家に帰らず日本代表に。アマト・ファカタヴァ、進歩の過程。

『Go big or go home』
大きくなるか。家に帰るか。
このことわざが好きだ。アマト・ファカタヴァは言った。
「私は、家に帰るつもりはありません」
トンガ出身で28歳のアマト・ファカタヴァが、初めてラグビー日本代表に選ばれた。
ワールドカップ・フランス大会を今秋に控える2023年初夏のタイミングで、常連組との競争に挑む。
「トンガという小さな島国から日本にやってきてから、ずっと日本代表になりたいと夢見てきました。私のしてきたハードワークが報われた。幸運だった感覚もあります。新しい章が始まった感じでわくわくしています。これからもハードワークを続け、日本が僕を誇りに思うようなプレーをしていきたいです」
ニュージーランドのティマルボーイズハイスクール、マリストアルビオンラグビークラブでのプレー経験を経て、2015年に来日した。速さと強さが売りの攻撃的なNO8として、入学した大東大で1年時からファンを驚かせた。
双子の兄でLOのタラウとともに、ファカタヴァ兄弟としてその名をはせた。
「兄は僕が何をやろうとも必ずサポートしてくれます。物の善し悪しについて直接、伝えてくれます。大きなお兄さんを、いつも慕っています」
来日当初こそ、言葉の壁には悩まされた。もっとも、チームメイトの心根の優しさに感銘を受けた。どこへ行っても清潔で、食事のおいしいこの国が好きになった。
「また、文化的に優しい人が多いとも感じます。自分が何か間違ったことをしてしまっても、相手の方がごめんねという言葉をかけてくれます」
現所属先のリコーブラックラムズ東京に入団したのは、2019年のことだ。いまは住まいのある世田谷で回転寿司を食べたり、1歳6カ月になる息子とスターバックスのドライブスルーに出かけたりするのが息抜きになっている。
昨年、転機を迎えた。それまでけがが多かったのを反省し、取り組みを変えた。時には、オフを返上してトレーニングに励んだ。
「よりよい選手になるには、また自分が達したいレベルに達するためには何をすべきかを考えるタイミングだったのかもしれません。何かを変えなければいけないと感じました。息子が生まれたことで、さらにそう思わされたところもあります。毎年、同じことの繰り返しではいけないと思いました。見えないところで仕事ができたことが、私にとっての大きな変化でした」
内なる変化を実感して迎えたのが、昨年12月からのリーグワンだ。
「今年を、私にとってのラグビーのベストイヤーにしよう」
FL、NO8として、レギュラーシーズン全16試合に出た。学生時代から披露してきた突破力に加え、接点周辺での激しいファイトでも光った。
身長195センチ、体重118キロの体躯で献身的。6月12日からの日本代表浦安合宿でも、その存在感をアピールできた。主力のFL勢が故障からの復帰を目指す間、爪痕を残せるか。
理想に掲げるのは、「コーチがコーチしやすい、ハードワークできる選手」だという。
「コーチに指示されるまでもなく何をすべきかを知っていて、よりよい選手になるためにしなければならないことができる人を指します。努力は人に見られる必要はないとも思うようになりました」
トンガ出身の日本代表選手とは、かねてから仲がいい。
特にファウルア・マキシ、テビタ・タタフは同じトンガカレッジ(ファカタヴァ自身は高校2年頃まで在籍)出身で互いをよく知る。独身のタタフはよく、ファカタヴァの自宅へカヴァを飲みに来るという。環太平洋独特の飲み物だ。
多国籍からなる日本代表へ、新たな個性が加わりつつある。
「JAPAN XV」名義で戦う8日のオールブラックスXV戦で、ファカタヴァは2列目のLOとして先発する(東京・秩父宮ラグビー場)。