国内 2024.02.19

変わらぬセットリスト。サンゴリアスがプレー選択に活路もワイルドナイツが貫録勝ち。

[ 向 風見也 ]
変わらぬセットリスト。サンゴリアスがプレー選択に活路もワイルドナイツが貫録勝ち。
後半から出場しベテランの味を出したワイルドナイツの堀江翔太(撮影:松本かおり)


 挑戦者が迫って接戦を作った。

 2月17日、熊谷ラグビー場でリーグワン1部・第7節の大一番があった。海外勢とのクロスボーダーラグビー後の初戦であり、一昨季までの2シーズンのプレーオフ決勝と同カードだ。

 6連勝中の埼玉パナソニックワイルドナイツの堅い守りに対し、5勝1敗の東京サントリーサンゴリアスが風穴を空けた。球を運ぶ術、球を持つ割合の妙で魅した。

 3点差を追う9分。敵陣10メートル線付近右のラックから左へ展開する。外、内と順につないで守備網を破り、敵陣22メートルエリアへ進むと左、右と順に動いて数的優位を作った。WTBの尾崎晟也のトライなどで7-3と勝ち越した。

 互いにスコアして迎えた45分には、SOの高本幹也が連続攻撃のさなか深めに位置して防御の隙間を射抜く。フィールドの左端を駆け抜け、FBのチェスリン・コルビにつないだ。地上戦に持ち込んだ。最後は高本がドロップゴールを沈め、13-13と同点にした。

 続く46分には、蹴り合いを制しながら高本がカウンターアタック。ワイルドナイツを混とん状態に陥れ、CTBの中村亮土のフィニッシュなどで20-13にした。

 向こうの横幅の広い防御ラインへ、多角度的にチャレンジした。SHの齋藤直人の説明。

「実際に(相手を)崩せている感覚はあった。(ワイルドナイツは)広いエリアで外側(の守る選手の立ち位置)を上げるようなディフェンスをする。そこにはまらないようにはしました」

 開幕6連勝中の埼玉パナソニックワイルドナイツでは、HOの坂手淳史主将が「(サンゴリアスが)いいところにアタックしてきたかな」。WTBの長田智希はこうだ。

「サンゴリアスのやりたいテンポで攻められると止めるのは難しい。キッキングのところでは10番の左足、コルビのロング、センターからとバリエーションが豊富。あそこまで蹴ってくるチーム(との対戦)がなかった。対処について、これから改善したいです」

 サンゴリアスが焦点を絞って戦うのに対し、足元を見失いかけたのだろうか。防げる類のエラーでチャンスを逃したのもあり、60分の時点でビハインドを背負っていた。

 ただ、焦りはしなかった。

 13-20から18-20と差を詰めたのは56分。サンゴリアスのミスボールをHOの堀江翔太が確保するや、CTBのダミアン・デアレンデが人垣に仕掛けながらのパスで長田を大きく走らせる。手早く継続し、FBの野口竜司が仕留めた。

 殊勲のデアレンデは、61分にも敵陣中盤で魅する。

 味方から楕円球を預かり、スピードを緩めながら人を引き寄せる。空いたスペースへ回すと見せかけ、一転、加速してフットワークを利かせる。タックラーを巻き込むことで笛を誘い、まもなく21-20とひっくり返した。

 以後は再三、危機を切り抜ける。サンゴリアスの加点を防ぐ。

 途中から投じられたサンゴリアスの齋藤が素早い位置取りとさばきで魅したが、組織として壁を壊すには至らなかった。69分には11フェーズ継続も、デアレンデのジャッカルで足止めを食らった。

「(ここまで攻めたら)ペナルティを欲しいところで、規律よく守ってくるのがワイルドナイツ」とは、齋藤の弁だ。サンゴリアスの主将ですでに退いていたHOの堀越康介は、さらに続ける。

「中途半端なアタックをすると、(ワイルドナイツに)ジャッカルする選手が多いことでのペナルティが…。それで自分たちの流れを切ってしまうところがあった」

 グラウンドの中盤でこそブレイクを許したワイルドナイツだが、自陣の深い位置では堅陣を保つことが多かった。やや苦しんでいた序盤にも、再三、難局をしのいでいた。

 17分にはキックが相手に当たって球が後方へ弾み、ピンチが発生した箇所へ長田がカバーに回る。タックルとジャッカルの合わせ技を披露した。ハーフタイム直前には、自陣22メートルエリアで一丸。14フェーズを耐えた。

 坂手はうなずく。

「皆、いい『戻り』をしていた。サンゴリアスさんはFWがあちこちに動いて忙しくアタックしてくる。うちはそこ(走者)へ2人でタックルするのが基本になる。前半の前半、相手のリサイクルが速いのと、こちらのタックルが少し甘い部分があって、どんどんアタックされる時間帯もあった。(ハーフタイム前の好守の)少し前、円陣で『まずは速く(ディフェンスラインを)セット』『タックルの1、2人目がしっかり決める』と修正していました」

 48分に投入されるやゲーム主将となった堀江は、スクラムで相手の左PRが大回りしながら組んでいると察知。古瀬健樹レフリーをそちら側で監視させ、安定化に成功した。

 1点リードで78分に突入すると、敵陣ゴール前中央でのペナルティキックでスクラムを選択。サンゴリアスの反則を引き出し、時間が79分になったのを受けペナルティゴールをチョイス。SOの松田力也に決めさせ、24-20とした。

 16番は音楽にたとえて説く。

「どうやって自分の仕事を全うするか、どうやってチームがそうしやすいようにセットアップするかだけ(を意識)。ピアノの発表会みたいなもので、(弾き出したら)間違えても終わるまで止まらない。やっていきながらミスをカバーしていく感じで。曲目=やることは決まってるんですよ。で、ジャズみたいに途中でアドリブはあったとしても、曲通りにやる。セットリストは、ワイルドナイツのラグビーで」

 試合中に好調だったFLの福井翔大、野口が故障で抜け、主軸の左PRにあたる稲垣啓太は最初から欠場。タフな日程のもとコンディショニングに苦労し、かつ、当日はやや足踏みした。それでも結局、工夫を凝らしたサンゴリアスに貫録勝ちした。

PICK UP