国内 2024.01.19

【第25回 車いすラグビー日本選手権大会】古豪復活に挑んだBLITZが8年ぶりに王座奪還。

[ 張 理恵 ]
【第25回 車いすラグビー日本選手権大会】古豪復活に挑んだBLITZが8年ぶりに王座奪還。
8年ぶり9度目の優勝を果たしたBLITZ。(撮影/張 理恵、以下同)
準優勝のTOHOKU STORMERSは2大会連続の決勝進出を果たし、その実力を証明した。
スペースとはパスに象徴されるFreedomラグビーと代名詞の「全員ラグビー」を貫いた3位のFreedom。



 ついに、パラリンピック・イヤーが幕を開けた。
 その高揚感を煽るかのように、車いすのタックル音が会場に鳴り響いた。

 1月12〜14日、クラブチーム日本一を決める国内最高峰の大会「第25回 車いすラグビー日本選手権大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催された。
 今大会には予選大会を勝ち抜いた全8チームが出場、BLITZ(東京)が8年ぶり9度目の優勝を果たし、古豪復活の狼煙をあげた。

優勝への強い思いを持って臨んだ島川慎一(BLITZ)は「全員で勝ち取った勝利」とチームを称えた。

「BLITZ 対 TOHOKU STORMERS(東北)」の決勝戦。
 今シーズン、常勝軍団として無敵の様相を呈するのはBLITZ。
 メンバーのほとんどが日本代表経験者というタレント集団でありながら、そこに昨年4月、日本代表のトライゲッター・池崎大輔が新加入したことで、東京パラリンピック日本代表メンバーだけで組むラインアップ、という最強の武器を手に入れた。

 長谷川勇基-小川仁士-池崎大輔-島川慎一。
 この“国内最強ラインアップ”の初出陣となったのが、予選ラウンド最後の試合となったTOHOKU STORMERS(以下、STORMERS)戦。前回大会では準決勝で対戦し負けを喫した相手だけに、それまでとは違う気合いが感じられた。

 なかでも“国内最強”ラインがSTORMERSの4人全員をコーナーに閉じ込めたディフェンスは強いインパクトを残した。
 57-47で前年のリベンジを果たし、目標とする優勝に向け弾みをつけた。

 対するは、日本代表候補の中町俊耶と橋本勝也を擁するSTORMERS。
 前回大会では、チーム設立5年目にして決勝進出という快挙を成し遂げた。チーム結成当時、橋本はまだ中学生だった。その橋本と、絶大なキャプテンシーを誇る中町の目を見張るような成長、そして橋本—中町にしか成し得ない高次元の連係プレーがチーム力をぐんぐんと引き上げた。

大会MVPの橋本勝也(中/TOHOKU STORMERS)は進化したプレーで観客を魅了した(左・池崎大輔、右・島川慎一、ともにBLITZ)

 世界を目指す者、余暇としてラグビーを楽しみたい者、それぞれの目標、それぞれのモチベーションの選手が所属するクラブチーム。STORMERSは毎年チーム・スローガンを掲げることで、強度こそ違えど、同じ方向を向き、同じ絵を見ながら、チームの絆を深めてきた。
 日本選手権で全敗した初年度から大会ごとに着実に順位を上げている基盤には、地道なチームビルディングがある。

 今大会では、前回大会の決勝で敗れたFreedom(高知)と準決勝で対戦。日本代表キャプテンを務める池透暢と日本代表候補の白川楓也を擁するFreedomに対し、統率のとれた組織的な連係プレーで主導権を握り54-51で勝利を収め、見事リベンジを果たした。

 BLITZか、それともSTORMERSか。
 会場の全視線が、決勝のコートに向けられた。
 横森史也−庄子 健−中町−橋本、STORMERSのスターティング・ラインアップを待ち受けるは、もちろん“国内最強ラインアップ”。
 勝たなければいけない、勝って当然という重圧を凌駕するほどの自信がBLITZにみなぎる。ティップオフを待つSTORMERSにも不安な表情は一切ない。準備した自分たちのラグビーに集中する。

 試合は、立ち上がりからバチバチの走り合いとなった予選ラウンドでの対戦とは一転、相手のミスを狙う鋭い視線が交差する、緊張感ある展開となった。
 STORMERSをリズムに乗らせまいと、BLITZは相手のボールがコートに入る前から、強いプレッシャーをかけ続ける。パスコースをことごとく潰されたSTORMERSは、フロントコートまでボールを運べない苦しい状況に追い込まれる。ボールがどこに動こうとも、プレッシャーをかけ続けるBLITZはターンオーバーを奪い、1点、また1点と差を広げていく。

 予選ラウンドの対戦では見られた、激しい攻防の中でも勝負を楽しむ、橋本や池崎のニヤリとした表情は封印されてしまった。国際試合にも劣らないデッドヒート。強度を落とさない相手に、STORMERSは今シーズンのチーム・スローガンである「執着」を体現し続ける。
 ただ、その間にもじりじりと離しにかかるBLITZ。両チームともにメンバーを入れ替えることなく、27-20とBLITZの7点リードで前半を終えた。

応援してくれたファンに笑顔で応えるBLITZ

 両者とも同じラインアップで後半に突入した。
 第3ピリオド終わりに差し掛かった頃、STORMERSベンチが動きメンバー交代。それに連動して、どこまで差がつけば、この最強ラインを下げるのかと注目されたBLITZも、小川と池崎を残して交代。すでに11点差となっていた。

 試合は終盤。どんなに劣勢に追い込まれようとも、STORMERSのキャプテン・中町は感情をあらわにすることなく冷静だった。
 その思いに呼応して橋本も奮起する。中町がトライラインをめがけて放ったロングパスを、池崎を振り切った橋本が全速力で追う。橋本はあらゆる筋肉と体幹を駆使して、目一杯に手を伸ばし、ライン超直前で決死にキャッチしてトライ。

 それはまるで、逆サイドからのキックパスを、トップスピードで駆け抜けてきたウィングがキャッチして鮮やかにトライするラグビーのプレーにも似ていて、今大会のハイライトシーンのひとつとして刻まれた。

 STORMERSは第4ピリオドで、BLITZを上回る数のターンオーバーで反撃するが、その点差を埋めることはできない。試合時間のこり2分52秒、BLITZのプライドを誇示するかのように、再び“国内最強ラインアップ”が登場する。
 最後は、誰よりも優勝への強い思いを持ち続けていたベテランの島川慎一がラストトライを決め、試合を締めくくった。

 55-46。
 BLITZがプレッシャーを跳ねのけ、8年ぶりに王者奪還。日本選手権最多となる9度目の優勝に輝いた。

「全員で勝ち取った勝利。この優勝にあぐらをかくことなく、しっかり進化していきたい」
 島川は連覇への決意をにじませ、視線はすでにその先へと向けられていた。

 一方、STORMERSの橋本は、「相手が日本代表のフルメンバーというところで、厳しい戦いではあった。難しい試合になってしまい、正直、悔しい思いはあるが、その中で対抗できたディフェンスもたくさんあり、『執着』をコート上で体現することができた」と胸を張った。

 そして、キャプテンの中町は、「準決勝で(前回の決勝で負けた)Freedomに勝ってチームの成長を感じることができたが、今年はBLITZに敗れてまた成長できる部分が見つかった。来年は決勝の舞台で勝てるようにしたい」と、2年連続の決勝進出という結果に甘んじることなく頂点に挑む覚悟を示した。

連覇に挑んだFreedomは3位に終わり、HCを兼任する池透暢(右)は「この結果が今の自分たちの力」と冷静に受け止めた。(左・DANDELIONの朴雨撤)

 クラブチームとしての今季の戦いを終え、日本代表候補選手たちは今後、8月に開幕するパラリンピックに向けた強化に本格的に取り組むことになる。

 一番障がいの重い、クラス0.5で国内トップレベルを誇る長谷川勇基(BLITZ)のキレのある頭脳プレー、一瞬たりとも留まることを知らない乗松聖矢と草場龍治(ともにFukuoka DANDELION、福岡)のハードワーク…。
 日本代表の活躍を予感させる、心揺さぶるプレーが随所に見られた日本選手権となった。

 1月25日(木)〜28日(日)には、国際強化試合「2024 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催される。
 パラリンピック最終予選を見据える、世界ランキング(※)9位のドイツ、同11位のブラジルを、日本(同3位)が迎え撃つ。※2023年11月24日現在

 激しさだけではなく、見れば見るほど、緻密さと奥深さに触れることになる車いすラグビー。
選手一人ひとりの思いやストーリーとともに、その競技性にも大いに注目だ。

【第25回 車いすラグビー日本選手権大会 結果】
優勝  BLITZ(東京)
準優勝 TOHOKU STORMERS(東北)
3位  Freedom(高知)
4位  Fukuoka DANDELION(福岡)
5位  AXE(埼玉)
6位  RIZE CHIBA(千葉)
7位  Okinawa Hurricanes(沖縄)
8位  SILVERBACKS(北海道)

【大会MVP】 橋本勝也(TOHOKU STORMERS)

【ベストプレーヤー賞】
クラス0.5 長谷川勇基(BLITZ)
クラス1.0 若山英史(Okinawa Hurricanes)
クラス1.5 乗松聖矢(Fukuoka DANDELION)
クラス2.0 朴 雨撤(Fukuoka DANDELION)
クラス2.5 荒武優仁(BLITZ)
クラス3.0 白川楓也(Freedom)
クラス3.5 峰島 靖(AXE)


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