「イシレリと同じように」。PRでW杯を狙う、シオネ・ハラシリの信じる言葉

17番を背負う男は、おそらく後半途中、1番のクレイグ・ミラーからバトンを受けてピッチに立つだろう。
フロントローとしてはほとんど実績のないシオネ・ハラシリが、7月8日(土)にオールブラックスXVと戦う、ジャパンXVのメンバーに入った。
リーグワン2022-23では大活躍だった。
史上最高位の3位と飛躍した横浜キヤノンイーグルスで、チームにモメンタムを与える存在となった。
プレーオフ2試合を含む全18試合に出場。抜群の突破力で6トライを記録した。
ただ、そのほとんどがNO8としての出場。フロントローとしての先発は、第4節の花園近鉄ライナーズ戦だけだった。
アマナキ・レレイ・マフィが第6節で負傷して戦列を離れ、8番を任された。そんな事情もあり、1番の練習もほとんどできなかった。
180センチ。国際舞台では、高さが求められるFW第3列より、フロントローの方が未来は明るい。
そう進言され、日大時代からその準備はしていた。
ほとんどの出場機会で8番を背負うも、大学4年時の関東大学春季大会の明大戦に1番で先発。その年の秋にも、中大戦では後半途中からPRに入った。
3年時も、先発と途中出場で計2試合、フロントローでプレーした記録が残っている。
ワールドカップ(以下、W杯)へ続く道は一本道だ。
日本代表スコッドの発表時、藤井雄一郎ナショナルチームディレクターはハラシリについて、1番でインターナショナルレベルに成長するしか可能性はない、と明言した。
そう言われて臨んだ浦安(千葉)合宿で、ハラシリはヘトヘトになった。
過去の代表合宿を何度も経験してきた選手たちでさえ、「これまでで一番きつい」と漏らすほどの過酷さ。初参加のハラシリが、大きなダメージを受けるのも当然だった。
さらにフロントローとして鍛えられるのだから、「(スクラムは)まだ楽しいとは思えません。これまで(のラグビーの練習)でいちばん大変」と本人は漏らした。
特に、対人で組む練習に苦労する。トイメンの選手との駆け引き。正しい姿勢の維持。周囲との密なコミュニケーションも求められる。
頼りになるのはスクラムドクター、長谷川慎アシスタントコーチの存在だ。
2019年W杯では、もともとNO8で活躍していた中島イシレリを短期間で鍛え上げ、大会の全4試合に出場する戦力にした人だ。
同コーチの伝える理論には独自性があり、日本のスクラムを強固にするエッセンスが含まれている。
「慎さんは毎日、いろんなことを教えてくれます。これまで(スクラムを組む直前に)下を向いていましたが、前を向けとアドバイスされ、相手にのられなく(上から体重をかけられなく)なりました。自分でも、うまくいっているように感じています」
スクラムを組んだあとは、ふくらはぎが疲れる。これまでになかったようなところに筋肉の張りが出る。
自身の現在の最大の強みはパワフルなペネトレート。スクラム強化と突破力を並行して高められればW杯がより近づくから、「頑張るしかない」と奮起を誓う。
「いつもバックローに戻りたいと思っています」とジョークをとばすも、「ポジションはどこでもいいからワールドカップに出たい」が本音。
ジャパン首脳陣が「世界8強レベル」と見るオールブラックスXV相手に結果を残したい。
「イシレリと同じように間に合わせる」という長谷川コーチの言葉を信じて、スクラムの面白さがわかる日を待つ。