ワイルドナイツ稲垣啓太、初戦爆発の背景は?
陽が西に動き出す。15時キックオフの試合を前に、会場の埼玉・熊谷ラグビー場で両軍がウォーミングアップを重ねる。
その合間に、ホストの埼玉パナソニックワイルドナイツは円陣を組んだ。ロビー・ディーンズ ヘッドコーチが何やら訓示。その言葉を聞く稲垣啓太の眼光は、鋭かった。
日本代表53キャップの33歳。ワイルドナイツ不動の左PRとして、この日も先発に入っていた。臨むのは、国内リーグワンの開幕節だ。
クールな口ぶりでの述懐。
「少し、(気持ちが)入りすぎかなという雰囲気もあった。僕も結構、FWの前であおるようなことを言いましたし、僕自身も結構、気持ちが強く出ていたと思いますね」
かくもエンジンをふかしたのは、失敗の体験があったからだ。
昨季は、旧トップリーグ時代からの国内3連覇が有力視されながらもプレーオフ決勝で敗北。ミスを連発し、クボタスピアーズ船橋・東京ベイが喜ぶのを見届けた。
捲土重来を期した。各国代表勢がワールドカップ・フランス大会を終えて合流する頃には、日本代表41キャップの坂手淳史主将いわく「チームに残っていたメンバーのスタンダードが上がった」。全選手が揃って実施した開幕直前の宮崎合宿では、改めて負けたファイナルについて話し合った。稲垣は振り返る。
「負けは負けですからね。どれだけいい試合をしていても、(最後に)負けたらやっぱり意味がないですね。スポーツには勝敗がつきます。最後の最後の舞台で負けたというのは、やっぱり我々の実力の物足りなさ、至らなさ(が原因)ですよね。それを忘れちゃいけないと、合宿の最初に話しました。いままで通りやっていても勝てないってことは、わかっただろう。じゃあ、何をしなきゃいけないのか、もう一度頭に叩き込んで、それをやれ。…そういう、合宿だったと思います」
初戦のキックオフを迎えた。昨季3位の横浜キヤノンイーグルスから、開始14分で22点を奪った。一時は盛り返されるも、53―12と快勝した。稲垣も後半6分に退くまで突進、タックル、ボールへの絡みで強靭さを示した。
「やるのは選手ですから。スタッフがいい戦術、プランを用意してくれても、それをグラウンドでやるのは選手の責任です」
最近のワイルドナイツでは、「個人練習に時間を割く人が非常に増えた」と稲垣。自らが言った「いままで通りやっていても勝てないってことは、わかっただろう」の言葉が、隅々に伝播されていると感じる。
「個人練習が終わってもクラブハウスで細かいミーティングを重ねる選手をよく見かけるようになりました。少し、マインドの部分はレベルアップしたのかなと」
17日には東大阪市花園ラグビー場へ乗り込み、花園近鉄ライナーズとぶつかる。