日本代表 2024.06.22

自然体で。矢崎由高[早大2年/日本代表]

[ 編集部 ]
自然体で。矢崎由高[早大2年/日本代表]
海外挑戦は中学時代から秘めた夢。「海外のラグビーはずっと見てきて、中学の時にはなぜかパスポートまで作っていました」(撮影:松本かおり)

 まもなくキックオフを迎える日本代表×イングランド代表。

 第2期エディー・ジョーンズHCの初陣で、先発FBに抜擢されたのが矢崎由高だ。早大2年のハタチである。

 ラグビーマガジン4月号(2月25日発売)では、2027年W杯に向けて次代のジャパンを担うと期待される、代表入り間近の選手たちにいまの思いを訊いた。その一人が矢崎だった。

 インタビュー記事をここに再録する(掲載内容はすべて当時のまま)。

 先の日本代表のトレーニングスコッド合宿に選ばれた、3人の大学1年生のひとりだ。

 矢崎由高。

 この世代の顔と言っていい存在である。最初に脚光を浴びたのは、桐蔭学園1年時の花園だ。全試合で背番号15をつけ、幾度となくラインブレイクを決めた。計7トライを記録、2連覇の立役者となった。

 2年時は花園ベスト4、SOに挑戦した3年時は県予選敗退と、チームとしての結果は残せなかったが、執拗にマークされても矢崎は矢崎であり続けた。花園に行けなかった悔しさは、高校日本代表で爆発させた。強豪アイルランドを相手に1勝1敗の好成績。その躍進に、矢崎はビッグゲイン連発のランで貢献した。

 その後のU20日本代表にも飛び級でスコッド入りし、チャンピオンシップを経験。大会参加全選手でダントツのディフェンス突破数(31回)を記録してみせた。栗原徹コーチ(現浦安DRコーチングコーディネーター)は「はやく日本代表に行くべき」と評する逸材だ。

 ただ、ひとたびグラウンドの外に出れば、「キレいめコーデ」でキャンパスに通う普通の大学1年生。まだお酒も飲めぬ19歳である。

「僕、めちゃくちゃ甘党で。コンビニのデザートとか、しょっちゅう食べています」

 アスリートたるもの食事管理は大切では、と聞けば「若いんで」と笑って返す。

 そんな青年は2027年のW杯を23歳で迎える。社会人1年目だ。

 単刀直入に聞いた。2027年のW杯に出たいですか?

「『出られたらいいな』くらいでしたけど、(キャンプを通して)少し気持ちが変わりました。面談でエディーさんから、十分に(出られる)チャンスはあると言ってもらえたので、目指したいです。全員に言っているかもしれませんが(笑)」

 その1対1の面談では、指揮官からこれからの道標を示されたという。線が細いからウエートに励み、ウエートを好きになりなさい。長いキックを蹴れるようになりなさい。世界と戦うために必要なハイボールキャッチを上達させなさい…。

「久々に緊張した」というキャンプで受けた刺激は大きかった。意外にも、早大の大田尾竜彦監督から電話で招集の知らせを受けた時は「正直、びっくりした」と話す。

「エディーさんが若い選手を呼ぶ傾向にあることは知っていましたが、(大学選手権)ベスト8で負けたので、見てないのではないかと。僕より良い選手は大学の中にたくさんいる。ギリギリ引っかかったんだと思っています」

 ただ、代表への思いは強く持っていた。「高校代表で初めて日本を背負わせてもらい、一番上(フル代表)でもこの桜のジャージーを着たいと思いました。日本を背負う覚悟や資格はまだないと思うんですけど、そう思ってしまった。日本の代表するのがすごく新鮮で楽しかったんです。これがW杯だったらもっとすごいんだろうと」

 より世界を意識するようになったのは、昨夏のU20チャンピオンシップを経験してからだ。日本はフランスやNZ、アルゼンチンなどと戦い全敗。矢崎は全試合にほぼフル出場したが、感じたのは手応えよりも世界との大きな差だった。

「カテゴリーが1個上がっただけで手も足も出ない。ここまで差があるとは思っていませんでした。試合の流れるスピード、コンタクトスピード、単に走るスピードも速い。フランスが一番すごくて、エイトが自分より何㌢も大きくて何十㌔も重いのに、自分よりも速かった。また頑張ろうと思えました」

 高校卒業後に即プロとなる海外選手たちの、成長の早さを痛感した。早大で鍛錬を積むしかない矢崎は、その差をどう埋めるのか考えていたという。

「ひとつのプレー、ひとつの選択が、フランスが相手であればどうなっていただろうとか、考えながら練習しています。(世界と戦う)マインドを落とさずにやってこられたと思います」

 直近の対世界は、U20としての活動(パシフィック・チャレンジやU20トロフィー)になるだろう。下部のトロフィーとはいえ、スコットランドやウルグアイ、パシフィックアイランドのチーム(トンガかフィジー)もいる。

 それまでに、課題のひとつであるフィジカルの強化は必須だ。

「すでにチームの練習は再開していて、去年負けた原因でもあったフィジカルをチームとしても見直しています。ただ、自分の持ち味はスピードなので、キレを維持しながら外国人選手に負けないような体づくりをしないといけない。正直、まだあまり自分の体のことを理解できていません。(増量とスピードの)バランスをうまく見つけていかないと」

 未熟な面も明かすが、最大の武器であるランには自身の中で答えがある。大切にしているのは、「意識しないことを意識する」こと。それは、中学3年の頃に母・幸代さんから言われた教えだった。

「いつかの大会でパフォーマンスが良くなかったときに、ラグビーに対して何かを言うことは滅多にないお母さんに、初めてこうしたほうがいいと言われて。うまく抜こうとか、カッコよくトライしようとか、そういうことを考えているから上手くいっていないと。心の中のどこかにそういう気持ちがあって、それがいまでも印象に残ってます」

「どう抜こうかを頭で考えすぎると、体に移すのが遅くなって相手との間合いが詰まる。意識するのは、どこにスペースが空いていて、相手がどっちを見ているかとか最低限のことだけ。ただ、練習はもっと向上するにはどうしたら良いかを考える場なので、ひとつ多く考えてみたり、もうひとつ違うところを見てみたり、というのは意識しています。そうやって試してみてうまくできた成功体験が、ラグビーをやっていて僕はすごく好きです」

 飛び級でU20に選ばれたり、日本代表のトレーニングスコッドに呼ばれたり。自分の注目度がどんどん高まっていることを自覚しながらも、あの頃と変わらず純粋にラグビーを楽しむ19歳がいた。

PROFILE
やざき・よしたか。180㌢、86㌔。2004年5月12日生まれ、20歳。高槻ラグビースクール(4歳~小)→吹田ラグビースクール(中)→桐蔭学園→早大スポーツ科学部2年。高校、U20、日本代表

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