国内 2024.01.09

道を信じる。全勝キープのブレイブルーパスが昨季王者スピアーズを下すまで。

[ 向 風見也 ]
道を信じる。全勝キープのブレイブルーパスが昨季王者スピアーズを下すまで。
スピアーズの重量パックと堂々渡り合ったブレイブルーパスのFW陣。写真はFL佐々木剛(撮影:高塩 隆)


 昨季王者が焦点を絞った。

 クボタスピアーズ船橋・東京ベイは1月7日、神奈川・等々力陸上競技場でのリーグワン第4節で何度も楕円球を手放した。自らの意志で。

 チームによっては多彩な攻め手を見せる中盤からも、高い弾道、長距離砲のキックを打ち込んだ。目下、全勝という東芝ブレイブルーパス東京の後衛に圧をかけた。

「相手の強いFWを(後ろに)下げ、自分たちの大きなFWを前で戦わせたいというの(意図)がありました」

 話すのは立川理道。主将兼司令塔のSOとして計画を主導した。

 今回は、登録の23人中2メートル超を2人ずつ擁する者同士の対戦に臨んでいた。彼我の戦力構造を鑑み、極端な策を打ったわけだ。今季はここまで1勝2敗と黒星先行。ディフェンディングチャンピオンにして挑戦者の風情だ。

 先制したのはそのスピアーズだった。立川の左隅へのグラバーとWTBの木田晴斗のチェイスにより、敵陣ゴール前左でスクラムを獲得。局地戦に持ち込んだ。新加入のHOでニュージーランド代表のデイン・コールズがフィニッシュしたのは、前半17分のことだ。直後のコンバージョン成功で7-0とした。

 蹴られたほうのFBへ入る松永拓朗は、「(ブレイブルーパスの防御の)ラインスピードを受けないための、スピアーズの作戦だったのだと思います」。反省も口にした。

「自分自身、もう少し駆け引きして、もっと楽に(キックを)処理できるところはありました」

 ただし松永とともに守勢に回っていたLOのワーナー・ディアンズは、異なる感覚を抱いた。

 失点するまでの間、敵に与えた得点機をしぶとく摘み取っていたからだ。

「16分も自陣で攻められて、1トライしかあげていない。ディフェンスは、自信になった」

 ピンチを乗り越え、チャンスをつかんだ。

 向こうのエラーを機に7-7として迎えた29分、自陣10メートル線付近左中間でそのディアンズが迫る走者をつかみ上げた。攻撃権を得た。ここから繰り出すのは、お家芸のデザインされたアタックだ。

 2フェーズ目で受け手と投げ手の交差する動き、おとり役の走り込みを交えることで左端にフリーのランナーを3人も残した。いずれも速さと技が強みだった。桑山淳生、濱田将暉の両WTBが順にゲイン。最後はFBの松永が仕留め、まもなく14-7と勝ち越した。15番はこうだ。

「コーチ陣にオーガナイズしてもらって、僕たちがそれを信じて遂行する。いい関係性ができています」

 これで無敗の側が主導権を握った。スクラムこそ一時的にコールズらの押しに苦しむも、攻めに転じればたびたび数的優位を作り出した。時折、パスが乱れたことで得点こそ伸ばせなかったが、桑山はその過程に手応えがあったという。

「自分たちの芯となる部分を出せたことが、勝因だったと思います」

 17-13とリードして迎えた後半24分。敵陣10メートルエリア左のラインアウトから中央突破を決めるや、ニュージーランド代表SOのリッチー・モウンガの右足で右奥の空間をえぐる。スピアーズ陣営の捕球動作が滞るのを見逃さず、濱田のトライなどで24-13とした。

 長身選手がしのぎを削り合うラインアウトも、要所は狼たちが締めた。

 自陣22メートル線付近右の相手ボールの1本では、前方に入ったFLのシャノン・フリゼルがスティール。この領域を引っ張るディアンズは明かす。

「相手は試合を通し、同じようなオプションを採っている。次、『ここ』(読み通りの箇所)に来たら、(フリゼルを)上げよう…と」

 終盤は対する木田の左足での侵攻、モウンガの被イエローカードと複合的な要素が重なり、24-20と迫られたブレイブルーパスは、残り時間が4分となるや逃げ切り策に出た。松永がカウンターアタックでハーフ線を通過すると、一転、FWがじっくりとラックを連取。時間が過ぎるのを待った。

 この手は身体的な負荷が高いとあり、本来なら1、2分程度が限界と言われる。獅子奮迅の活躍だったNO8のリーチ マイケル主将も、この決断を「正直、4分半もあの攻め方は…。やっちゃいけない」と後述する。渦中、松永は、迷いを断ち切っていた。

「敵陣でラグビーができるようになった。あとは継続しようと。結果、近場、近場で…。だいぶ、長く感じましたね」

 クラッシュ、クラッシュ、またクラッシュ。追う立場だったSHの藤原忍は「あそこは僕たちが下(ボール保持者の足元)にチョップタックルに入って、(倒れた選手から球を)奪いにいかないといけなかった。それが上で付き合ってしまった(長く自立させた)かなと」。スコアを変えずにノーサイドを迎えた。

 求められるのは戦法の正しさより、戦法への忠誠心。それがこの競技の普遍か。リーチが「やっちゃいけない」と見返す選択も、「あとは継続」と信じて採用すれば最適解となりうる。

 苦しんでいた一角獣たちが健闘したのも、定められた航路にまっしぐらに進んだことと無関係ではあるまい。

 2勝目がお預けとなってからも、立川は「結果がついてこないと不安も生まれると思いますが、まだラウンド4。先を見すぎずに自分たちのやることを明確にすることが大事。苦しくないと勝てないと思うので、苦しみを味わいながら皆で勝ちたいです」。激闘が名言を絞り出した。

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