コラム 2024.02.27

【ラグリパWest】教員としての1年。後藤佳奈 [福岡県立浮羽究真館高校/ラグビー部コーチ]

[ 鎮 勝也 ]
【キーワード】,
【ラグリパWest】教員としての1年。後藤佳奈 [福岡県立浮羽究真館高校/ラグビー部コーチ]
浮羽究真館高校の保健・体育教員とラグビー部コーチを1年間つとめた後藤佳奈さん。この4月から4年間を過ごした母校の福岡大学に戻り、ラグビー部のために尽力する


「可愛く撮って下さいね」
 カメラに言ってよ。にこやかさんで十分可愛いと思うけど…。

 後藤佳奈は火の国、熊本で生まれ育った。はきはき話す。今、福岡での1年の教員生活を終えようとしている。
「この1年、楽しかったです」
 保健と体育、そしてラグビーを浮羽究真館で教えた。県立の普通科高校である。

「最初は不安でした。でも、みなさん温かくて、職員室に緊張して入ると、『こっちだよー』って自分の机に導いてもらえました」

 緊張の度合いは並みの新人より高かった。話が急に大展開したからだ。大学の卒業式を終え、あと数日で年度末の3月が終わる頃、スマホに見知らぬ着信があった。

 吉瀬(きちぜ)晋太郎からだった。保健・体育科の主任でラグビー部の監督でもある。
「欠員が出た。よかったら来てくれないか」
 石藏慶典が朝倉の定時制教頭として転出する。ラグビー部の部長でもあり、前校名「浮羽」時代、吉瀬の恩師でもあった。

 年度末のことであり、代わりは容易に見つからない。吉瀬は古矢(ふるや)将一を頼る。古矢は福岡大ラグビー部のOB。そこから1学年下の後藤につながった。

 古矢は久留米商出身だが、少人数もあってラグビーの練習は浮羽究真館でやった。吉瀬にとっては教え子のようなものである。

 後藤は公務員試験にトライするために、熊本市内の実家に帰っていた。話を聞き、火の国の女子は「人助け」に乗り出す。先輩の顔をたてることにもなる。

「学校まで高速を使って片道1時間30分。3日連続で手続きのために通いました。アパートの空きもない。結局、新築の1LDKに落ち着きました。家賃は58000円でした」

 ワンルームなら福岡の中心部並みの家賃にもくじけることはない。授業と並行してラグビーを教えられることもうれしかった。

「ラグビーがないと自分でいられなくなる感じがします。体を当てることが好きなんだな、と思います。大学受験で一旦やめた時もなんか落ち着きませんでした」

 後藤は10歳から競技を始めた。スウィーティー・レディー・ベアーズに入る。熊本唯一の女子チームである。3つ上の兄、大輝の影響を受けた。兄は熊本工のOBである。後藤は熊本学園大付。練習は「くまたか」と呼ばれる熊本で男子に混じった。

 福岡大のスポーツ科学部に進んだのは教員免許を得たい希望もあった。ラグビー部では選手として登録。166センチの身長でSOなどをこなした。練習は主に日本経済大でやった。2年時に女子ラグビー部ができた。

 その経験から浮羽究真館ではBKコーチを任された。高校生たちの練習を見るたたずまいにはすでに名コーチの雰囲気が漂う。すっと背筋を伸ばし、後方の1点から見る。動かない。そうすれば変化が容易にわかる。

 主将でSHだった花田雅嵩には感謝がある。後藤の赴任と同時に3年生に進級した。

「僕たちの意見を尊重してくれました。後藤先生は自分で決められるのに、このエリアではこういう攻め方がある、と例をいくつか出してくれて、僕らに決めさせてくれました」

 花田は京産大に進む。高校と大学で吉瀬の後輩になる。京産大には土永旭と髙木城治がいる。日本代表のトレーニングスコッドに入った2人だ。自分を磨くのに最高のチームには後藤の思い出とともに入ってゆく。

 後藤もまた次のステージに上がる。この新年度から母校の福岡大に戻って働く。
「村上先生の助手になります」
 村上純は教授でラグビー部の部長。若い強化役として白羽の矢が立った。

 誘いを受けた当初、後藤は迷った。ただ、高校と大学の数は圧倒的に違う。そして母校に携われることは名誉なことでもある。
「いい機会をいただけた、と思っています」
 仕事は未定だが、チームマネジメントやコーチングなど多岐にわたる感じがしている。

 どんな要求でも後藤は無難にこなすだろう。吉瀬は後藤に物理の勉強が遅れている部員数人を預けたことがあった。
「なかなか帰って来ないので電話をしたら、授業になっています、と。あっ、どんどんやって下さい、って答えました」
 後藤は笑う。
「スポーツ科学部は一応、理系です」

 これから戻る福岡大の創部は1934年(昭和9)。今年90周年を迎える。九州からの大学選手権出場は24回。この数字は首位の福岡工大の29回に次ぐ。直近では58回大会に出場。初戦となる2回戦で朝日大に21-36と敗れた。後藤の3年時である。ジャージーはエンジと黒の段柄。主なOBは藤田雄一郎がいる。東福岡のラグビー部監督である。

 母校での仕事は九州ラグビーのトップレベルを肌で感じることになる。それはまた、夢の実現に近づくことになる。
「熊本の女子ラグビーを普及、発展させたい思いがあります」
 コーチ資格は初級のスタートを持っているが、さらに上級に書き換えてゆきたい。

「熊本、好きです。ちょうどいい大きさで住みよいです。阿蘇や天草、山も海もあります。私は馬刺しが好きなのですが、スーパーで売っているものですら美味しいです」

 ラグビーのゴールに火の国があれば、女子の本懐である。そのため、1年間の教員生活を生かし、母校で奮励努力をしてゆく。

PICK UP