国内 2024.05.25

王座奪還へ。ワイルドナイツの福井翔大は「いつも通りやっていればチームは勝つ」。

[ 向 風見也 ]
王座奪還へ。ワイルドナイツの福井翔大は「いつも通りやっていればチームは勝つ」。
準決勝はリザーブから登場。スターターでの出場となる決勝に意気込む©JRLO



 細かい網目のパーマ。最初に薬剤と熱波を頭に当てた日は5時間ほど座りっぱなしで、最後は臀部が痛くなった。

 埼玉パナソニックワイルドナイツの福井翔大は、大らかな風情を醸しながらタフにぶつかれるラグビー選手だ。

 トレーナーの佐藤義人氏のもと効果的な身体の使い方を習得したためか、タックル、突進をする瞬間に身長186センチ、体重101キロの身体の軸がぶれない。

 5月21日、本拠地のグラウンドにいた。東京・国立競技場での国内リーグワン1部の決勝を5日後に控え、休息後初のトレーニングに臨んだ。

 本番への準備が始まったタイミングだ。心境を明かす。

「緊張、してますよ。きょう(ゲームウィークの初日)が、一番、緊張するので。まぁ、いつも通り」

 レギュラーシーズンは全勝で首位も、18日に東京・秩父宮ラグビー場であった準決勝では横浜キヤノンイーグルスに苦戦。向こうの連携攻撃に防御ラインを攻略される場面があった。

 もっとも、勝負は20―17で制した。前半31分から登場の福井は、自軍の懐の深さを前向き捉える。

「ずっとディフェンスをし続けて…というなかで勝ったのは、でかいと思います。うまくいかない時でも、骨組み、土台のところに基礎があるから、最後まで(点を)取られ切らなかった。まずチームがあって、個人がチームのことをやり続けた」

 決勝ではNO8で先発する。好走者の揃う東芝ブレイブルーパスへ挑む。迫るランナーを一撃で仕留め、周りの味方が迅速に防御網を築くのを助けたい。

「ダブルタックルの強度(を意識)。東芝はそこ(1対1)が強みだと思うので、僕らはそのファイトで負けない。押し込ませない」

 東福岡高から大学を経ずにプロになったのは、2018年のことだ。

 ‘21年秋に初めて日本代表のツアーに参加し、‘23年に初キャップを獲得。同年秋にはワールドカップに初出場した。大会中、24歳の誕生日を迎えた。

 フランスで開かれたその大舞台では、出番が1度しかなかったなかスタッフから尊敬された。

 トレーニングで控え組に入って身体を張り続けたうえ、試合会場のロッカー、練習施設で率先して掃除をしていたという。

「それが、僕の思い描いていた日本代表の姿だったので。本当に悔しい思いをし続けて、不貞腐れそうになった時もあるんですけど、そういうことをしちゃうと、後々、恥ずかしくなるのは自分だし、それを俯瞰したらすごくダサいので。とにかく、食いしばって、頑張ろう…と」

 6月、体制を新たにした日本代表が本格的に動く。

 招集が期待される福井は、「もし呼ばれたら、自分がやることをやる。ここでやっていることと変わらず、です。自分勝手なことをせずチームにコミットして、そのなかで持ち味を出せればいいな…って」。そういえばフランス大会終了後にワイルドナイツへ合流後、リーグワンの公式戦で先発から外れることがあった。その折、ロビー・ディーンズヘッドコーチに諭されていた。

「シーズンの最初、ロビーさんにそういう風なこと(チームの動きを遵守すべきという考え)を言われて、確かにな…と。(以後は)やってやるぞという気持ちを抱くよりも、チームに対してどう動けば勝つ方向に行くか、です。『活躍できるかな? 足を引っ張るんじゃないかな?』ではなく、『いつも通りやっていればチームは勝つ。チームを信じて考えすぎない』です」

 何色のジャージィを着る時も、組織の求める動きに沿って「自分を出す」。5月26日のファイナルでも然りだ。

 師事するHOの堀江翔太が今回を最後に引退することには、「実感がないですし、あんま考えないようにしています。堀江さんに何かをするのは、終わった後ですかね」と笑った。国内2連覇を達成した一昨季以来となる日本一達成へ、自然体で緊迫感を受け入れている。

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