・ド・フランスの所有者である国は、現行コンセッション(公共施設等運営権制度)事業者である建設大手によるコンソーシアム(バンシ及びブイグ)との2025年8月4日の契約満了を前に、競技場を売却するか、コンセッション契約を結び直すか検討していた。

 コンセッション契約の獲得に関心を示したのは、現行コンソーシアムとフランス大手イベント会社のGL Eventsの2社にとどまり、VIPルームの再整備などに4億ユーロを投資することを約束したコンソーシアムに対し、1億ユーロ程度の投資を約束したGL Eventsが独占交渉権を獲得した。

 政府に対する不信任案が提出された混乱期にこの決定が下され、コンソーシアムは入札参加者間の不公平な扱いがあったことを理由に訴訟を起こしているが、協会とGL Eventsとの交渉はすでに始まっている。

 スタッド・ド・フランスで行われた11月のテストマッチについて、「フランス対日本の試合で5万人の観客を集めたが、それでも数十万ユーロに上る損失が出ている」とグリル会長は説明している。

「リール、リヨン、マルセイユなら収益を上げられたはずだ。スタッド・ド・フランスの利用料は高すぎる。今後、スタッド・ド・フランスではスタジアムを満員にできる試合を年に4回開催し、他の試合は地方で行いたい。その方が、窓口を広げて、より多くの人にラグビーを見てもらいたいという我々の意向に合っている。もちろん、競技人口獲得のためだ」

 スタッド・ド・フランスの利用料は、1試合につき120万ユーロ(約1億9750万円)と言われており、「7万人集客しなければプラスにはなりません。通常ならこの試合は地方で行われていたでしょう。しかし、契約上、スタッド・ド・フランスで1年間に一定数以上の試合をしなければならないという規定があります。2022年11月にRER(パリ市内とスタッド・ド・フランスをつなぐ鉄道)の工事があり、南アフリカ戦をマルセイユで行いました。今回の日本戦は、ある意味、南アフリカ戦の代わりになると言えるでしょう」とフランス協会の副財務理事、クロード・エリアス氏が補足する。

 地方のスタジアムの候補地として、マルセイユのスタッド・ヴェロドローム、リヨンのグルパマ・スタジアム、そしてボルドーのマトムット・アトランティックが手を挙げており、マルセイユ、リヨンのスタジアムから協会に提示されている利用料が1試合につき40万ユーロ(約6600万円)。地方で開催すれば、セキュリティーに関する費用もパリほどかからない。スタッド・ド・フランスよりキャパシティーは小さいが、収益を出しやすいというメリットがある。

 さらに、「スタッド・ド・フランスのVIPラウンジは十分ではなく、我々のビジネスモデルに合っていない」とグリル会長は付け足す。多くのラウンジが地下にあるためグラウンドが見えず、試合中は場所を移動しなければならないのだ。

 GL Eventsから提示された30年という契約期間にも合意できない。協会側は12年、もしくは12年後に契約を解除できる条項を求めている。

「もし合意に至らなければ、我々は全試合を地方で開催する用意がある。交渉の現状を見る限り、地方での試合の方が収益性が高く、我々にとって問題はない。スタッド・ド・フランスは私たちの収益を最大化する上で最も重要な要素だ。そのため、再交渉においては非常に強硬な姿勢で臨んでいる。これは、政府、 GL Events、協会 の三者間の駆け引きであり、誰かが譲歩せざるを得ない。しかし、それは協会ではない。彼らがどんな政治的な圧力をかけてこようとも、我々の姿勢は変わらない。ラグビーをスタッド・ド・フランスで行いたいのであれば、彼らが自ら対策を講じなければならない」とグリル会長は一歩も譲らない構えだ。

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