日本代表 2024.02.01

【車いすラグビー日本代表】パラリンピックイヤー最初の国際大会を全勝優勝で飾る

[ 張 理恵 ]
【車いすラグビー日本代表】パラリンピックイヤー最初の国際大会を全勝優勝で飾る
キャプテンの乗松聖矢は、体を張ったディフェンスと飛びぬけた運動量でチームを牽引した。(撮影/張 理恵)
べテランと若手の融合チームで優勝を果たした車いすラグビー日本代表



 勝負の年。
 パリ・パラリンピックでの悲願達成に向け、着実にその歩みを進めているのが、車いすラグビー日本代表だ。

 1月25〜28日、パラリンピック前最後の日本での国際大会となる「2024 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催され、世界ランキング3位(※)の日本はドイツ(同9位)とブラジル(同11位)に圧勝し全勝優勝を果たした。(※2023/11/24付)

 パリ・パラリンピックで車いすラグビーは8か国が出場して競技がおこなわれる。昨年の大陸予選を経て、日本(アジア・オセアニア)、イギリス、デンマーク(ヨーロッパ)、アメリカ(南北アメリカ)、そして開催国・フランスの5か国がすでに出場権を獲得している。

 3月には、残り「3枠」をかけた世界最終予選がニュージーランドで開催されるが、そこでの出場権獲得を狙うのが、ドイツとブラジルだ。
 両チームともに、今大会でのパフォーマンスが最終予選を戦うメンバー選考に大きく関わるとあって、その座を勝ち取り、自らの手でパラリンピックへの切符をつかむという強い意志が感じられる戦いぶりを見せた。

橋本勝也は相手を置き去りにするスピードとチェアワークでエースの風格を漂わせた。

 さらなる「チームプレー」の確立に向けた強化に取り組む日本代表は、チーム全体の底上げを目指し、国際試合の経験が浅い若手選手とベテランを融合した編成で今大会に臨んだ。

 これまで対戦歴のないドイツとの初戦、日本は立ち上がりから強いプレッシャーをかけ、早いトランジションで主導権を握る。ディフェンスを変化させ、貪欲にターンオーバーを奪う。第4ピリオドでさらにギアを上げた日本はリードを広げ、50-38で白星発進。
 代表戦で初のスタメン出場(次世代選手による国際大会を除く)となった橋本勝也は、巧みなチェアスキルとスピードで両チーム最多の29得点を挙げ、JAPANの新たなエースとして存在感を放った。

 日本はその後も世界ランキング3位のプライドを見せ、相手を10点以上引き離す強さで勝利を重ねた。
 今大会でキャプテンを務めた乗松聖矢は、「主力メンバーに代わり若い選手が出場しても、日本のラグビーの質は変わらないというところを見てもらいたい。パリ・パラリンピック本番に向けて、車いすラグビーを応援したいと思ってもらえるような大会にできれば」と意気込みを語っていた。

 ラグビー人生で初めてキャプテンという重責を担った乗松だが、コートでは持ち前のディフェンスとハードワークでチームを引っ張り、ベンチに下がると「ディフェンスいいよ!」「ナイスラン!」とポジティブな声がけで仲間を鼓舞して、大きなリーダーシップを発揮した。

 予選ラウンドを6戦全勝で終え迎えた、ブラジルとの決勝戦。
 ブラジルは世界トップクラスのスピードを誇る24歳の若きエース、ガブリエル・フェイトサを中心に早い攻撃を仕掛け、走り合う展開が続く。ラインアップを構成するコート上の4選手のうち、2名が一番障がいの軽いclass 3.5の“ハイポインター”(★)であるブラジルに対し、日本は同じくclass 3.5の橋本が入るラインアップで対抗する。

ハイポインター級のパフォーマンスで存在感をアピールした中町俊耶。

 その中でハイポインターに引けを取らないプレーを見せたのが、正確なロングパスを強みとするclass 2.0の中町俊耶だ。
 中町は司令塔としてゲームをコントロールし、状況を即座に判断してボールを大きく動かす。同じクラブチームに所属する橋本へのロングパスとインバウンド(スローイン)は、日本のホットラインとしてチームを勢いづけた。
 class 2.0の壁谷知茂もまた、短いワードで的確に状況を仲間に伝えるなど、文字通りの「チームワーク」で得点を重ねていった。

 28-21の7点リードで試合を折り返した日本は、後半も集中力を切らすことなく戦い続けた。
 コートを見渡し判断に次ぐ判断を繰り返して走り回る、倉橋香衣の職人技が光る。日本とブラジルの若きハイポインター対決となった2対2の場面では、橋本と白川楓也の連係でブラジルのディフェンスを突破しトライを奪った。

両手で正確なパスが捌ける白川楓也は活躍が期待される注目プレーヤーのひとりだ。

 そして池崎大輔、今井友明といったベテラン勢はコート内で積極的にコミュニケーションをとり、若手にポジションなどの指示を与えながら自らの背中を見せる。
 それに応えるかのように、白川や草場龍治は試合の中でたくましさを増していった。チーム一丸となって“日本ラグビー”を貫き55-43で勝利を収め、完全優勝を果たした。

 岸 光太郎ヘッドコーチは、「若手を起用し全体的な底上げを図るという部分はしっかりできた。チームディフェンスもまとまってきたが、より激しいプレッシャーがかかる世界ランキング上位の国に対して同じことをキープできるかというのが次の課題になる。個人のスキルアップに加えて『チームとして戦う力』を養い、みんなで一致した戦術を確認してそれを成し遂げることが重要。この大会で若手がいろいろな経験をしてベテランをおびやかす存在になり、いい意味での競争がチーム内に生まれると思う。全員で切磋琢磨して、パラリンピック本番に向けてどんどんいいチームに仕上げていきたい」と、手応えをにじませながら大会を振り返った。

「チームプレー」に加えて「ディテール」にもこだわり強化をしていくと語った岸光太郎HC。

 車いすラグビー日本代表は、4月にウェールズの首府・カーディフで開催される「2024クアード・ネーションズ(Quad Nations)」に出場する。
 パラリンピック出場権を獲得しているイギリス、フランス、アメリカ、日本の4カ国がどんな戦いを繰り広げるのか、レベルの高い試合が期待される。

 パリ・パラリンピック開幕まで、あと200日。
 来たる決戦に向け、世界を凌駕する武器を携える準備が進められている。

★車いすラグビーにおける「クラス分け」について
・選手は障がいの程度や体幹等の機能により7つのクラス(0.5〜3.5の0.5刻み)に分けられる。
・数字が小さいほど障がいが重いことを意味し、class0.5〜1.5の選手はローポインター、2.0と2.5はミッドポインター、3.0と3.5はハイポインターと呼ばれる。
・コート上4選手の持ち点(クラスの数字)の合計は8.0以内と定められている。なお女性選手が入る場合は、女性選手1名につき0.5の加算が許される。(例:女性選手2人が入るラインアップは、4選手の持ち点の合計が最大9.0までとなる)

【試合結果】
(1/25)日本 ○ 50-38 ● ドイツ
日本 ○ 57-32 ● ブラジル
(1/26)日本 ○ 62-34 ● ブラジル
ドイツ ● 34-47 ○ 日本
(1/27)ドイツ ● 39-54 ○ 日本
ブラジル ● 27-50 ○ 日本
(1/28)<決勝> 日本 ○ 55-43 ● ブラジル

【最終順位】
1位 日本
2位 ブラジル
3位 ドイツ



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