コラム 2024.03.08

【コラム】パリに、想う。

[ 渡邊 隆 ]
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【コラム】パリに、想う。
パリ市内、サン=トレノ通りでの筆者



 2024年パリオリンピックまで、あと5か月を切った。
 大西鐵之祐先生が1966年、ラグビー日本代表監督に就任された時、このような言葉を残されている。

『日本ラグビーが国際的進出を目標として決める場合、戦術思想の統一は最も重要な要素となる。それは、世界的に各国が行っているものの模倣であってはならない』

 当時は外国人選手を入れるという時代ではなかった。
 純粋に、体の小さな日本人が、体が大きくパワフルな外国チームにどうすれば勝てるのか、日本人の適性に合ったラグビーとは何なのか。模索と挑戦が始まった。

 その要点が、日本人の優位性の分析である。俊敏性、巧緻性、持久力、結束力、真面目さ、これら日本人の特性を活かして、海外チームとの理論的勝機を探り、戦略を組み立てていった。

 それが【展開、接近、連続】へと昇華し、オールブラックス・ジュニアに23-19と勝利。19-27、3-6とイングランドも追い詰め、世界に日本ラグビーの存在を示した。

 しかし、5年で代表監督が変わることになる。かつて日比野弘さん(元日本代表監督)が『大西さんがせめてあと4年、代表監督を継続出来たなら日本ラグビーの歴史は変わっていた』と最後まで言っていたことを思い出す。

 先月、バリを訪ねた。
 今回は、オリンピックの準備が進む街を思いながら、日本のこれからの歩むべき道を探ってみたいと思う。

 夕陽が石畳を黄金色に染め、暮れゆく街が華やかな光へと変わり、ざわめきを増していた。
 セーヌ川を渡る橋には、所々に円形にせり出したベンチがある。そこにカップルや様々な人たちが腰をかけて、悠久の川の流れを眺めながら楽しんでいる。

 橋は、人や車を渡すだけのものではない。川面がローズ色に変わっていくロマンチックな時を、市民にゆっくりと過ごしてもらえるよう、行政がその場を創り、提供しているのだ。
 なんて粋な計らいだろう。文化度の高さを感じる。

 少し霧が漂う早朝、観光客のいない小雨のシャンゼリーゼ通りを、トレパンを履いて市民と一緒に走った。
【世界で最も華やかな通り】と称されるこの街路樹の下を走ってあらためて驚くことは、凱旋門からコンコルド広場を繋ぐこの歩道の広大な道幅だ。
 この通りが計画されたのが約350年前、その時代に人間の楽園を考え、こんなに広い歩道を設計した設計者の才覚、先見の明に驚かされる。

 パリの都市計画は何故こんなにも素晴らしいのだろう。フランスの誇り凱旋門を中心とした放射線状に広がるエトワール。パリのシンボル、エッフェル塔、シャイヨー宮から眺める均整の取れた美しい街並み。フランスの食、ファッションなどの洗練された感性も加わり、世界のどこにもないミラクルワールドが誕生した。

 市民目線を忘れずに遠い未来を見据えた、人が楽しむための美しい街創り。確固たる意志に基づくビジョンの勝利。そこには利権や癒着などの雑音を一切排除して、理想にむけて邁進した政治、行政の純粋な魂を感じる。
 先人の意志と街の魅力に惹かれて世界中から人が集まり、それが現代のフランスを支えている。後世に讃えられる偉業だと思う。

 パリの街角には決まってカフェや花屋さんがある。カフェでは冬でも陽の当たるテラス席が賑わい、街の楽しさを増幅させている。
 銀行や証券会社が一等地を占有。週末にシャッターを降ろし、街のテンションを下げるようなことはしない。

 花の素晴らしい文化にも衝撃を受けた。オール早稲田英仏遠征の時に見たイギリス、フランスの、教会や公園に植えられていたブルーやパープルの花々、グリーンやホワイトの葉とのバランス、
 なんてお洒落なんだろう!
 そう感じた学生時代を思い出す。
 ホテルやレストランに飾ってある花の素晴らしさ、さり気無く小瓶に入れた花たちでさえ心に語りかけてくる。

 フランスの信号機には黄色がない。歩道の青が赤に変わり、間もなく車が動き出す。
 人はいつ赤になるか分からないので足早に渡る。そして直ぐに、次の色に変わって行く。このテンポが現代の高速時代に心地良い。

 日本の信号機は、さほど変わらない。昔の時代感覚のままなので、日本に無数にある信号機が、日本の社会生活をスローダウンさせている。
 AIを駆使し、現代の利用状況に合った、待ち時間の見直しが必要だ。
 そのテンポを上げるだけで日本全体の生産性は高まり、GDPは直ぐに上がると思う。

 一方、フランスの住空間においては、特に水回り、洗面台、トイレ、浴槽などは昔から大きくは変わっていないと感じる。

 日本の誇るウォシュレットをはじめとした各種設備は凄まじい進化を遂げている。
 人間の繊細な感情にまで入り込んだ水流や肌感覚。世界を見ても、日本のこれらの設備にまさる機器に出会った事がない。

 日本のきめ細やかな、人に優しい製品の数々は、きっと世界の人々に受け入れられ、世界を席巻できると確信する。
 肌触りとか使い勝手など、人がどう感じるか、という機微にわたる心遣いに関して、日本の右に出る民族はいないと思う。

 例えば、世界の80億人の人々が日本のティッシュペーパーやウォシュレットの良さに気づいて、毎日使い続けたとしたら、どれだけの産業になっていくだろうか。
 まさに日本の独壇場のブルーオーシャンが広がっている。

 いまユニクロがその品質の良さを世界に認められ、広がっている。ODA(政府開発援助)など様々な支援に関しても、資金ではなく世界に優位性を持つ日本製品の数々を積極的に贈ったら良いのではないだろうか。

 文化の違いなどから使ってもらうまでのハードルは高いので、まず無償で日本製品の素晴らしさを感じてもらう。
 国も日本人の強みをもっと分析し、世界と戦える分野の日本製品をもっと応援してほしいと思う。

 2023ワールドカップ取材でパリに滞在していた知人に、ラグビーマンの集まるパブを紹介してもらった。
 店内はラグビー一色。壁一面にラグビーの貴重な写真がある。オールブラックスのジャージ(布)にはワールドカップ優勝メンバー全員のサインが白のペンで書かれていた。南アフリカ初優勝時のマンデラ大統領との写真や、ジャパンのボールも置いてあった。

 そこに2日間通って感じたことは、J日本ラグビーの評価が高いことだ。特にリーチ マイケル選手の勇猛なプレーと、心の強さ。あのスピリットの素晴らしさをフランス人も分かっていて、敬意をもって応援してくれていると感じた。

  顔を見ると、なんとなくラグビーをやってたな、と分かるのは不思議。ガタイは大きくてもどこか優しげだ。
 フランス語は理解できないけれど、みんなが仲良く語り合っている姿に触れ、僕もラグビーというスポーツに出会えて良かったなあ、としみじみ思った。

 ブローニュの森や、マルシェに行く途中、郊外では緑の芝のグランドで、子どもたちがサッカーを楽しんでいる。
 日本でも、冬でも青々とした芝のグラウンドをあちらこちらに整備できたなら、きっと『僕たちもこんな美しい緑のグラウンドでスポーツをやってみたい』と思う子が増えるような気がした。

 パリに1週間滞在し、書き切れないほど多くのことを感じ、学んだ。ルーブル美術館では、地元の学生や子どもたちが大理石の床に座り、絵画の模写や、作品を見て感想を議論し合う姿を見た。小さな頃から超一流の文化に触れ、どれだけの感性が磨かれてゆくのだろうと感じた。

 日本の学生たちも、心と頭が柔軟なうちに、異国の文化に触れて、様々な経験を積んでほしいと願う。きっと豊かな人生の指針になると思う。
 さあ、パリオリンピックまで、あと僅か。ラグビーセブンズ日本代表の健闘を祈ります!


【著者プロフィール】
渡邊 隆[1981年度 早大4年/FL]
わたなべ・たかし◎1957年6月14日、福島県生まれ。安達高→早大。171㌢、76㌔(大学4年時)。早大ラグビー部1981年度FL。中学相撲全国大会準優勝、高校時代は陸上部。2浪後に大学入学、ラグビーを始める。大西鐵之祐監督の目に止まり、4年時にレギュラーを勝ち取る。1982年全早稲田英仏遠征メンバー。現在は株式会社糀屋(空の庭)CEO。愛称は「ドス」



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