日本代表 2023.10.27

【国際車いすラグビーカップ⑤】日本、3位決定戦で大逆転劇を演じ銅メダル獲得!

[ 張 理恵 ]
【国際車いすラグビーカップ⑤】日本、3位決定戦で大逆転劇を演じ銅メダル獲得!
銅メダルで戦いを終えた車いすラグビー日本代表。(撮影/張 理恵、以下同)
劇的勝利を納め喜びを分かち合う日本代表(左から安藤 夏輝、中町俊耶、島川慎一)

 漫画でも描けないほどの凄まじい大逆転劇だった——。

 車いすラグビーの世界頂上決戦「International Wheelchair Rugby Cup Paris 2023」(フランス・パリ)は最終日の10月22日、決勝戦と順位決定戦がおこなわれ、地元・フランスとの3位決定戦に臨んだ日本は最終盤に怒涛の反撃を見せ、50-49の劇的勝利で銅メダルを獲得した。

 会場となったアコーホテルズ・アリーナは心地よい緊張感に包まれた。
 フェイスペイントをした親子やフランス国旗を振るファンが試合開始の時を今か今かと待ち、場内DJがその気持ちをあおる。
 選手がコートに現れると、ひときわ大きな歓声があがった。

 メダルをかけた一戦。ティップオフの笛が吹かれた。
 日本は強固なディフェンスを敷き、スペースを広く使った攻撃で試合を展開する。2対1で相手2人にガッチリと車いすを抑え込まれても、体の向きを整えパスを出す冷静さもある。序盤、フランスのパスをカットしてターンオーバーを奪い、日本がリードする形で進んだ。
 ただその間にも、1つ、2つ…と日本のタイムアウトが削られていった。

 車いすラグビーではバスケットボールのように、攻撃において様々な時間制限が設けられている。インバウンド(スローイン)でコート内の選手がボールを触ってから12秒以内にフロントコートまで運び、40秒以内にトライしなければならない。

 また、1試合につき、主にコート内の選手が取る「選手タイムアウト」が4回、コーチのみが要求できる「ベンチタイムアウト」が2回あり、ボールをキープするため、時間制限によるバイオレーションを回避しようと使われる(※)ほか、タイムアウトのルールを利用して、オフェンスの戦術として能動的に使うことも多い。
 そのため、タイムアウトの数が試合の大きなカギを握る。タイムアウトをどれだけ取らずに戦えるか、あるいは、いかにして相手に早く使わせるか。オフェンスやディフェンスの強度を知るひとつのバロメーターにもなる。
(※12秒・40秒バイオレーションをとられると、ボールの所有権が相手チームに移る)

 日本は第1ピリオドで3回の(選手)タイムアウトを取らされるも、得点は着実に重ね、13-13で最初の8分間を終えた。

 第2ピリオド、日本のパスが乱れてターンオーバーを許し、ビハインドの状況が続く。
 すると、日本のしぶといボールプレッシャーに、今度はフランスが立て続けにタイムアウトを要求。ピリオド中盤に、両チームとも4回の選手タイムアウトを使い果たした。

 それでも手を緩めない日本の守備にフランスが苦し紛れのパス、そこに素早く反応した池崎大輔が全速力でボールを奪いトライ。互角の戦いで25-25の同点で前半を終了した。

タイムアウトを奪い合う一進一退の攻防が繰り広げられた(左から池崎大輔、ジョナサン・イベルナ、小川仁士)
さらに磨きかのかかった池透暢のパスカットがフランスの攻撃を封じ込めた

 両者一歩も引かない一進一退の攻防で第3ピリオドを終え、またもや37-37の同点。
 そうして迎えた最終ピリオド。タイムアウトのない状況が日本を苦しめる。12秒バイオレーションを取られまいとフロントコートに放った甘いパスをフランスがキャッチ。その後さらに日本のボールが弾かれ、2本のターンオーバーを与えてしまった。

 43-45と点差が広がり、試合時間は残り3分07秒。その時、羽賀理之の車いすにトラブルが発生した。パンクしたタイヤが交換できず、メンバーチェンジを余儀なくされる。日本のピンチ、かと思いきや、この“不運”が大逆転劇を生むことになるのだ。

 岸 光太郎ヘッドコーチは池透暢と倉橋香衣をコートに残したまま、羽賀と島川慎一をベンチに下げ、急遽、乗松聖矢と橋本勝也を投入した。
「いつコートに出されても戦える準備ができていた」という橋本は、「やっときたか!」と戦闘モードに切り替え、自分に言い聞かせた。
「何がなんでもボールに執着して絶対に勝ってやる。俺が決める!」

「絶対に勝つ、俺が決める」とコートに立ちチームを勝利へと導いた橋本勝也

 46-47となった残り1分06秒、ついに勝利の女神がほほ笑んだ。
 フランスのインバウンドの精度が落ちたところにすかさず駆け寄り、相手陣内深くでボールを奪取。そのままゴールに飛び込むパターンで、わずか23秒の間に怒涛の3連続トライ。頭の整理が追いつかないほどの展開で、49-47と逆転した。

 乗松が味方の道を作り、倉橋が倍以上の体格をした相手ディフェンスを止める。身を乗り出し、声で仲間を援護するメンバー。日本もフランスも勝利を掴もうと必死に走る。そして、試合終了のブザーが鳴った。

“50-49”。
 会場は歓声とため息の嵐。銅メダルを勝ち取った日本は歓喜に沸き、ハイタッチでメンバーを迎え、橋本は満面の笑みで池崎と抱き合った。

手を取り健闘を称え合う橋本勝也(左)と池崎大輔(右)

「誰もが勝利を信じて最後の1秒まであきらめずに戦った。自分たちのプレーをやり切れば勝てる、そう信じた結果が勝利につながった」
 キャプテンの池は、喜びをかみしめながら勝因を語った。

 そして大会を振り返り、「様々なチャレンジをして、現段階の最高の結果が出せた。パリ・パラリンピックの金メダルへの道は簡単ではないが、僕たちはまだまだ階段を昇っていく。ファンの方々の笑顔を、皆さんのうれし涙を見るために頑張っていくので、車いすラグビー日本代表への応援をお願いします」と、最後は、日本で夜遅くまで応援してくれたファンへの感謝の言葉で締めくくった。

日本で応援してくれたファンへ感謝の思いを語った池透暢(左)と池崎大輔(右)

 カナダとオーストラリアの決勝戦は、オーストラリアが53-48で勝利し、昨年の世界選手権に続き、2年連続で世界の頂点に立った。
 そしてカナダは、世界レベルの国際大会では2014年の世界選手権以来、9年ぶりの銀メダル獲得となり、パラリンピック出場権がかかるアメリカ大陸予選(11月)に向けて弾みをつけた。

 5日間にわたり、世界のトップ8が熱戦を繰り広げた「国際車いすラグビーカップ」。フィジカルに加え、頭脳戦が際立つ大会となった。
 日本が世界にインパクトを与えた7月のアジア・オセアニア選手権を経て、より各国が日本対策に乗り出し研究されているのを、全試合で目の当たりにした。

「正直、今大会での手応えはない。迫ってくる強豪国を肌で感じ、これまで以上に自分たちの取り組みを見直していかなければいけないと思った」と硬い表情で語った池。

「日本人は体格が小さい。だからこそ、個人個人がもっとパフォーマンスをあげてアタックし、5センチでも1センチでもスペースをこじ開けて自分たちのプレーを達成していかなければいけない。それを継続し、最後の最後まで自分たちの武器(戦略・戦術)を懐に持ちながら1個1個切り刻んでいく、そういう展開を最後までやり続けるのが僕らの戦い方になる」
 現状を打開する覚悟をにじませ、さらなる成長を誓った。

 今大会、全5試合で3勝2敗という結果に終わった日本。
 課題は多いが、一方で「アウェー」での戦いも含め、パラリンピック1年前にこの経験ができたこと、そして負けから得られたものはとても大きい。

 目標は、パリ2024パラリンピックでの金メダル獲得。
 日本がどんな武器を磨き、「自分たちのラグビー」をどう進化させていくのか。悲願達成への道のりに注目したい。

金メダルを獲得し歓喜に沸くオーストラリア

【10月22日(最終日) 試合結果】
<決勝> カナダ ● 48-53 〇 オーストラリア
<3位決定戦> フランス ● 49-50 ○ 日本
<5-6位決定戦> イギリス ○ 45-43 ● アメリカ
<7-8位決定戦> ニュージーランド ● 47-54 ○ デンマーク

【大会結果】
金;オーストラリア
銀:カナダ
銅;日本
4位:フランス
5位:イギリス
6位:アメリカ
7位:デンマーク
8位:ニュージーランド

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