国内 2024.03.18

オフロード名手チャールズ・ピウタウ 「ハードワーク」できるブルーレヴズが好き

[ 向 風見也 ]
オフロード名手チャールズ・ピウタウ 「ハードワーク」できるブルーレヴズが好き
ブラックラムズ戦でも鮮やかなオフロードを見せたチャールズ・ピウタウ(撮影:松本かおり)


 磐田のオフロードキングだ。

 3月16日、東京・秩父宮ラグビー場。身長186センチ、体重95キロのチャールズ・ピウタウは、今季新加入の静岡ブルーレヴズの13番をつけてリコーブラックラムズ東京を36-29で下した。

 国内リーグワン1部の第10節で、連敗を3で止めた。殊勲の32歳はこうだ。

「何週間か勝ちを希求していました。きょうは選手は皆、喜んでいました」

 技を披露したのは15分だ。

 敵陣の左側を駆け上がり、迫る前衛の守りを右手で抑えた。せり上がる後衛も引き寄せながら、左の手を返すような形でWTBのマロ・ツイタマへパス。0-7だったスコアを同点にした。

 タックラーとぶつかりながら近くの味方へボールをつなぐオフロードパスというこの技術を、ピウタウは得意とする。トンガ代表として出た昨秋のワールドカップ・フランス大会では、全選手中最多となる10本を成功させている。

「まずコンタクトを制する。その次は、両サイドに誰(受け手)がいるかを見ることが大事。あとは、遂行力だけです。(ツイタマの得点シーンでも)マロが外にいるのがわかっていました。できるだけ多くの相手を引き付け、投げるようにしました」

 この日のブルーレヴズは直近の3連敗を受け、攻め方を見直していた。大外のスペースをえぐるための布陣、仕掛けを機能させていて、その流れで魅したひとりがピウタウだった。伝家の宝刀を用いずとも、遠方から来たファンを楽しませた。

 20分には、自陣10メートル線上左のスクラム後の展開へ加わった。他のおとり役が防御を引き付けるなか、右中間の深めの位置から駆け上がった。SOの家村健太からもらった楕円球をさらに右へ回し、そのまま14-7と勝ち越した。

 守りでも光った。

 まずスコアレスだった序盤、自陣ゴール前左で走者をつかみ上げた。攻撃権を奪った。

 さらに21-17と僅差リードで迎えたハーフタイム明けには、自陣中盤で好カバーを決めた。右サイドを抜け出すネタニ・ヴァカヤリアの走路へ回り、タックル。援護射撃にかけつけたFBの山口楓斗とともに、ヴァカヤリアをフィールドの外へ出した。

「全員がチームのために仕事をしている。そんななか、自分も誇りを持って仕事ができた」

 ピンチを乗り越えればチャンスをつかんだ。直後のラインアウトからのアタックの際、左中間に位置。さらに左側のスペースへ球を放った。ビッグゲインを促し、得点板を28-17と動かした。

 打ち合いにもつれ込んだ終盤にもしなやかな走り、左手での一芸を繰り出した。味方のNO8のマルジーン・イラウアには、無形の力について感謝された。

「(試合の状況に)適応して、周りの選手にいいコミュニケーションを取ってくれる。これは私にはないスキルだ!」

 ニュージーランド出身だ。ラグビー王国の代表チームであるオールブラックスに選ばれたのは2013年のこと。15年までに通算17キャップ(代表戦出場数)を獲得後はその隊列から離れていたが、約7年後、国際舞台へ戻った。

 国際統括団体のワールドラグビーが代表に関する規定を変更。もともとプレーヤーは原則として1カ国のみでしか代表資格を得られなかったが、この時期からは「最初の代表チームで最後に試合に出てから36カ月間以上を経過」という基準を満たせば、親、祖父母のうち誰かの祖国で代表入りの機会を探れるようになった。

 ひとりあたり1回のみ与えられるその権利を、ピウタウは採用した。フランス大会でトンガ代表になったのはそのためだ。

「私の身にこんなことが起こるとは思わなかったです。ニュージーランドで生まれ育ったことも誇らしく感じますが、家族にとってはトンガで戦うことも素晴らしいことでした。今後、インターナショナルの舞台でどうしていくかの判断はしていません。ブルーレヴズでの活動に集中し、自分の身体とも相談していきます」

 ここ数年で検討した事案には他に、今回の来日があった。

 2015年以降はイングランド、アイルランドのクラブと契約してきたなか、「いつかは日本でプレーしたい気持ちがあった。新しいチャレンジがしたかった」。数ある選択肢のなかから、過去に兄のシアレ・ピウタウも在籍したブルーレヴズ(元・ヤマハ発動機ジュビロ)を選んだ。

 ここなら「ハードワーク」できそうだと思ったからだ。

「ブルーレヴズのコーチ陣と話し、このチームが何を目指しているのかを聞き、私はここへ来たくなりました。さまざまなクラブの環境を見る時、私はそこでどれだけハードワークできるのかを考えます。成功するには、ハードワークが大事ですから」

 願いは叶っている。

 ブルーレヴズが客員コーチに遇するジョー・ドネヒューは、オーストラリア有数の厳格なコーチとして知られる。2023年にはワールドカップ・フランス大会前の日本代表に格闘技形式の1対1を繰り返させ、1人でも手を膝、腰につけたら、全ての参加者が「罰」のメニューを課した。

 藤井雄一郎新監督は、当時のナショナルチームに携わってもいた。今シーズンから指揮を執るにあたり、リーグワン開幕前の昨年11月、レギュラーシーズンが中断した今年2月のキャンプでドネヒューを招いた。

 「罰」が生じるルールはジャパンの頃とほぼ同じ。ピウタウらと定位置を争うCTBの鹿尾貫太は、11月のセッションに挑んだ感想をこう述べたことがある。

「彼は目と記憶力がいいのか、誰がどこで手をついたのかを覚えている。そして、『あの時、(膝などに)手をついた奴がいるだろう? 手を挙げろ。チームに正直になれ』って」

 ドネヒュー塾は、豪華陣容で臨むクラブをしぶとく跳ね返すための準備だと取れる。その意図を理解しているであろうピウタウは、「タフだった。…もう、彼とは2度と会いたくないな」。苦い思い出を振り返りながら、充実感を覗かせていたような。

 この日を経て、ブラックラムズは戦前と変わらぬ12チーム中10位に止まるなか、ブルーレヴズは9位から8位に浮上。レギュラーシーズンは残り6試合。献身を厭わぬ大柄な名手は、「いまいる場所には満足している」と口角を上げた。

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