コラム 2024.01.19

【ラグリパWest】槍術とラグビー。駒喜多学 [花園近鉄ライナーズ/新部長]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】槍術とラグビー。駒喜多学 [花園近鉄ライナーズ/新部長]
リーグワン一部、花園近鉄ライナーズのトップ、部長についた駒喜多学さん。近鉄グループホールディングスの部長はまた、槍術の宝蔵院流高田派の22代目流派代表の顔も持つ。花園ラグビー場のロッカールームにて


 駒喜多学(こまきた・まなぶ)は、武人の魂と経済人の才覚を併せ持つ。

 槍術の流派代表であり、近鉄グループホールディングスでは事業戦略部における部長である。昨年11月、「ライナーズ」と呼ばれる花園近鉄ライナーズの新しい部長についた。

 駒喜多は47歳。まん丸い顔は和(わ)を思わす。黒が主の目は優しく下がる。
「ラグビーに異動を言われた時には、正直、『えっ』と思いました」
 チーム統括の今里良三とともに、この紺エンジのチームをまとめてゆくことになった。

 駒喜多のラグビー歴は中学時代の1か月ほど。ただ、戦いへの心構えは群を抜く。なんとなれば、槍術における宝蔵院流の高田派を22代目の流派代表として率いている。

 この宝蔵院流は日本における槍の大本である。成立は戦国時代とされている。創始者は胤栄。江戸末期、三吉慎蔵がその槍で新選組に襲われた坂本龍馬を救っている。坂本は薩長同盟を結ばせ、明治維新を実現させた。

 使う槍は「十文字」と呼ばれるもの。駒喜多の流派代表の名刺の裏には書かれている。
<突けば槍 薙げば長刀(なぎなた) 引けば鎌 とにもかくにも 外れざりけり>
 そこに刷られた写真の目つき常と違って鋭い。命がけの気迫が伝わって来る。

「流派とスポーツに共通するのは、簡単に作られない。変えられないということですね」
 宝蔵院流は450年ほどの歴史がある。ここで言うスポーツはライナーズ。その創部は1929年(昭和4)。今年、95周年を迎える。駒喜多は歴史の重みと大切さを知る。

 その異動はグループ会長の小林哲也の「肝いり」と推測される。ライナーズは社内の事業戦略部に属するが、今は小林の直轄の感じである。半世紀前、チームが最後に全国社会人大会(現在のリーグワン)と日本選手権の二冠を手にした時、小林も若手社員のひとりとして応援した過去がある。

「会長は興福寺や春日大社を支える責任役員のおひとりでもあるはずですので、その部分でも私のことを知っておられたと思います」

 槍術の発祥である宝蔵院は興福寺に付随する子院のひとつだった。そして、その興福寺を擁護する神とされているのが春日大社。この寺と神社は密接な関係で今日に至る。

 その責任役員以外にも、小林自身、高校や大学で剣道や少林寺拳法をたしなんだ。武道全般に対する造詣は深い。その部分からしても信頼を置かれる理由はある。

 槍術のみではない。駒喜多は課長時代、役員の随伴で経営会議に出席する。的確なサポートを見せ、その顔と名前を小林に覚えられていたこともある。会長への「お目見え」は部長以上でないとその資格はない。

 部長になれば、社格にもよるが、グループの社長になれる資格を有する。小林がトップに立つグループは鉄道を中心にその会社数は260ほどに膨れ上がっている。

 駒喜多の入社は2000年。出身は「はんだい」と地元で呼ばれる大阪大学である。
「関西が好きで、その地元に貢献できる、色んな仕事がある、ということがありました」
 当時のグループ名は近畿日本鉄道。採用は最上の総合職。その同期にはライナーズの監督経験者である坪井章がいる。

 キャリアは鉄道からスタートさせる。大阪阿部野橋の駅員をやった。その後、経営戦略や労務管理などを経験する。ホテル業の再建、人事制度改革、海遊館の買収、労働組合への対応、新給与体系の導入などに関わってきた。

 駒喜多はエリートである。
「わが社の最終兵器をラグビーに投入したか」
 そう話す人間もいる。広告宣伝やシンボルとして、ラグビーの存在はグループ内でも日増しに大きくなってきている。その流れの中における今回の異動だった。

 ラグビーに駒喜多が触れたのは中学時代。中高一貫の洛星である。この私立進学校で創部の動きがあった。そこに参加した。

「当たったら痛いし、前に走るのに、ボールはうしろに放らないといけないといけません。さらに、楕円球やからあちこちに行って、予測がつきません。1か月ほどで抜けました」

 駒喜多は笑う。当時は矛盾を感じた。ただ、縁は切れなった。30年以上経ってライナーズの部長になる。当時、創部の中心にいた原正和は弁護士になった。現在は日本ラグビー協会のジュディーシャル・オフィサーも兼務する。法の観点から懲罰時の量刑判断をする。

 ラグビーから離れたあと、駒喜多は武道全般に熱中する。
「剣道は四段を持っています」
 いくさの組み打ちを軸にした体術や棒術、長刀も習った。その統一が駒喜多の宝蔵院流高田派の槍術にこめられている。

 新部長として出戻ったラグビーでは、チーム目標を掲げる。
「2軸だけ。強くなる。そしてグループと地域に愛される。流派と一緒でファンがいてくれないとチームは衰退していきます」
 単純明快。下が従いやすい。上に立つ者の資質はここにも表れる。

 すでにささやかな成果は出している。
「グループ内でグッズの販売をしたのですが、前年比4倍になりました」
 駒喜多はオフィスに選手を派遣した。
「行って、頼んだら買ってもらえます。大切なのはフェイス・トゥ・フェイス。みんなハートは持っているんです」
 その売り上げはチームの運転資金になる。

「ライナーズは人々に刺激や感動を与えます。お金には換えられません。その価値は私たちが作り出し、発信してゆくのです」

 チームは現在、5戦全敗、勝ち点1の11位と沈み込み、駒喜多を必要としている。武魂と商才を今こそこの紺エンジに注ぎ込みたい。

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