国内 2024.01.12

五郎丸は忙しい。元日本代表と事業スタッフ、二つの顔。

[ 明石尚之 ]
五郎丸は忙しい。元日本代表と事業スタッフ、二つの顔。
静岡ブルーレヴズの事業スタッフとして奔走する五郎丸歩さん©静岡ブルーレヴズ

 元日本代表のFB、五郎丸歩は忙しい。

 35歳を迎えた2020年度のトップリーグを最後に現役を引退。静岡ブルーレヴズの事業スタッフとして働き始めて3季目を迎えた。

 静岡ブルーレヴズの前身は、五郎丸が現役時代に所属したヤマハ発動機ジュビロ。リーグワンの創設とともに独立分社化し、プロクラブへと舵を切った。

 母体企業に支えられる他クラブとは異なり、独立採算で運営されるレヴズはスポンサー料やチケットの売り上げなど、「稼ぐ」ことが至上命題。五郎丸は、そうした日本ラグビー界にとってチャレンジングな環境に身を置く。

 肩書きは、地域、ファン、スポンサーなどのステークホルダーとクラブを結ぶ「クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)」だ。初年度は主にチケットの販売企画を担い、昨季はファンクラブの会員増と内容の充実化を託された。そして今季からは、集客とイベントのリーダーを務める。

 年を追うごとにクラブ内での役割が大きくなっているが、ビジネスマンとしての成長を問われると苦笑する。
「自分がどう成長しているかは分かりませんが、自分がやれる100㌫をやり続けるのが自分のスタイル。それはラグビーの時と変わりません」

 事業スタッフのひとりは、五郎丸を「レヴズで一番忙しい人」と評する。
「レヴズの仕事が終わっても、『元日本代表の五郎丸』として仕事がある」
 先のワールドカップでは、テレビの解説者として欧州と日本を行ったり来たりした。

 ワールドカップが終わって約1か月が経った12月1日には、秩父宮ラグビー場にいた。リーグワンとイオンモールの締結式に、リーグワン所属のチームスタッフ代表として出席するためだ。
 解説業を終え、少しは落ち着いたか。五郎丸はまた苦笑いを浮かべる。

「バリバリ忙しいですよ(笑)。土日もこのまま浜松に戻って仕事します。ワールドカップで抜けていた分、そのツケが回ってきていて。でも、楽しんでやれてます」

 2週後のホスト開幕戦(第2節)に向け、最終調整の真っ只中だった。同試合では「非日常空間」を合言葉に、グラウンド外のイベントを充実させた。

 目玉は恐竜模型の展示。約10㍍の高さがある動くティラノサウルスを間近で見れたり、トリケラトプスの上に乗れたり。子連れの家族を楽しませた。

 ブルーインパルス発祥の地である浜松基地の航空自衛隊に協力を仰ぎ、キックオフ直前には4機のジェット機をグラウンド上空に通過させた。ワールドカップやオリンピックの開会式さながらの演出を見せた。

「普通のことをやっても面白くない。自分にしかできない世界観を作りたいと思ってます。新しくファンになってくれた方にも、コアなファンの方にも楽しんでいただけるような、レヴズのファンで良かったと思ってもらえるような空間づくりを心がけています」

 幅広いファミリー層を取り込むイオンモールを引き合いに出し、「子供たちだけでなく家族みんなで楽しめる空間が理想。ラグビーを見に来ただけでは、お父さんだけしか楽しめないかもしれない。家族で見に来た時に、お母さんにもお子さんにも何かしら興味を引く、楽しめるような魅力的な空間を作りたい」と話す。

 ホスト開幕戦では事業スタッフの尽力もあって、レヴズの最多観客動員数を更新した。1万2841人を集めた。昨季の開幕戦は9000人、最終戦の1万2203人も超えた。

 それでも五郎丸は、目標としていた満員の14000人に達しなかったことを悔やむ。
「昨季よりも伸びたことはポジティブですが、高い目標設定をしていた中ではこの数字でも満足できません。まだまだ運営面には課題がある。詰めていけることがたくさんあると思う」

 ただ、静岡県内でのラグビーの認知度が上がってきた手応えもある。観客増に「ワールドカップの影響はうちに関してはそんなにない」と言う。
「一般の方々が知っているレベルのスタープレーヤーはいません。このエリアでラグビーというものが少しずつですけど認知されてきたということだと思います」

 試合後のイベントにも工夫を凝らした。スタジアム横の体育館で、選手同士が健闘を称え合うアフターマッチファンクションならぬ、ファン同士が交流する「アフターマッチパーティー」を開いた。
 ここでは一部のノンメンバーとも直接交流でき、五郎丸も頻繁に通うという『枡形』の豚汁が振る舞われた。

「コロナでなかなかできなかったことを再開できました。枡形さんは週に1度しか休みの日を使って動いていただいた。このエリアの方々の優しさを身に沁みて感じています」

 これからも、地域の人々に愛されるチームを目指す。

PICK UP