国内 2023.10.10

【連載】プロクラブのすすめ⑪ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 静岡、NZ化計画

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ⑪ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 静岡、NZ化計画
サモア戦を現地観戦した山谷社長。左下はお笑い芸人のしんや(撮影:松本かおり)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
 11回目となる今回は、海外(NZ)出張で得た知見を語ってもらった。(取材日9月14日、10月10日)

◆過去の連載記事はこちら

――W杯での日本代表の戦いが終わりました。山谷さんも現地で観戦した(サモア戦)。

 正直、これまで自分が関わってきたチーム以外の試合でここまで悔しいと思ったことはありません。いまでも本当に悔しいです。もちろん選手、コーチをはじめとする関係者の皆さんは全力を尽くしてくれたと心から思います。でもベスト8に手が届かなかった。
 どんな時でも負けから学ぶしかありません。自分はラグビーには詳しくないので競技やチームのマネジメントという視点となりますが、選手育成や強化のシステムの限界なんではないかと感じています。かつてのバスケ界と一緒です。
 リーグがプロ化せず、選手の流動性が低い状況では本当の意味での競争は生まれません。選手が学び成長できる機会は”試合”です。試合そのものの機会を増やすこと、選手が試合に出場する機会を増やすこと、リーグにできる役割はこれしかありません。日本代表チームの強化は、日本代表チームが取り組むべきこと。そこに選手を輩出することがリーグの役割。リーグワンが日本代表選手の苗床になるために制度を徹底的に改善するしかありません。

――9月上旬にはニュージーランド(以下、NZ)にも出張した。

 舟橋(諒将)選手が留学していることもあり、パートナーシップを締結しているベイ・オブ・プレンティ(以下、BOP)に初めて行ってきました。
 まずは、NZにおけるラグビーの存在の大きさをあらためて目の当たりにしました。誰もがラグビーが好きで注目している。W杯はどうなるんだという議論をみなさんがしていました。

 BOPでは、施設を見学する中で選手育成の仕組みも詳しく知ることができました。BOPにはトップチームだけでなく、U18のチームや女子チームもある。彼らが使うクラブハウスは市の土地を借りて作ったものなので、その中には大学の研究室やコミュニティースペースがあったり、女子7人制NZ代表の拠点もあります。
 そうした行政との連携の仕方や、チームの拠点を単なるクラブハウスではなくいろんなことに使えるものにする考えは、われわれも新しく磐田に練習拠点を作ろうと構想を掲げているなかで、とても参考になりました。
 州のなかにたくさんの傘下クラブがあって、そこから優れた選手を上のカテゴリにあげていく仕組みも、これが静岡がやるべきことだと感じました。

 実は6月末におこなった社内の研修でも、「静岡をNZにしよう」という言葉がキャッチフレーズとしてあがっていたんです。
 先日立ち上げた「BlueRevs RFC SHIMIZU」(清水南中等部ラグビー部を地域クラブ化し、ブルーレヴズが運営するチーム/詳しくは第10回)のようなクラブを静岡県内の数拠点に作り、誰もがラグビーをプレーできる、試合に出られる、学べるという機会をまずつくらなければいけない、と。

 以前にも話しましたが、自分たちが「ラグビー協会」(中央競技団体=NF)の視点を持たないといけないと思っています。競技人口を増やすことや、育成環境の仕組みを整えることだったり。NZにはそれが理想的な形として体系化されていました。
 地域の協会・ユニオンがあって、そこがトップチームを持ち、さらに傘下のクラブがあるというピラミッドを構成できている。
 静岡県協会とより一体化していくことは、一つの方向性として持っているべきですし、その中でのブルーレヴズはトップチームを保有して興行をする、収益を得るというセクション。そのお金を元に、選手を発掘し育てる環境作りをしていく。ラグビーはこの両輪でやっていかないと衰退していく危機感を持っています。

 BOPとはほかにも、今後こうしたことをやっていこうというディスカッションもできました。日本に関わりのある企業にもいくつか訪問できたので、例えばBOPと試合をするときにサポートしていただけるような企業などが見えてきたのかなと。収穫のある出張でした。

――9月上旬には、リーグワン2023-24の日程も発表になりました。スタジアム確保の影響で発表が他競技に比べて遅い印象は否めません。

 スタジアム問題の解決法はシンプルな話です。スケジュールをはやく決める、ということです。
 それが遅くなると、その分確保できない可能性も当然高まる。今回も先シーズン終了してしばらくしてから、リーグから「この日程でスタジアムの確保を」という話がきました。

 Bリーグでいえば1年前には次のシーズン(ラグビーでいえば2024-25シーズン)のカーディングを決めています。もちろん入替戦がありますからシーズン終了後にチームが入れ替わる可能性があるわけですが、それを考慮してアウェイの日程でも予備的に確保するような指示もリーグからあります。
 リーグから求められた数だけ予備確保をしっかりできたチームには分配金が増えるという仕組みになっているんです。そうして頑張ったチームが評価される。
 一方でリーグワンは現状、確保できるスタジアムが多ければ多いほど調整弁で使われてしまう。確保できていないチームに配慮するというアンフェアな感じがするのも事実です。

 スケジュールを早く決めた上で、リーグワンに今はありませんが、ライセンスが設けてあればよりスタジアムを確保できる可能性は高まります。
 北風的なアプローチですが、Bリーグではスタジアムが優先的に確保できる状況になければリーグに参加するライセンスが付与されません(ホームゲームの8割を同一拠点で開催することがマスト)。なので、自由度高くスタジアムを取れないクラブはライセンスを交渉の材料にして「なんとか理解してほしい」と、行政と向き合うことができる。
 他の大会や利用者の募集が始まる前に優先的に入れてもらえる約束を取り付けられれば、より早い時期に確保できるでしょう。これは過去にJリーグやBリーグもやってきたことです。後発だからといって引き下がる必要はありません。

 あとはJリーグとリーグワンとの話し合いも重要だと思います。Jリーグが決まるまで何も決まらない、ではなく、リーグワンとしてここで必ず試合をしたいから検討をお願いするとか。リーグ間同士の話し合いをもっと密にできれば、同じスタジアムを使うクラブ同士の話し合いもスムーズになると思います。

――ちなみに、ブルーレヴズのホスト開幕戦は昨季同様、第2節になりました。

 実は、われわれはリーグワンが開幕して過去2シーズン、開幕節(第1節)でホストゲームはできていません。今年こそくるかなと思ったけど、順位で決めると言われ(各カンファレンス内の奇数順位が開幕戦のホストに)、今年も第2節になりました。
 ただ、順位で決める場合は確率的には第1節でのホスト開催が一生来ない可能性がありますよね。それは事業の公平性からいえばどうなのかなと。去年開幕節でホストのチームは今年は第2節になる、となってもいいはず。
 もっと事業的な観点から検討や調整をしていく発想があってもいいと思うんです。例えばプロ野球では今年エスコンフィールドができたので、日ハムのホーム開幕戦を最初に持ってきましたよね。上位リーグに昇格したてのチームがあれば、開幕節にホストやらせてあげようとか、競技的な公平性が担保されていれば、事業的にはいろんな要素、恣意的な判断があっていいはずです。

――ホスト開幕は第2節とはなりましたが、どんな準備を進めているのでしょう。

 まずは1万4000の動員でヤマハスタジアムを満員にすること目標に取り組んでいます。
 まだ発表できないのですが、ギブアウェイであったり、各種イベントを五郎丸くん(歩CRO)中心に考えてもらっています。W杯の仕事が多忙で会社にいられない日は多いですが、海外から会議に参加してくれたり、できる限りのことを頑張ってくれています。こうした仕事が入るのは分かっていたので、W杯に入る前までにいろんなところへの交渉や調整をやってくれていました。

 10月21日にはキックオフイベント”REVS HOUSE”もあります。こうした選手と触れ合える場を、今季はシーズン通じてたくさん設けていこうと思っています。コロナでそうしたことがなかなかできませんでしたが、本来すべきこと、やりたかったことをできるようになってきました。


PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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