国内 2023.12.12

不屈のタクト。イーグルスのファフ・デクラークは初戦大敗も「絶対、挽回できる」。

[ 向 風見也 ]
不屈のタクト。イーグルスのファフ・デクラークは初戦大敗も「絶対、挽回できる」。
ワイルドナイツとの今季初戦で攻撃を仕掛けるイーグルスのファフ・デクラーク(撮影:高塩隆)


 世界一になって久しい。

 南アフリカ代表のSH、ファフ・デクラークは、今秋のワールドカップ・フランス大会で2連覇を果たした。決勝トーナメントの3試合を、すべて1点差で制した。

 スリルのある物語の主人公のひとりになった、その感慨について、身長172センチ、体重88キロの32歳が自ら語る。

「1点差で勝ってゆくことは本来であればベストではないですが、その経験から得たものはネバー・ギブアップの心です。最後まで戦い続ければ、結果が得られると実感しました」

 昨季から日本の横浜キヤノンイーグルスに在籍。フランス大会後は母国へ凱旋の後、約3週間の休息を経てチームに合流した。同じイーグルス所属で南アフリカ代表のCTB、ジェシー・クリエルも同じタイミングで入った。

 国内リーグワンの初戦へ、準備期間は2週間足らずとなった。元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介監督は、信頼していた。

「ワールドカップの決勝まで行ったら、魂が全部、吸われているようなものだから。まずはゆっくり休んでもらう。今年初めてうちでラグビーをやるわけじゃないし、そこらへん(周りとの連係など)は大丈夫かなと。1週間前から入ったところで、うまくやると思う。心配してないです」

 デクラークを加えた前年度は、12チーム中3位とクラブ史上初の4強入り。今季、スクラムと防御のシステムを更新するなど進化のための変化に舵を切った。12月10日、埼玉・熊谷ラグビー場で新たなシーズンを迎えた。

 苦い現実を知った。開始14分で22失点を喫した。

 対する埼玉パナソニックワイルドナイツは、昨季レギュラーシーズン1位もプレーオフで国内3連覇を逃していた。王座奪還へ、ファーストインパクトを示したかった。

 イーグルスは、衝突時に後退する流れで向こうのラン、キックにスペースを破られた。自分たちの反則や相手の好プレーでチャンスを与え、そのたびにスコアされた。

 そのままでは、終わらなかった。

 デクラークは「あきらめない精神は、イーグルスにも根付いて欲しいと思っています」。22点のビハインドを背負った直後の攻防では、中盤左からのボックスキックを味方に追わせ、自軍ボールを得るや攻めを統率。相手防御に、レフリーに、味方の攻撃陣形にとあちこちに目を配り、簡潔にさばいた。

「アタックでは、クイックで出すことが自分の仕事です。迷いなくプレーする」

 壁をこじ開けたのは28分だ。
 
 味方のカウンターアタックで敵陣22メートル線付近右中間まで攻め込むと、接点で球を拾い、右斜め前方へ駆け出す。一気に3人ものタックラーを引き寄せ、右端のスペースへパス。受け手を快適に走らせる。

 ゴール前で接点ができると、デクラークはさらにボールを持ち出して駆ける。今度は左方向へ進む。接点あたりに立つ2人、さらに、もともと防御ライン上で別な選手を見ていた2人の視線を引き付け、穴場へパスを通す。

 次はゴールポストの近くでシンプルに展開する。その頃には、盤石さが売りのワイルドナイツの防御にカオスが生まれていた。イーグルスは、左側に数的優位を作っていた。大外で待つ松井千士がフィニッシュするのは、自然な流れだった。

 7-22。チーム初得点を生んだデクラークは言う。

「自分が仕掛けたら、スペースが生まれる。スペースを見たら、仕掛ける」

 続く30分頃には、中盤の防御ラインで光った。通常ならば大柄なFWの選手が立つ接点周りに位置取り、駆け上がり、対する日本代表SOの松田力也にタックルした。背中と上腕で相手にしがみつき、向こうの手元に自分の手先をかけながら倒した。

「チームメイトのためにプレーしたい。ディフェンスは、それを見せられる場です」

 ここではワイルドナイツが接点からの球出しを誤ったのを受け、自軍スクラムを得る。その後のアタックは得点につながらなかったものの、赤いジャージィの9番は闘争心をにじませ続けた。

 自陣の接点からは前方をにらんで蹴り込むように思わせ、後ろのラインへパスをつなぐ。防御ラインのやや外側から鋭く飛び出し、ワイルドナイツのパスコースを塞ぐ…。

 前半終了間際に敵陣ゴール前で得点機をつかむと、なるたけ味方の強い走者に球を預けていたような。12-22。逆転圏内に食い込んだ。

 本当の負けず嫌いとは、いつ、いかなる時も勝つための術を尽くすのだと再認識させた。

 試合は12-53で大敗した。

 イーグルスのSO、田村優いわく「最初の10(数)分で、試合は決まってましたね。常に追いかけなければいけない状況になったので。(リードされても)チャンスはあるので盛り返せますけど、そういう状況は理想的ではない。体力も使うと思うので。常に後手、後手だった」。両軍の消耗度合いの差が、後半の流れに影響したか。

 加えてワイルドナイツは、時間を追うごとに課題を修正してもいた。イーグルスへのキックへ対応の仕方、複数名が巻き込まれる傾向にあった防御時の接点での作法、さらにデクラークの仕掛けへの反応について話し合っていた。

 デクラークは終盤になってもキック、ランで気を吐いたものの、少機をつかめず逆襲を食らう流れを受け入れざるを得なかった。

 思うように攻められなかったと感じたからか。試合後の本人は、「周りとの連係が大事です」と反省した。賞賛の声へは「改善点は、たくさんあります。でも、ありがとう」と応じた。

 着替えを済ませてから述べた。

「試合が終わって1時間。若干、落ち着きました。初戦なので、これでシーズンが終わったわけではない。ファーストシーズンで目が覚まされた。どのチームのメンバーも信じている。絶対、挽回できる」

 この日は、ワールドカップの決勝に続くフル出場だった。ベンチにSHがいなかったため、戦前からその予定だったと見られる。

「敬介さんに80分と言われた時は、驚きました。ただ、結構、いい感じでした。今週は慣れ(ていない)というところで、(これから)身体が(筋肉痛などで)痛いと思います。ただ、今週を経れば、毎週、80分、いけます」

 16日の第2節は、ホスト会場の神奈川・日産スタジアムでおこなう。

 相手は初戦白星のトヨタヴェルブリッツ。デクラークと同じSHの位置には、新加入でニュージーランド代表125キャップのアーロン・スミスがいる。両者が出場すれば、ワールドカップ決勝以来の再戦となる。

「彼が日本で活躍するのか、ヴェルブリッツがどんなスタイルになるのか、楽しみ。脅威になる。止めないといけないです」

 不屈の心を結果につなげたい。

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