国内 2024.01.05

快挙達成の沖縄・名護高。進撃支えた「選手主体」

[ 多羅正崇 ]
快挙達成の沖縄・名護高。進撃支えた「選手主体」
城東高校との熱戦を制し「花園ベスト16」を達成した名護高校。写真中央は屋部主将(撮影:松本かおり)


 第103回全国高校ラグビー大会。沖縄県代表の名護高校は、チーム目標だったベスト16を達成。沖縄県勢として10大会ぶりの3回戦進出を果たした。東福岡に敗れ県勢初の8強は逃したが、確かな爪跡を残した。

 チームの中心は主将のCTB屋部樹志。

 就任2年目の田仲祐矢監督が「歴代最高のキャプテンでは」と評するチームの要だ。

 スピードとパワー、スキルの三拍子が揃う上、正確なプレースキッカーでもある。しかし“チーム歴代最高”の理由は、それだけではなかった。

 2006年度の名護の主将であり、みずからも2回戦で城東(徳島)を破り16強入りした経験を持つ田仲監督は、CTB屋部のトーク力、伝播(でんぱ)力をこそ高く評価していた。

「彼の熱さは周りに伝わります。ハーフタイムでも60分間ハードワークした方が勝つ、ということを彼がずっと言い続けてくれます」

「監督がいろいろ言うのではなく、自分たちでラグビーを、というのが僕の指導方針。大きなフレームだけを伝え、後は選手たちで判断する、というスタイルを意識してきました。それを体現してくれる良いキャプテンです」(田仲監督)

 名護から大阪体育大学に進んだ元フランカー、田仲監督は、就任当初から選手の主体的行動を尊重してきた。試合中における指示についても基本ハーフタイム以外はしない。

 練習においてもチームトークを重要視。武器であるフィジカリティと共に選手たちの「トーク力」を強化してきた。

 そんな選手主体のチーム作りにおいて、熱いトークで感化できるCTB屋部主将はこの上ないリーダーだったのだ。

 CTB屋部主将は、そんな選手主体のチームに愛着とプライドを持っている。

「監督からハーフタイム以外の声掛けはほとんどないです。一人ひとりが喋れるように、練習中から『トーク、トーク』と言って、話す機会を設けてきました。疑問があったら気を遣わずに言い合おうとも決めていて、言いやすい環境作りにも力を入れてきました」

 そのチームトークが光ったのは、16強入りを決めた2回戦だった。

 相手は奇しくも17年前の12月30日と同じ城東だった。さらに指揮官は田仲監督の大阪体育大学の同期であり、17年前に対戦した城東の主将だった伊達圭太監督。当時の主将同士がお互いの母校を率い、17年ぶりに花園2回戦で戦ったのだ。

 しかし田仲監督は「自分のことは絶対に持ち込まない」という理由から、この不思議な巡り合わせを選手に伝えなかったという。

 ゲームは選手のもの。監督が主役になるわけにはいかない――。田仲監督は指導哲学を貫いた。

 舞台は花園第3グラウンド。コリジョン(衝突)局面に矜持をもつ名護は、序盤から3連続トライを奪った。

 1本目はモールから。2本目はスクラムターンオーバーからのキックパスをWTB新里心惟が押さえ、3本目はFB宮里快一が防御を豪快にこじ開けた。

 ここから城東が見事なカムバックをみせる。

 前半19分にFL南部晴飛のパスからWTB峰原光浩。前半終了前にFB小野晏瑚がスピードで突破して2本目。後半1分にはSH井颯太朗のクイックスタートからPR中山珀。SO池渕紅志郎主将がコンバージョン3本を全て決め、同点(21-21)に追いついた。

 21点のリードが無くなった名護のCTB屋部主将。円陣で伝えた。この状況を、楽しもう。

「チーム全員に、この2回戦に立てているチームは限られている、このしんどい状況をむしろ楽しもう、と伝えました。後半は前半以上に調子が上がったと思います」(CTB屋部主将)

 CTB屋部主将の伝播力は、前半から際立っていた。

 失トライ後、チームが意気消沈しがちな場面の円陣で、力強い声で改善点をズバリ言う。これから何をすべきかを簡潔に伝え、鼓舞する。円陣を解いた時にはチームはポジティブな集団に変わっている。類い稀なリーダーシップだ。

 だが名護は主将頼みのチームではなかった。

 追いつかれた名護だが、後半4分に勝ち越しトライを決める。キッカーは主将のCTB屋部だ。トライ後の円陣に主将はいない。

 それでもチームトークは活発だった。

「自分はコンバージョンを蹴るので、トライ後のトークには参加できません。でも副キャプテンの2人(LO加納泰志、FB宮里)もいます。スコア後のキックオフが一番大事なので、今日はそこも毎回やることを確認していたと思います」

「そこは練習からキャプテンの自分だけが喋ることがないよう、問いかけたり、一人ひとりが喋れる環境をつくってきたおかげだと思います」(CTB屋部主将)

 そして7点リード(28-21)で迎えた後半17分だ。

 名護はセットプレーからのサインプレーも「全て選手が判断しています」(田仲監督)。スクラムから2本のカットパスをつなぎ、FB宮里が大外で勝負すると決めた。

 選手が決めたプレーで、後半17分、決定的な5本目のトライを奪った。

 さらに後半23分にはCTB屋部主将がPG成功。38-21で、2回戦を突破。

 名護はチーム発足当初に選手たち自身が掲げた目標「花園ベスト16」を達成。選手主体のスタイルで、辿り着いてみせた。

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