ワイルドナイツの守備職人ラクラン・ボーシェー、引退する堀江翔太に感心。
主力組がハドルを組んだ。
「ブルー!」
HOで主将の坂手淳史が発するのは、ジャージィの色にちなんだキーワードだ。フィールドに立つ15人が繋がって攻め、守るよう意識づけていた。
国内リーグワン1部の埼玉パナソニックワイルドナイツは、5月16日、本拠地のグラウンドで汗を流した。2日後に東京・秩父宮ラグビー場であるプレーオフ準決勝へ、調整を進めていた。
対する横浜キヤノンイーグルスには、前年度の同じ舞台、さらには今季のレギュラーシーズンに2度あった直接対決でも勝利している。
しかし、SHの小山大輝は気を引き締める。
「(イーグルスは)何をしてくるかわからないので」
沢木敬介監督率いるイーグルスは、複層的な陣形から多彩な攻めを繰り出す。
特に大一番では、ラインアウト、もしくは敵陣ゴール前のペナルティーキックから華美なサインプレーも繰り出す。対峙する側が「何をしてくるかわからないので」と警戒心を抱くのは自然だ。ノックアウトステージであればなおさらである。
この午後の実戦形式トレーニングでは、「ナイツ」と呼ばれる控え組がイーグルスの攻撃戦術を忠実に再現した。流れのなかで、前年度の対戦時にトライを与えた際の幻想的なサインプレーも真似る徹底ぶりだ。
その「ナイツ」のチャレンジを、坂手らレギュラー組は一枚岩の防御網で跳ね返した。適宜、ラインスピードを上げ、好タックルやインターセプトを決めた。
ロビー・ディーンズヘッドコーチは言う。
「『もし○○の状況ならば…』と言ったシナリオを想定した準備をしてきました。試合で驚きが生まれないようにしています。沢木さんは色々と計画を立ててくるでしょう。この(優勝争いの)時期はそうするのが普通です。イーグルスが成功を収めるために必死になること、リスクを背負って立ち向かってくることはわかっています。我々は相手にリスペクトを払い、(最終的に)いいチャンスをもらえるようにしていきたいです」
守備のキーマンのひとりは、FLで先発のラクラン・ボーシェーだ。
一昨季まで国内2連覇のワイルドナイツにあって、迫る走者に刺さる。接点に絡む。かくしてライバルの攻めを鈍らせ、2連続リーグ最少失点の堅陣を支える。
身長191センチ、体重104キロの29歳。 2016年からの6シーズンは、国際リーグのスーパーラグビーへ挑んだ。ニュージーランドの強豪チーフスで活躍した。
日本のリーグワンに参加するのは’22年1月からだ。今年度のリーグ戦では2ぶりとなる実戦全勝(’22年は2度の不戦敗あり)。今度のノックアウトステージへ、「いい流れで来ていて、ビッグゲームへ気持ちは高まっている」と意気込む。
「(プレーオフは)我々だけではなく、ファンの皆さんも楽しみにしている戦いです。自分のベストを出せるように頑張りたいです」
昨季のプレーオフでは、決勝でクボタスピアーズ船橋・東京ベイに15―17で惜敗。終始、ミスを重ね、終盤に逆転された。その日もスターターだったボーシェーは、「2点差で敗れた。それにより、自分たちのラグビーのランクが上がった」と振り返る。
「小さいようで大きい2点という差を噛みしめ、それを乗り越えようとしてきました。選手たちは去年よりもいいマインドセットで臨めています。80分間、高いメンタルを保てるかが鍵です。昨年(に敗れたファイナルで)はスイッチがオフになる場面がいくつかあり、そこでフィジカルで後手に回った。今年は一貫性を意識します」
チーム状態が充実しているいまだからこそ、油断は禁物と言いたげだ。アスリートとしてのモラルを高次で保つなか、同僚からも刺激を受ける。
日本代表としてワールドカップに4度出場し、今季限りで引退するHOの堀江翔太から、ボーシェーが得意なジャッカルについてアドバイスを求められる。
かねて堀江もジャッカルの名手とあり、「あんなに素晴らしいジャッカラーが私から教わる必要があるのかと思いますが…」とボーシェー。「お互いに学び合える、知見をかわし合える関係性はよいものです」と続けた。
「私が(肉弾戦で)ボールを強くグリップするところ——そこは私の強みでもあるのですが——を気にして見て下さって、それを参考にしてくれているようです。…このように、キャリア終盤でも学ぶ意欲があるのは、彼が人間として素晴らしいことの証明です。学ぼうとする姿に頭が下がります」
現在38歳の堀江と戦えるのはあと2試合。力を出し切り、最後の花道に彩りをもたらす。